ニトリホールディングスは、米国事業から撤退する。「現在の経済下での収益性改善が難しく、今後有望な市場と捉える東アジア・東南アジア地域への資金・人材の再配置のため、米国事業の撤退を決定した」と白井俊之・社長兼COOは語った。
ニトリの海外事業は2007年に台湾に海外1号店を出店。14年の中国大陸進出の前年の13年に「アキホーム(Aki-Home)」のブランド名で米国に初出店を果たした。17年度には5店まで増やしたが、現在は西海岸の2店に減少。タスティン店は今年12月、オンタリオミルズ店は来年4月に閉店し、米国子会社は23年後半をめどに清算する。
子会社ニトリの社長で、海外事業も担当する武田政則取締役は、激変する米国事業について、こう説明する。
「キーポイントになったのは、2019年にトランプ政権時代、中国から商品を輸入するに当たり、全てに25%関税を付けたこと。来年その期限が切れる前に、今年、最低でも4年継続することがおおむね見込まれたのが、非常に大きなターニングポイントだ」。
また「私どもが大変強化しているベトナムで作っている“Nスリープ”というマットレスは、どこの国でも売れ筋だ。だがトランプ政権時に中国・ASEANからの関税率が1000%になった。例えば1万円のマットレスを輸出すると、アメリカで原価だけで11万円になってしまう状況が続いてきた。私たちは中国で作ったもの、ベトナムの自社工場で作ったものなどを、マスの、数を使って(競争力にして)いきたかったが、完全に封鎖されてしまっている。続けるとなれば、南米や北アメリカ大陸で作らざるを得なくなってしまう。そうなってくると、2店なのでロットをかけた商品政策ができない。他社に全く対抗できなかった。それで非常に大きな判断をした」。
「船代は、私たちが出店したころは40フィートのコンテナ1台が2200ドル(約31万4600円)だった。今1万5000ドル(約214万5000円)、7倍だ。これに関税が25%かかる商品をアメリカまで運んだとしても、全く利益が計算できないという状況がこれからも続くということで、決断した」。
なお22年8月末現在で、台湾47店、中国大陸51店、米国2店、マレーシア2店、シンガポール1店の103店となり、海外店舗は初めて100店を超えたところだ。グループ全体の期末店舗数は843店となった。
ニトリホールディングスの2023年3月期の第2四半期決算(2022年3~8月期)は、売上高4230億円(前年同期比2.1%増)、営業利益690億円(同10.9%減)、経常利益704億円(同10.9%減)、当期純利益514億円(同4.5%減)と増収減益となった。粗利益額が為替の影響で71億円、コンテナ代などを含めた貿易費用が64億円マイナスしたことが響いた。粗利益率は51.3%と前期比比べて1.7ポイント低下した。国内EC売上高は405億円(同11/9%増)だった。
下期の重点施策として、売上げ伸長策では「生活応援値下げなど各種キャンペーン実施によるアイデア商品の認知拡大」や「新商品の開発による客層の拡大」「商品輸送にコストのかかる一部大型家具の価格見直し」「年内に計100店の改装」を実施し、より多くのお客さまへコーディネートを提案」の4つを中心に実施する。
店舗改装では、4~8月まで100店を実施し最新型店舗にしたところは、未実施店舗に比べて売上高が3~4ポイント向上するなど、結果が数字に表れているという。原価削減策では「産地移行、原材料変更、海上輸送ルートの最適化」「コンテナラウンドユースなど、港から物流倉庫までの物流スキーム構築による輸送コストの削減」「自社コンテドレージエリアの拡大による輸送コストの削減」「梱包方法、商品サイズの見直しによるコンテナ積載効率の改善」「島忠ホームセンター商品のPB(プライベートブランド)開発推進による粗利益率の改善」を図る。
さらに、経費削減として「セルフレジ、セルフ注文カウンターの導入による買い物利便性と従業員の生産性向上」「物流拠点の新設・改廃による店舗での商品入荷効率の向上、物流費用の削減」「ワンマン配送エリアの拡大による物流経費の削減」を行う。
白井社長は「経費削減できるものはして、我慢できるものは我慢する。一方で未来に向けた投資は行っていく」とし、集合研修を本格的に再開し、アメリカ視察セミナーを3年ぶりに復活し来春、約600人・3泊で実施するなど、特に教育投資に注力する考え。
