女性誌やウェブの美容特集で「ポーチの中身を見せてください」は、人気企画の1つだ。美容識者や一般の人が愛用する化粧ポーチを広げ、持ち歩くコスメを全て拝見する企画である。ひと昔前に「囲み目メイク」が流行した時代は、重ねづけ用としてマスカラを複数本、ビューラー、アイライン、パレットアイシャドウなど、目元アイテムをぎっしり詰め込んだポーチはなかなかに見応えがあった。
おそらく、今後(もしくは現在進行形で)このような化粧ポーチは減少するのではないだろうか。試しに検索すると、同様の企画タイトルには「ミニマリスト」「厳選」「最低限」といったワードが散見している。生活様式の変化とともに、Z世代の間ではすでに「物を持ち歩かない」意識が定着し、大人の女性の間でも同様の意識が広がっているからだ。
Z世代の間で「化粧ポーチ」が消滅した理由
今回もZ世代のリアルな声を聞くために、都内の大学に通う学生さんに協力いただいた。葵さん(21歳・三重県出身)、はるさん(22歳・佐賀県出身)、さやかさん(23歳・山口県出身)の3人に、まずは化粧ポーチを持っているか聞いてみた。
はる:持っていません。持っている子は、クラスで1人か2人くらい……?
さやか:私も持っていません。友達も消毒液とかハンドクリームとか、他のものと一緒に入れている感じ。
葵:家が遠くて“学校でイチからメイクする子”がいて、化粧品がぎっしり詰まったポーチを持っているのは彼女くらい?コスメ専用のポーチはほぼ見ないです。
彼女たちが化粧ポーチを持たなくなった理由は、バッグが小型化したこと。その背景には、スマホ1つで何でも事足りてしまうライフスタイルが関係している。
葵:食事とかコンビニはスマホで決済するし、移動もモバイルスイカを使うので、友達と遊ぶ時は“スマホが入る小さなポシェット”で出かけます。
はる:私は財布も現金も持ち歩く派ですけど、電子決済とかカードで払う子が半々くらいかな。友達もみんなバッグは小さめですね。
さやか:スケジュール帳や鏡も、たいていスマホがあれば間に合ってしまう。私も友達と遊ぶ時のバッグは、スマホさえ入ればいいかなと。
実際に、彼女達に財布と、友人と遊ぶ時用のバッグを見せてもらうと、あまりにコンパクトで驚いてしまった。財布はパスケースと見間違うような薄さ、バッグもスマホよりひとまわり大きいサイズで、確かに化粧ポーチが入る余地はなさそうだ。今回取材したのは交通網が発達し、電子決済が可能な店舗が多い首都圏の学生であって、全国的には事情も違うと思う。その一方で、過去に携帯が必須だった、手帳や鏡、財布などを「やろうと思えばスマホ1つで代用できる」のも事実である。
さやか:学校がある時は、パソコンや教科書、水筒を持ち歩くので、大きめのバッグを使います。ただ“なるべく物を持ち歩きたくない”というのは、皆共通して感じていることだと思う。大きいバッグはつい色々入れたくなっちゃうから、学校用もなるべくコンパクトなものを選びます。
外出先のメイク直しは「リップ+“棒もの”」?
荷物の軽量化が可能になったからこそ「なるべく物を持ちたくない」「持ち歩く必要もない」という感覚は理解できる。では、コスメに関してはどうだろう?あれこれ所有したくならないのだろうか?
葵:外出する時、絶対に持っているのはリップですね。
はる:写真を撮る時に塗り直すもんね。
葵:リップ以外は、人それぞれな感じ……?アイラインやマスカラを1~2品とか。
さやか:片側がペンシルで、片側がマスカラになってるアイブロウは一時期すごく流行っていました。
持ち歩くコスメとしてあがるのは「棒もの」中心、それも1つか2つのみだ。彼女たちにコスメに対する所有欲がないかというと、決してそんなことはなく、新作や話題のコスメはSNSで頻繁にチェックしているという。それを「外出先に携帯するか」というと、また別の問題のようだ。ちなみに「写真を撮る時に、テカリを抑えたい(ファンデを使いたい)」と思わないのか聞いてみた。
葵:肌は(カメラアプリの)フィルターがあるからいいかなと。
さやか:結局加工しちゃうので、肌はあまり気にしないですね。
はる:友達でパウダーファンデを持ってる子、見たことないです。小型のルースパウダーはいるかな。
パウダーファンデを持ち歩かなくていいなら、ますます化粧ポーチは必要なさそうだ。もちろん、Z世代の中には鏡やパレットタイプのアイシャドウ、そしてコスメ専用のポーチを持ち歩く人もいると思う。ただし、冒頭で述べたような「フルアイテムがぎっしり詰まったポーチ」は、この世代には響かないのではと感じた。理由は、葵さんのこのコメントだ。「必要なものはドラッグストアに大抵揃ってますし、コスメの場合、ECもあればフリマサイトもある。そもそも子供の頃から物も情報もあふれているので、普段から“自分に必要なものや情報だけ削ぎ落としていく”作業のほうが多い気がします」。
理想のモバイルコスメはコンパクトで多機能なこと
あれこれ持ち歩くのではなく、厳選したコスメを携帯するZ世代。「理想のモバイルコスメ」とはどんなものだろう?
