「ロエベ(LOEWE)」のファッションショーの招待状は、植物のアンスリウムと一緒に送られてきた。印象的な赤の部分(仏炎苞という)は独特の見た目と触感で、まるでプラスチックのようだが立派な植物だ。
見た目はプラスチックなのに、実際は植物。こうした見た目と実際の乖離と、自然とデジタルの調和を探求すべく2023年春夏メンズで融合を試みた植物と洋服の関係性が、ウィメンズ・コレクションでも大きなテーマとなった。
ファーストルックは、前から見るとクリノリンが入ったベルベットのミニドレスだ。しかしボリュームシルエットを形作るワイヤーは体の前面にしか存在せず、後ろはむしろスリムなシルエット。前からの姿が「見た目」で、後ろからの姿が「実際」だとしたら、このドレスも「見た目と実際」が乖離している。その後は金属製のアンスリウムで作ったベストや、片胸を同素材の小さなアンスリウムで覆ったレザーのミニドレスが続く。そもそもアンスリウム自体「見た目と実際」が乖離しており、そのアンスリウムをメタルで作った造形物もまた「見た目と実際」が乖離しており、そんなものを洋服に使うこと自体もアンスリウムという「見た目」と洋服として用いられた「実際」の乖離だ。「本物」って、なんだろう?メタルで作ったアンスリウムは、見た目も触感も本物そっくりなのに偽物なのだろうか?それでも洋服として用いるのなら、本物ではないのだろうか?そんな揺さぶりをかける、ミニマルながら示唆に富んだ洋服だ。
アンスリウムの仏炎苞は、さまざまなアイデアで洋服のシルエットにもなった。例えばポロ襟のミニドレスは、カシミヤ素材でもテクニカル素材でも高密度に編んで、裾は柔らかなペプラムを形成。モダールのような素材で作るドレスのジャージーは、アンスリウムの花弁のように屹立(きつりつ:いきり立つ、という意味)した突起から下に垂れ下がり、優しいドレープを描く。前面にウレタンを入れたニットは、胸の前で仏炎苞のように巨大な曲線を描いた。極め付けは、ハンティングジャケットだ。普通ならオイルドコットン製のハンティングジャケットはちょっぴり野暮なところが可愛らしいくらいだが、こちらも裾に向かって末広がりのカーブを描く。こんなに美しいハンティングジャケットは見たことがない。イギリス出身のジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)らしくもある。
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