イギリス発の自然派化粧品ブランド「ザボディショップ(THE BODY SHOP)」は1976年の創業以来、社会と環境の変革を追求する事業を行い、チェンジメーカーとしてビューティ業界に革新をもたらしてきた。2017年9月にブラジル最大規模のビューティ企業、ナチュラ & コー(NATURA & CO.)の傘下に入り、原点回帰して再び存在感を強めている。17年12月からザボディショップインターナショナル(THE BODY SHOP INTERNATIONAL)を率いるデイビッド・ボイントン(David Boynton)CEOにブランドの目指す道を聞いた。
WWDJAPAN(以下、WWD):日本市場へは1990年に参入し、20年10月にイオンの子会社であるイオンフォレストから本国のザボディショップ・インターナショナル・リミテッドが株式を取得。10月からザボディショップジャパンが事業を引き継いだ。日本の業績、日本市場の変化はどのように捉えている?
デイビッド・ボイントン=ザボディショップインターナショナルCEO(以下、ボイントンCEO):今のところとても好調だ。ただ新型コロナの影響で市場が混乱し、チャネルにも変化があった。ボディショップジャパンにとってよかったのは、オムニチャネルがあること。これによって物理的な店舗のトラフィックが減ったもののeコマースの売り上げが増えた。もちろんコロナ禍前の計画に及んでいないが、進捗度は良いし、今後の展望に関してもハッピーな目で見ている。
WWD:創業時から手掛けるリフィルステーションや、サステナブルとエシカルにフォーカスした店舗であるアクティビストワークショップは世界中で展開する。その中でも日本の進捗は、世界と比べても進んでいるのか。
ボイントンCEO:現在、全世界でアクティビストワークショップは200店舗ある。日本は今年度末までに20店舗を実現させる。リフィルステーションは日本では18カ所ある。世界のほかの市場と比べても日本の進捗のペースは同等、あるいはほかの地域より少し早いペースで進んでいる。
東海道新幹線の再生アルミを店内什器などに活用
WWD:日本独自のアクティビストワークショップの取り組みとしては、東海道新幹線の再生アルミを店内什器やスキンケアツールに利用しているが、その話があったときにどう感じたのか。
ボイントンCEO:とても素晴らしいアイディアだ。グローバルブランドのため、世界のどこでも「ザボディショップ」と認識される一貫性は重要。その一方で、それぞれでその国らしさを打ち出すことも大切だ。東海道新幹線の再生アルミの利用は、ビューティ産業におけるサステナビリティをリードする立場にあることをとても表し、素晴らしいと思う。そしてリサイクル、リユースという考え方、店舗のデザインといった細かいところまでとても丁寧に行われているので、日本を象徴している。日本のチームが世界のどこのチームより最もクリエイティブだ。リサイクルの観点でも今後ますますアルミニウムは重要性が高まっていくので、このコンセプトは素晴らしい。
WWD:来年、日本市場に期待することとは?
ボイントンCEO:当社が推進するアクティビストワークショップが4店舗増え、日本の全店舗に対し28%のシェアになる。17年にナチュラ & コーの傘下になり、新商品が出続けているがビーガン的な商品や、パッケージもサステナビリティの高いものばかりになっている。8月に主軸のベーシックスキンケアライン“DOY”を刷新し、“エーデルワイス”ラインとして発売したが、今後もフェイシャルスキンケアにはもっと力を入れていく方針だ。もともとユニセックスな商品であるため、男性客が増えているが、さらに男性の使用率を高めたい。そのほか、アクティビズムキャンペーン「BE SEEN. BE HEARD」の取り組みをグローバルに行う中で、日本では若者の政治参画を促す団体NO YOUTH NO JAPANとコラボレーションを進めている。店舗の環境もどんどん良くなってアップグレードが進んでいること、商品のポートフォリオに大きな期待ができること、そして社会的な課題に対しての取り組みが進む。そういう意味で、23年はとてもよい年になると思っている。
コロナ禍で全世界の93%の店舗が休業
WWD: 20、21年と各社厳しい状態にあったが、ザボディショップインターナショナル全体の状況は。
ボイントンCEO:グルーブ全体も大変な時期だった。20年は全世界の店舗の93%が休業する経験をした。各社がその時期にeコマースへの転換・増加が顕著にみられたが、当グループもEC売り上げが3〜4倍に増えた。それからイギリスで20年以上前から展開するダイレクトセリングのビジネスモデルがある。「ザボディショップ アットホーム」という訪問販売的な直接販売の一つの形態で、これらを展開するイギリスとオーストラリアの一部では店舗休業による売り上げ減をかなり埋めてくれる役割を果たした。
WWD:22年はかつてないほど難しい年になりそう?