はる:さっき話していたアイブロウみたいに、1品で多機能だと便利ですね。
さやか:小さくて色々な用途があるとつい買っちゃう(笑)
葵:スティック状で片方がアイライン、片方がマスカラとか便利だよね。
さやか:あと、リップで“スマートに塗り直せる”ものが欲しい。スマホを見ながら直すの、あまり好きじゃなくて。
はる:分かる。人前でリップを直す時いつも思う。
葵:ケースをスライドして、シュッと鏡が出てくるとかね(笑)。リップは大きめの鏡がついていると便利だし、塗る動作がキレイに見えるといいなと思う。
彼女たちのコメントを総合すると①形状がコンパクト ②1品で多機能 ③リップは大きめの鏡つき、あたりだろうか。最近発売した製品の中から、注目アイテムを選んでみたい。
唇にも頬にも目元にも使えるマルチカラー
「ローラ メルシエ(LAURA MERCIER)」から登場した“ティンティド モイスチャライザー ブラッシュ”は、肌に溶け込むようになじみ、自然な血色感やツヤを添えるマルチカラー。美容成分を配合したなめらかなテクスチャーで、チークを中心に、アイカラーやリップとしても活躍する。チューブタイプのグロスよりひとまわり大きいサイズで、持ち歩きにも便利。
コンパスみたいに折りたためる極細アイブロウ
「フジコ(FUJIKO)」の“美眉アレンジャー”は、 コンパスのように折りたためるユニークなアイブロウだ。片方に直径1.5mmのパウダーペンシル、もう片方に直径2.0mmの柔らかなコンシーラーをセットし、ペンシルで眉を描いたら輪郭をコンシーラーでなぞり、軽くぼかすだけで立体感の際立つ眉に。折りたたむと全長約9.5cm、幅約1.4cm、厚さ約8mmとコンパクトな点も魅力。
立体感を叶える韓国発・影色×ハイライト
Z世代に人気の韓国コスメ、「アイムミミ(I’m meme)」の“アイムマルチスティックデュアル”は、シェーディングとハイライトを1本で叶えるスティックだ。シェーディングは、太すぎず細すぎない適度な影を演出し、ハイライトは上品なシャンパンピンクで、肌に自然なツヤ感をプラス。顔はもちろん、鎖骨の周囲にぼかすことでデコルテを美しく見せる裏技も。
大きめミラーが魅力、モダンでラグジュアリーなリップ
リップを引き抜くと、ケースがパタンと開いて両面にミラーが登場する「ゲラン(GUERLAIN)」の“ルージュ ジェ”シリーズ。全44色のリップカラーと、全21種の“ルージュ ジェ ケース”を自在に組み合わせ、カスタマイズできる。誕生時からそのモダンなデザインが注目され、7月には、蝶の羽をモチーフにした“ルージュ ジェ ケース”の限定デザイン(全3種)が登場した。リップをつける動作の美しさにまでこだわり抜いたケースは、シーズンごとに新作や限定デザインが登場している。
大人の女性にも「モバイルコスメ」のニーズは存在する
実は最近仕事で会う30代以上の女性に、Z世代のような「小型バッグ」愛用者が増えた印象だ。スマホとカード(社員証や交通カード)が数枚入るサイズ感のポシェットで、通勤時には別のバッグも携帯するけれど、社内移動はこのポシェットとパソコンのみ。ランチの時は、ポシェットだけ持って外出するという。
このあたりは、スマホ中心の生活様式が、大人の女性にも浸透しているように思う。確かにこのポシェットに、マルチで使えるコスメが1つあれば、昼間の用事は案外事足りるかもしれない。そういう意味で、大人の女性にも「多機能でコンパクトなモバイルコスメ」のニーズが、一定数存在するのではないか。
さらにもう一歩進んで「なるべく物を持ちたくない」Z世代が、年齢を重ねた時に、どんなコスメが注目されるだろう? 現時点では夢物語ではあるけれど、印象的だったのが下記のエピソードだ。
はる:たとえば、唇にちょんとのせたら、そのまま自分の唇に反応して、キレイに色が広がるリップがあったらいい。
葵:すごい、近未来っぽい(笑)。でもそれ、肌で出来たら超便利かも。
さやか:究極的には本当にそれ。テクニックがいらなくて、本当に似合うものがあったらすごく欲しいと思う。
心の中で「そうだよなあ~」と深く頷いてしまった。目下、美容の世界において「人工皮膚」や「パーソナライズコスメ」は重要な研究テーマではあるけれど、進化の途上にある面は否めない。遠い未来に、彼女たちがいうようなコスメは実現するだろうか。少なくともZ世代の話しを総合すると、ごく近い未来において「多機能でコンパクト」「誰でも簡単に似合う」モバイルコスメの注目度は高まる気がしている。