「マメ クロゴウチ(MAME KUROGOUCHI)」は、2年半ぶりにパリでのショーを再開した。コロナ禍には、写真家の奥山由之による映像作品や日本で開催したショーの映像を通じて、デジタルでパリ・ファッション・ウイークに参加。1年を通して一つのテーマを探求している同ブランドは、「窓」に着目した2021年、そして自身の故郷である「長野」をテーマにした22年を経て、再びパリの舞台に立った。
黒河内真衣子デザイナーは、「日本で過ごす時間の多かったこの約3年間は、自分にとって必要な時間だった」とコメント。「ブランドの成長と共に10年以上という時間を経て、また次のステップへ行くタイミングだと考えている。『長野』をテーマにした自分にとってパーソナルなコレクションが終わった後、次にどこに向かうかを悩んでいる時に、やはり私は自分が暮らしてきた国の自分の好きなカルチャーからインスピレーションを受けているので、きちんとその一つにフォーカスしたコレクションを作ってみたいと思った」と振り返る。
そして、身の回りにある何気ないものに美を見出す彼女が23年春夏に目を向けたのは、竹かごや竹にまつわる文化。「お蕎麦屋さんに行ったらおしぼりを置くために出てくるなど、竹かごは日本人なら生活の中にあるもの。一方で、ギャラリーを訪れると、とても高価な芸術作品もある」と説明する。その中でも、カギとなったのは20世紀初頭に活躍した作家の飯塚琅玕斎によって生み出された花かごだ。「民具のようなものを高度な編みで作り直すということに、自分自身も共感した。美しい竹かごは、どんな花を生けても美しい。それは、人が着て完成される世界観のある服にも共通するもの」とし、その作品の数々からイメージをふくらませた。
飯塚の得意とした技法である「束編み」は、緻密な編みと⼤胆な透かしを駆使して、ニットウエアで表現。竹でできているとは思えないほど複雑かつ繊細な作品の模様は、ブランドを象徴する装飾表現ともいえるコード刺しゅうを発展させ、構築的なシルエットのスカートや細身のドレスに仕上げた。また、自身で描いたという竹モチーフの刺しゅうはシルクオーガンジーのブラトップやスカートに取り入れ、竹製のビーズを使ったマクラメ編みはウエアの上に重ねるピースとして提案。すっきりとしたシルエットのテーラードジャケットのダーツからポケット部分や、コートの袖に見られる有機的なラインは黒河内デザイナーの得意とするところだが、しなやかな竹のイメージとも重なる。ジャケットのポケット口に施されたステッチパイピングや、ウエストや袖口のデザイン、燻した真⽵と束編みの技法を用いたアクセサリーなど、細かな部分にもテーマが反映されているのもポイントだ。
「マメ クロゴウチ」の魅力は、ともすれば野暮ったくなったり、フォークロア感が強くなったりする伝統的なクラフトを、センシュアリティー漂う軽やかで洗練されたスタイルに落とし込んでいるところ。「センシュアリティーは誰かに見せていくものではなく、自分自身のためのもの。ブランドを始めた当時から、それが大切だと考えている。ただ、自分も歳を重ねていく中でより確立できてきたのかなと思う」と黒河内デザイナーは話す。今季は、パリで勝負する上で重要になるエレガンスやセンシュアリティーと、日本人らしい繊細さや工芸への探求心を併せ持つ独自の表現が光った。