「アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER MCQUEEN)」は、ロンドンで2023年春夏コレクションのランウエイショーを現地時間10月11日に開催した。前シーズンのニューヨークでのショーを経て、今季はホームタウンのロンドンに独自の発表スケジュールでカムバックした。
ショー会場は、ビニールハウスで作ったバブルの空間だ。ショーセットは再利用可能なものを選び、ユネスコ世界遺産の旧王立海軍大学(Old Royal Naval College)の敷地内に設けた。クリエイティブ・ディレクターのサラ・バートン(Sarah Burton)が今季のテーマに選んだのは、“First Sight(初見)”だ。「クリエイションの出発点になったのは、この暗黒期かのような困難な時代に、私たちはどのようにして人間性を見つけられるかという問い。私にとって、その答えは“瞳”だった。指紋のように個々に異なる最もユニークな部位であり、互いを認識し、物事を捉えることができる。“瞳”には人間味がある」。コレクションを通して、混沌とした現在の世界を新たな視点で見つめ直す。
ファーストルックは、大きな瞳をハンドペイントした脱構築的なドレス。ショーがスタートすると、シートに座るゲストと瞳が順にアイコンタクトを交わしていく。男性のユニホームであるテーラリングとタキシードには大胆な切り込みを入れて、隙間から肌を覗かせて女性の体を美しく飾る。ビスチェとベルトで女性らしい曲線的な体のラインを強調させ、スカートとドレスの裾はドレープによって大きく波打つドラマチックなデザイン。シアー素材とベルベットというコントラストを効かせた異素材ミックスで胸元にシャープなラインを描き、ライダースジャケットを再構築したアシンメトリーなスカートは脚を大胆に露出する。終盤に向かって切り込みのディテールはより強くなり、肌の露出は大胆になっていく。しかし、そこには官能性よりも強さや柔軟性、そして女性の体への賛美が込められていた。バートン=クリエイティブ・ディレクターは「女性が女性のために、洋服を通してエンパワーすること、美しいプロポーションを与えることを常に考えている。男性目線の装飾では生まれない何かがある」と述べた。
世界を俯瞰で見るということ
「アレキサンダー・マックイーン」2023年春夏コレクションより
同氏はさらに、意外な着想源があることも明かした。ロンドンのデザイン博物館(Design Museum)で見た、火星探索をテーマにした展覧会にも触発されているという。「宇宙で撮影された地球の写真は、本当に美しい一枚だった。私たちが生きている世界は美しい。知っているつもりになっていることも、もう一度目を見開いて物事を見つめ直す必要があると感じた」。
そのアイデアを分かりやすく反映しているのは、ヒエロニムス・ボス(Hieronymus Bosch)の作品「三連祭壇画」を刺しゅうで描いたルックだろう。同作は天地創造の地球が描かれたボスの最も著名な絵画で、「快楽の園」は誕生から500年以上経った今でも美術史家の間で作品の解釈が議論され続けている。
人間の愚行と罪の断罪の描写によって美しさと醜さが共存する同作品にバートンは惹かれ、今季最も伝えたかったメッセージをそのルックに込めたようだ。「生死、破壊、美しさの全てがこの作品に描かれており、それはブランドの美学にも通じる。初見では荒々しくて、無秩序に見えるかもしれないが、細部まで目を凝らして見てほしい。そうすれば、暗闇に美しいものがたくさん潜んでいることが分かる。私たちの瞳には、美しいものを映し出す力がある」。