9月16~20日(現地時間)、2023年春夏シーズンのロンドン・ファッション・ウィーク(London Fashion Week以下、LFW)が開催された。エリザベス女王の服喪期間とあってパーティーは中止されたが、リアルのショーは継続。「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ(LVMH YOUNG FASHION DESIGNER PRIZE以下、LVMHプライズ)」受賞歴のある若手デザイナーから、くすぶっていた中堅、久々にカムバックを果たしたベテランまでをダイジェストで振り返る。
メンズを初披露の「シモーン ロシャ(SIMONE ROCHA)」
今季のLFWで最も盛大なスタンディングオベーションを獲得したのは「シモーン ロシャ(SIMONE ROCHA)」だ。中央刑事裁判所を会場に行ったショーで、ウィメンズに加えて初となるメンズコレクションを披露した。メルヘンで脆い少女性を持った世界観は変わらないが、男性服のユーティリティの要素をハーネスやストリングから引用し、ボンバージャケットやバルーンのように膨らんだドレスに異なるボリュームを与えて変幻自在に多様なシルエットを描く。メンズコレクションをスタートするにあたって焦点を当てたのは、仕立ての良いジャケットとミリタリー。曲線的なアウトラインのフェミニニティ、と実用性に長けたマスキュリニティが心地よく協奏した。男女で共有したペチコートやベールは体を保護し、タフさが増したルックにロシャらしい甘味なスパイスを与える。
メンズをスタートさせた経緯を、「すごく自然なことだった」とロシャは話す。「昨シーズン、男性モデルにウィメンズウエアを着用させたことで、既存の物語に新たな展開を与えるためのエネルギーを得られた。過去10年間に女性のために行ってきた全てのことの対比について考え、男女の間でこの世界がどのように交錯するのかを見たいと思った」と続けた。愛や喜びといった甘美の中に、解体したコルセットや異素材を繋ぎ合わせたラッフルには何かに反抗する怒りが感じられ、チュールがふわりと揺れる度に感情の粒が空間に浮遊した。メンズウエアの制作が影響して強さが増したクリエーションは、見る者のさまざまな感情を喚起して、ショーは盛大な歓声で閉幕。ここ数シーズンは現状維持で、大きな変化が見られなかった印象だが、早くも次シーズンを期待させてくれる前進ぶりだ。「過去2年間はブラックホールにはまったようだった。抜け出すために不快な感情を洋服に転換させて、美学を強化するために活用した。前進したいという切迫した感覚が今季の源にある」とロシャは説明した。不快な感情と向き合い、掘り下げることで、精神と美学を向上させることもあるようだ。痛みは伴うが、価値があると彼女が証明した。
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