ボイントンCEO:多くの国でコロナ禍が収束できていない。さらにヨーロッパでは戦争が勃発し、インフレが激しくなり生活費が非常に高くなった。そうはいうものの、22年は4半期ごとに回復している。22年第4四半期は最もいい業績になる予定で、それを跳躍台に23年に入っていけるだろう。アクティビストワークショップのパフォーマンスは、従来型の店舗と比べても強い業績・パフォーマンスをすでに発揮しているし、新しい商品も従来のものより結果を出している。
ビューティ業界のゲームチェンジャー
WWD:創業時からゲームチェンジャーとしてビューティ業界に影響を与えてきた。
ボイントンCEO:創業者のアニータ・ロディック(Anita Roddick)自身が初期の店舗でリフィルをはじめていたし、フォーミュラも自然な原料を使って作っていた。当時のビューティ業界でこれは非常に珍しいこと。まさに業界を変えるゲームチェンジャーの取り組みだった。彼女は女性のエンパワーメント・社会進出・リーダーシップを取ることについてもリードしてきた。それに関してアニータが言ったのは「世界にはスーパーモデルの女性は8人しかいないけど、なんでほかの女性を称えないのか」と(※当時の美容業界は外見の美を追求していた。外見至上主義にアニータは違和感を覚えていた。今でこそ「ありのままの美」がうたわれるが、それを創業時から訴えていた)。業界の動物実験禁止にも貢献した。これはブランドの中核的なDNAだ。
しかし07年にアニータが亡くなった後、「自分たちは他とは違う存在である」という方向性を失っていた時期が10年ほどあった。17年にナチュラ& コーが親会社になり新しい経営陣が入り、もう一度アニータの考えに立ち戻り、アニータのレガシィを生かすためにはどうすればいいのかを真剣に考えるようになった。再びゲームチェンジャーになるために、リサイクルの分野でリーダーになることを決心した。さらに処方も自然原料を使いながら有効性も高める。そして社会的な課題である物事にも取り組もうということで「BE SEEN. BE HEARD」も行う。アニータがゲームチェンジャーであるべきと考えたミッションに立ち戻ると決めた。
サステナブルで倫理的な企業の証明でBコープ認証取得
WWD:リサイクル分野や自然原料を用いた処方などは、Bコープ(B Corp/「Benefit Corporation」の略)認証の取得につながっている。
ボイントンCEO:私がザボディショップインターナショナルに入社した際、「サステナブルで倫理的。とても優れた企業だ」とスタッフから口をそろえて言われた。しかし、具体的に証明できないためBコープの認証を取得した。これは80以上の国と地域でビジネスを展開しているわれわれのような企業にとっては複雑で、容易ではなかった。Bコープ側から受けた監査はかつてないほど細かく厳しいものだったので取得でき誇りに感じている。
WWD:日本はBコープ認証が浸透していないが、イギリスでは購入する際の選択の一つにBコープ認証取得が入っているのか。
ボイントンCEO:その傾向が高まりつつある。全体的に社会問題への意識、環境問題への意識が高まっている。23年はBコープの更新が控えており、厳しいチャレンジだが再取得できると確信している。
WWD:23年はグローバルでもポジティブな状況になりそうだ。
ボイントンCEO:コロナ禍前のビジネスに戻す時期と捉えている。今年はコロナ禍や戦争下で対応するべきことを必死に務めてきた。それを全て見直しリセットする。世界中の消費者に「ザボディショップ」が創業時からの倫理的でサステナブルなビューティ業界のパイオニアであることのストーリーが語れるような年にする。それが全スタッフのモチベーションにもなっている。日本の消費者にも語りきれていない部分も多いが、優秀な日本のチームがいるので期待して欲しい。