今期は決算期を変更し13カ月変則決算となるが、2023年3月期の業績予想は変更せず、売上高9636億円(前期比18.7%増)、営業利益1506億円(8.9%増)、経常利益1530億円(同7.9%増)、当期純利益1040億円(同7.5%増)と、36期連続の増収増益達成を目指す。
恒例の似鳥昭雄会長兼CEOの景気・為替見通しや今期の戦略や業績についてのコメントは、以下の通り。
似鳥昭雄会長兼CEO:為替は9月までは114円で予約して、その後はアメリカの景気が悪くなる方が為替よりも強いのではないかと予測したが、今のところ外れたなと正直思っている。ようやく最近、アメリカの住宅や他の数字を見ていると、住宅も3割ぐらい下がってきている。より一層、急激に10月以降、景気が悪くなると思う。それと為替は年内中に円高の方に向かってくると思う。
日本自体はマイナス金利で、(日銀総裁の)黒田さんが上げないといっているので、3月か4月に次の人に変わらない限りは上げない可能性がある。アメリカの景気次第になる。為替介入したが、ほとんど効果がない。金利を上げるしか効果がない。何回かやっても日本の一国だけでは大きな金額ではないので。アメリカが協調しないと無理だと思う。そこまでいっていない。アメリカも不景気になり、ドルが売られてくるのを待って、期待している。
為替は5年間ぐらい500億円ぐらい為替ヘッジをして、必ず長期で、2年とか2年半で買ってきたが、今回だけは長期で買わなかった。いろんな人の話を聞き過ぎた。金融やアナリストの人たちの話を聞いて、半年とか1年単位で買ってしまった。正しいと思うが、長期的に為替が上がっていく場合は早めに買って、常に2年か2年半で押さえていったのを、今回だけはそれをしなかった。僕は最大の間違いだったかなと。もう二度とそういう間違いはしないようにしようと思う。人生で初めての失敗だったなと思う。やっぱり全てのことは長期的に見ないと駄目だなと思った。経営もそうだが、為替だろうと、株であろうと。株も長期で考えなければならない。短期の売り買いでは成功しない。為替も同じく、人類の経験法則から、短期ではまずい、長期でないと失敗するよと。今回経験して初めてそう思った。
釈迦に説法で申し訳ないが、(為替は)必ず上がったら下がっていく。やがて必ず円高になっていく。日本の政策も変わるだろうし、アメリカも不景気になるし、全世界的に不景気になっていくだろうし。来年以降は緩やかな円高が続いていくだろう。今のような状態が何年も続くわけではない。逆に今がチャンスだと思う。今のうちに筋肉質に変えていく。ずっと今まで増収増益で、かなり「それいけどんどん」という形で売上げの拡大に力を入れてきた。無駄・ムラ・無理をやっていたが、どうしても前向きの方にいってしまった。今は筋肉質に変えて、ありとあらゆるコストを下げていく。改革をするときだと思う。身軽にしていく。
私も筋トレして筋肉を増やし、ゴルフもけっこうやっているが、身体を鍛えるのと同じ、会社を鍛えるときだなと。教育も相当お金をかけていく。この2年間、アメリカにも行ってなくて、コミュニケーションも足りなくて、コロナになってから、おざなりになり、社内の面で足りなかったと思う。逆にチャンスだと思ってものすごく力を入れていく。
白井社長も子会社ニトリの武田社長も全国を回って社員とのコミュニケーションや方向・方針を話している。今年ばかりは苦しいが、ネバーギブアップ、最後まで目標を掲げて努力したい。ですけど、チャンスの年と捉えて、来年以降拡大していきたい。
今年は(出店目標の)140店にちょっと未達かもしれないが、数を増やし、毎年200店にしていきたい。そういう足がかりの年だと思う。こういうときでさえ、逆に店を増やしていく。そういうところを認めてほしい。将来に対して積極果敢に挑戦していきたい。
今まで人材も実績も足りなかったが、今はTOEICでも700~800点が500人ぐらいたまってきた。採用しただけじゃ駄目。5年ぐらい鍛えないと海外に出店するのに使えない。店長クラスをぼんぼん海外を増やすのに、TOEICや英会話ができる人がようやく育ってきた。来年は日本と同じぐらいの数を海外に出店していきたい。日本と海外の数を同じか、海外の方が逆転するようにしたい。海外に力を入れていく。
