不要な衣料品の回収・リサイクルが何かと話題だ。しかしこれまで「作る」と「売る」に集中してきたファッション業界の大多数にとって回収・リサイクル、循環は「知らない世界」である。そこで、リサイクルや資源循環の識者2人に、循環経済を実現するにあたりアパレルや小売りが持つべき視点を整理してもらった。産業廃棄物のプロである中台澄之ナカダイホールディングス代表取締役と田中浩也慶應大学環境情報学部(SFC)環境情報学部教授だ。対談では業界関係者にとっては耳が痛い言葉も飛び交ったが、現実を知るプロならではの、地に足がついた意見は聞く価値大。中台代表は鹿児島県・薩摩川内市で、田中教授は鎌倉でそれぞれ地域循環のプロジェクトにも携わっている。
WWDJAPAN(以下、WWD):この対談で多く登場することになる「リサイクル」や「循環」についての、まずはその定義を教えてほしい。
中台澄之ナカダイホールディングス代表取締役(以下、中台):リサイクルと循環とでは少し話が異なる。リサイクルは、次に使う人を探して渡すこと。一方循環は、回収した素材を次に使う特定の誰か、どこかのために加工するステップが入る。
田中浩也慶應大学環境情報学部(SFC)環境情報学部教授(以下、田中):そもそも“リ・サイクル”は“サイクル”という言葉が入っているので誤解を生みやすい。サイクルとは輪のことなので、間違ってリサイクルと循環とを同じものかと思ってしまう。でも実は違う。自治体では「リサイクル率」という数字を使っているが、これは「焼却や埋め立てをせずに資源化にまわした割合」というだけで、サイクルが完成したわけではないので、循環とは異なる。また、循環とは「輪の入り口と出口がつながること」と狭く定義してしまうと、ペットボトルのように同一製品から同一製品ができる水平リサイクルだけがその定義に乗ることになるが、それでは狭すぎるようにも思う。
中台:アップサイクルも水平リサイクルもカスケードリサイクルも含めて、廃棄物を活用することは循環だと思う。何のためにそれをやるかと言えば、CO2の削減のため。地球温暖化が進み、このまま進むと人間が住めなくなるので、自然環境と人間が共存する世界を作らなければならない。そのためには今までの物の作り方と捨て方ではまずい。アップサイクルでも水平でもカスケードでも新品を作るよりもCO2を削減できていることが定量的に評価できれば僕はどれをとってもいいと考えている。
WWD:廃棄物がもう一回何らかの製品になれば、循環ということか?
中台:製品にならなくとも石油を掘るというところから始めなければそれでいいんじゃないかと、シンプルに考えている。CO2削減の究極の方法は水平リサイクルを永遠に行うことで、それに向けた技術開発は必要だけどすぐには難しい。再生時のCO2排出量などの議論はあるが、もう少し大きな視点で、目の前の資源を無駄にしない、端的なところから脱酸素に向かわせることが資源循環のベースにあると思う。
田中:ただ、輸送の距離が長くなると焼却した方が実はCO2排出量が少なくなるなど、循環は進む一方で、CO2量が増えるというパラドックスが起こるケースもある。また大量生産・大量消費・大量廃棄社会が結局、大量生産・大量消費・大量リサイクル社会に変わるだけでいいのか、という議論もある。だから僕は物を作る量自体をトータルで減らしたり、修理をして長く使ったりすることで少し抑制していくことも必要だと思う。また、デジタル化で物の所有だけでなく、バーチャルで経済を回すという議論もある。
WWD: 産業廃棄物を日々扱う中で考える課題とは。
中台:課題は2つあり、ひとつは加工をするためには、回収した廃棄物の組成の認識が必要だが、その情報がなさ過ぎて困っている。もうひとつの課題は、不安定・不定量である点。捨てられるものが不安定・不定量では循環は、難しい。
WWD:確かに捨てられた物の情報、は業界で話題になることはほぼない。
中台:おそらく多くのメーカーが自分たちの製品が大量に捨てられた状態を見たことがないと思う。何が原因で捨てられたかもわかってないのでは?製造側の理屈で、リサイクルしやすいとか、解体しやすいとは言っているけれど、われわれの現場では、どれだけリサイクルしやすかろうが、解体しやすかろうが、使い倒した商品は、プラスチックが劣化していて、何もできないということが起こっている。なので、状態を可視化することが必要だと思う。
ファッション業は正直になる必要がある
WWD:ファッション業界の課題をどう見ているか?
田中:ファッションはブランド戦略でもあるので、一社一社ばらばらで、でも結局「地球にやさしい」「サステナブルです」の大号令で、広告合戦風になってしまう。もう少し連携して同じ材料のものをそろえれば効率化できるのに。家電業界の発想がファッションにはないなと感じる。
中台:まさにその通り。ファッションの分野は捨てられた後の世界について、目をつぶりたい、隠したい構造だと思う。入口の「オーガニックです」「エシカルです」的なところに焦点を絞りがち。あと、“できている感”を出す点も気になる。回収してリサイクルできている感を出すが、実際はそうじゃない。「できています」アピールが強すぎると他のプレイヤーと協業が進まないだろう。
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