2年半ぶりにパリでショーを開いた「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」が会場に選んだのは、郊外にあるイベントホール。ガランとした箱状の空間は暗く、中央あたりには布で作られたような巨大なオブジェが飾られている。今回は8月に三宅一生氏が亡くなって以来初のショーになることから、冒頭には壁面のスクリーンにポートレートと「I believe there is hope in design. Design evokes surprise and joy in people.(私はデザインには希望があると信じている。デザインは、人の驚きや喜びを呼び起こすものだ。)」という三宅氏の言葉が映し出され、故人を偲ぶ時間が設けられた。これは、三宅デザイン事務所から、1973年から発表を続けているパリや来場者、フランスオートクチュール・プレタポルテ連合会への感謝の意を示したものだという。
今シーズンのテーマは、「A Form That Breathes-呼吸するかたち-」。ショーは、三宅氏が追求にしていた「一枚の布」というコンセプトに通じる、彫刻のトルソーの形を一枚の布のドレーピングで立体的に表現したシリーズから幕を開けた。近藤悟史デザイナーは今季、デザインチームと共に、土を捏ねて彫刻を作るところからクリエイションをスタート。「服を作る前に彫刻を作ることによって、形に対する概念をもう少し柔らかくしたいという思いがあった。彫刻は硬いものだが、呼吸しているような感じや生き生きしているモノを作りたいと考え取り組んだ」と明かす。
その後も、肩のラインを誇張したコートやシャツ、いくつもトゲが飛び出たようなリサイクルポリエステルの無縫製ニット、膨らみと絞りのコントラストが面白い透け感のある無縫製ニットなどが登場。彫刻を基点に、新たなフォルムを模索している。また、中盤には、部分的に円形のハンドプリーツを施したスーツやドレスも披露。東レとの提携により開発している原料が100%植物由来のポリエステルを使用することで、素材の可能性の探求も続けている。そんな素材については「風合いは植物由来なので天然繊維に近い雰囲気があるが、ポリエステルなのでプリーツをかけることができる」と説明。 実際の商品化を目指して取り組んでいるという。
フィナーレには、コンテンポラリーダンサーがしなやかに舞い、その中をさまざまなスキントーンのウエアを着たモデルたちが群をなして歩く。そこからは、”肌の色や人種、ジェンダーに関わらず人々がつながること”という今の世界に必要なメッセージをあらためて受け取る。ただ、それをあくまでも軽やかかつハッピーに表現しているのが近藤デザイナーらしい。心が解き放たれたように笑顔で走ったり、踊ったりしながらバックステージへと戻っていくモデルたちの姿は、希望と高揚感にあふれ、会場は大きな拍手で包まれた。
「プリーツ プリーズ イッセイ ミヤケ(PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE)」などのデザインチームを経て三宅デザイン事務所に移籍し、三宅氏本人の指導を受けてきた近藤デザイナーは、「僕をここまで育ててくれたのは一生さん。そのフィロソフィーは、これからも大切にする。ただ、一生さんが作っていたようなものをそのまま作っていたら怒られるので、自分らしく表現しようと心がけている」とコメント。「イッセイ」イズムを受け継ぎ、未来に向けて進んでいくことへの覚悟を感じるショーだった。