製造メーカーの方も、カーテンの工場も3年目に入ってようやく軌道に乗った。新しいカーテン工場を新設し、機械も発注した。生産も倍以上になる。タイのカーペット工場も、土地を買って新しい工場を建てていく。将来に対する投資している。ベトナムのハノイにも12万坪の土地を買って工場を建てていく考えもある。未来に対して着々と進めている。
物流センターも石狩に2万3000坪の新しいものを機械化した。200m×250mのサイズで、AIと機械で商品を移動させる。少ない人数で運営できる。今8カ所あるが、年度末には神戸、次が名古屋、九州、埼玉の幸手も日本最大の6万坪。2025年までの5年間に3500億円を投資して、海外からの物流網を近代化していく。未来に対して積極的に進めている。今年は大変だが来年以降、期待していただきたい。
また米国事業について、ニトリ会長は常々「アメリカはコーディネートの横綱だ」といっていた。進出当時はニトリは十両だと。それが池袋に出たぐらいでやっと大関か小結ぐらいになったと語っていた。「ベッド・バス&ビヨンド」「ターゲット」「ウォルマート」など日本にはないディスカウンターの業態があり米国は難しいという話はされてきたが、一番の撤退の要因分析は?かなり思い入れがあると思うので、捲土重来はいつ図ろうと思っているのか?
私も夢を持ってアメリカに出店したのが9年前。残念ながらやはり世界で一番競争が激しい、特にロサンゼルスは厳しい。無理だった。大変申し訳ない。
一番は「ウォルマート」や「ターゲット」「アマゾン」などの競争力が非常に強くて、アメリカにある企業さえ業界がなくなってしまうという、われわれが想像していた以上に進化・発展を遂げている。「アマゾン」は毎年5兆円ずつ売上げを伸ばして60兆円ぐらいになり「ウォルマート」もあれよあれよという間に70兆円を超えている。すると業界そのものがなくなってしまう。家電は売上げが取られてベスト5などは売場貸しになり、書店も大手は数百店を持っているところが全部なくなった。スポーツもなくなっている。ただ「スポーツオーソリティ」など日本があるところは残っている。日本は競争が甘いから。「トイザらス」もそう。本体は倒産したけど、日本だけは残っている。だから日本は競合状態で競争ではない。
僕もアメリカに進出したのが失敗したなと思った。競争がもっと進化しているアメリカに進出するのが間違っていた、早かったなと、出店してから気が付いた。だけど出店したからには、何とか黒字になるまでと思ったが。最初、毎年10億円ぐらい赤字を出していて、最近は5億円ぐらいになっていた。でも、伸びてくるならいいけれど、このままいっても、コロナの後遺症も残っているし、無理だなと思って、早めに撤退した方がいいだろうと。ちょっと恥ずかしいし申し訳ないと思ったが、ギブアップした。
ただ、諦めたわけではなく、再度(体制を整える)。僕はホームファッションではもう無理だと思う。「ベッド・バス&ビヨンド」も一時は1兆5000億円ぐらいになり、利益も3000億~4000億円にいったが、今年だけでも400億~500億円赤字になっている。3000億円の黒字が、500億円の赤字に数年の間になってしまう。それぐらいアメリカは競争が激しい。ですが家具においては可能性がある。その場合はゼロからではなく(M&Aや提携をしていく)。何件かあったが、100店以上のところが2カ所ぐらい、コロナの前に、買収しませんかと話があった。そのときは人材もいなかったし諦めたが、そういうチャンスが家具においてはこれかあると思う。
まずは撤退して、来年から5億円ぐらい赤字が助かる。撤退で不名誉だが仕方がないなと。その代わり、アジアの出店を(強化する)。新しくシンガポール、マレーシアに出た。準備しているのはタイとベトナム。調査はフィリピン、韓国など、韓国はEC・ネットで販売している。
インド、オーストラリア、ニュージーランドなどまだアジア近辺には出店するところがたくさんある。今、調査をしていて、出店をしていきたい。まずはアジアで出店して固めていきたい、と考えている。
だから、海外の店舗も早く軌道に乗せて、早く年間100店オープンしたい。次の数年のうちに。そういうシステムを築く。だから、どんどん日本の店舗開発の人を、中国を筆頭に海外に出向させている。「ユニクロ」みたく、半々ぐらいの売上げと利益に持っていきたいなと思っている。