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ダイアナ妃の悲劇を描いた映画「スペンサー ダイアナの決意」 主演クリステン・スチュワートの熱演とスタイル【エンタメで読み解くトレンドナビ Vol.8】

※本記事は一部ネタバレを含みますので、未鑑賞の方はご注意ください

 映画やドラマなどのエンタメを通して、ファッションやビューティ、社会問題などを読み解く連載企画「エンタメで読み解くトレンドナビ」。LA在住の映画ジャーナリストである猿渡由紀が、話題作にまつわる裏話や作品に込められたメッセージを独自の視点で深掘りしていく。

 第8回は、故ダイアナ・フランセス(Diana Frances)元皇太子妃のクリスマス休暇を描いた映画「スペンサー ダイアナの決意(Spencer)」について。2022年は元皇太子妃が悲劇的な事故でこの世を去ってから25年という節目の年。彼女の存在を振り返るのにふさわしいタイミングであり、彼女の苦悩と希望を描いた同作に注目が集まっている。今回主演を務めたクリステン・スチュワート(Kristen Stewart)の演技をはじめ、スチュワート扮する元皇太子妃が着用した衣装などについて迫る。

 世界中の人々に愛された元皇太子妃が亡くなって25年。「ダイアナ・フィーバー」を巻き起こした彼女の人生を物語る「スペンサー ダイアナの決意」が10月14日に公開された。同作は、離婚に至る1991年のクリスマス前後3日間を描いたドラマで、「ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命(Jacki)」の監督であるパブロ・ラライン(Pablo Larrain)が担当している。映画の冒頭で“Fable(寓話)”とうたわれるとおり、完全なる事実にもとづくというよりも、想像と解釈によって彼女の心の中に迫ろうとするストーリーだ。

 クリスマスの集まりのために、サンドリンガムの城に向けて一人でポルシェを運転する元皇太子妃は、緑と赤のブレザー、ベルベットグリーンのスカートに「シャネル(CHANEL)」の黒のバッグというスタイル。途中、道に迷った彼女は、車を止めて近くの店に入り「ここはどこですか」と聞いて、店にいる客を仰天させる。本当にそんなことがあったのか(そもそも彼女がひとりで車を運転して行くなどあり得るのか)は疑問ながら、そこは最初にただし書きされているように“寓話”である。

感情を表現する衣装

 同作では、ファッションも大きな注目ポイントだ。衣装デザイナーのジャクリーン・デュラン(Jacqueline Durran)は、この3日間に元皇太子妃が着る衣装を15パターンほどコーディネートしている。衣装は彼女の感情を表現する上でとても重要なのだ。例えば、クリスマスイブのディナーのために用意されたドレスを見て、元皇太子妃は「今の私の気分には黒の方がふさわしい」と言う。仕方なく淡いグリーンのサテンドレスを着て出席することになるが、この時彼女が身に着けていたジュエリーは、当時皇太子だったチャールズ3世英新国王(King Charles III)からプレゼントされたパールのネックレス。スープを飲んでいる彼女がパールの粒を噛み砕いている自分を想像するシーンは、彼女の心がパニック状態であることを表しているのだ。

 このほかには、クリスマスの翌日に城を出た彼女が、仲良しのメイドであるマギー(サリー・ホーキンス、Sally Hawkins)と一緒に穏やかな時間を過ごすシーンがある。元皇太子妃はジーンズ姿で、マギーとともにはしゃいで海辺を走り回っている。その後のシーンでもジーンズを履いた彼女が、二人の息子ウィリアム(William)とハリー(Harry)と一緒にケンタッキー・フライド・チキンを楽しむ様子が映し出されている。ジーンズというカジュアルな装いから、彼女がいかにリラックスしているのかがうかがえる。

 衣装と同じくらい大事なのがヘアメイクだ。同作ではヘアメイクデザイナーの吉原若菜が担当している。吉原は「ベルファスト(Belfast)」「ナイル殺人事件(Death on the Nile)」のほか、来年公開予定のマーベルの期待作「ザ・マーベルズ(The Marvels)」も携わっている。さらに今年、アカデミーの新会員に招待されているほど、映画界で注目されている1人だ。

 やはり同作の最大の見どころは、元皇太子妃役を務めたスチュワートの見事な演技だろう。子役としてこの業界に入ったスチュワートは、同作で第94回アカデミー賞の主演女優賞にキャリア初の候補入りを果たすことになった。彼女のパフォーマンスは当初から高い評価を得ていたが、スチュワートは「自分がオスカーにノミネートされるとは期待していなかった」とノミネーション発表後の上映会でのトークイベントで語っている。オスカーノミネーションは、全米向けの朝のテレビ番組を通じて発表された。ロサンゼルス時間で朝5時過ぎととても早いのだが、スチュワートはそれに備えて目覚ましをかけることもしなかったそうだ。

 もともと眠りの浅い彼女だが、その時間に突然多数の電話がかかってきたことでうれしいニュースを知ることになった。「同じ部門の候補に入った女性たちのことが大好き。彼女らの演技からずいぶん学んできた。一緒に並んで自分の名前があることが信じられない」。結果的に受賞したのはジェシカ・チャステイン(Jessica Chastain)だったが、同作がスチュワートのキャリアのターニングポイントになったのは確実。そんな「スペンサー ダイアナの決意」を見逃したくない。

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