2023年春夏ミラノ・ファッション・ウイークが9月20~26日に開催された。今季は「ミッソーニ(MISSONI)」「エトロ(ETRO)」「フェラガモ(FERRAGAMO)」「バリー(BALLY)」など、新たなクリエイティブ・ディレクターを迎えたブランドのデビューショーが目白押しだったこともあり、春に向けて新鮮な息吹が感じられた。全体のトレンドとしては、ランジェリー風のディテール、Y2Kファッション、カーゴパンツ、テーラリング、シアー素材の重ね着のほか、フリンジやビーズ、スパンコールなどの飾りをあしらったアイテムが目立った。ここでは、海外有力店のバイヤーたちが感じた23年春夏ミラノ・コレクションのトレンドを紹介する。(この記事はWWDジャパン2022年10月10日号からの抜粋に加筆をしています)
バーグドルフ・グッドマン(BERGDORF GOODMAN)
リンダ・ファーゴ(Linda Fargo)/ファッション部門シニア・バイス・プレジデント
よかったブランド:「プラダ(PRADA)」「グッチ(GUCCI)」「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」「ジル サンダー(JIL SANDER)」「ヴェルサーチェ(VERSACE)」「クイラ(QUIRA)」
世の中で“最高のもの”はカテゴライズしにくいものだが、ミラノ・コレクションはまさにそうだった。ユニークで、技巧的で、知性にあふれた素晴らしいコレクションばかりで、シーズンのトレンドはここから生まれると感じた。
「プラダ」は引き続きアイコニックかつ力強いコレクションで、ショーが終わっても会場を離れがたい気持ちになった。「グッチ」は68組の双子がモデルとして登場するという、これまでにない演出で観客の度肝を抜いた。あらゆる意味で天才的なショーだと思う。「ボッテガ・ヴェネタ」のマチュー・ブレイジー(Matthieu Blazy)=クリエイティブ・ディレクターは、このブランドらしさを自信を持って展開していたのがとても良かった。芸術性とクラフツマンシップが結び付いた、マストハブのアイテムが続々と登場した。「ジル サンダー」はあいにくの雨模様だったものの、ロマンチックで詩的な雰囲気がいっそう盛り上がり、むしろいい結果となったのではないか。
最近は“肌見せ”などの大胆なドレスが復活しているが、「ヴェルサーチェ」はさすがの貫禄。エッジーで実に格好良かった。若手では、「クイラ」のアバンギャルドでいてさりげないデザインが気に入った。
トレンドとしては、テーラリングのほか、あえてのシワ加工やクラッシュ加工からアップサイクルや再利用(リパーパス)の影響が読み取れた。作業服をサテン生地で作ったり、羽根やフリンジで飾ったものも目立つ。ここ数シーズンはビビッドで鮮やかな色味が多かったが、今季はより柔らかな色にシフト。そこに予想外の色のアクセサリーを組み合わせていたのも印象的。一方で、パーティー向けのキラキラとしたドレスや小物類は引き続き人気で、ハイヒールの高さはますます高くなっている。
「プラダ」や「ボッテガ・ヴェネタ」で見られた、背面にリボンをあしらったジャケットやコートはマストハブ。また、透け感のあるリブタンクやアンダースカートと、モダンなテーラリングのアイテムを重ね着するのも非常に今季らしい着こなしだと思う。
ノードストローム(NORDSTROM)
リッキー・デ・ソーレ(Rickie De Sole)/ウィメンズ・デザイナー・ファッション兼エディトリアル・ディレクター
よかったブランド:「ボッテガ・ヴェネタ」「ジル サンダー」「グッチ」「プラダ」「ブルネロ クチネリ(BRUNELLO CUCINELLI)」
「ボッテガ・ヴェネタ」は今回も力強いコレクションで、フリンジドレスやさりげないレザーのセパレートがとても良かった。「ジル サンダー」のモダンでロマンチックな雰囲気や、「グッチ」のマキシマリスト的なアプローチ、「プラダ」のクラシカルなアイテムにダークなひねりを加えたコレクションも印象的だった。「ブルネロ クチネリ」は、イタリアならではのグラマラスさをリラックスした表現で見せてくれた。イブニングウエアや素晴らしいオペラニットは、ミラノ・コレクションのハイライトの一つだった。
今季は“テクスチャー”がキーワード。「ジル サンダー」のスパンコールで飾られた柔らかなニットフリンジや、「プラダ」でのシワ加工、「ボッテガ・ヴェネタ」のビーズをあしらった縁など、思わず触れてみたくなるものが多かった。「ボッテガ・ヴェネタ」のフリンジドレスは絶対に手に入れたいアイテム。胸元の深いカットや太ももまで見えるようなスリット、背中の露出、ブラトップ、腹見せ、ヒップ部分のカットアウトなど、23年春夏は“肌見せ”も大きなトレンド。「ヴェルサーチェ」や「フェンディ(FENDI)」が代表的だが、ボリューミーなパンツもさまざまなブランドが披露していた。
全体の総評としては、ミラノコレに参加している老舗ブランドでデザイナーの交代が相次いだため、「フェラガモ」のマクシミリアン・デイヴィス(Maximilian Davis)や「バリー」のルイージ・ビラセノール(Rhuigi Villasenor)などの新たに就任したクリエイティブ・ディレクターが、そのフレッシュな才能を通して、どのようにブランドの“デザインコード”を解釈するのかが見られて非常に興味深いシーズンとなった。
ニーマン・マーカス(NEIMAN MARCUS)
ジョディ・カーン(Jodi Kahn)/ラグジュアリーファッション部門バイス・プレジデント
よかったブランド:「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」「ジル サンダー」「ヴェルサーチェ」「ボッテガ・ヴェネタ」
「ドルチェ&ガッバーナ」はキム・カーダシアン(Kim Kardashian)をキュレーターに迎えており、ショーへの登場をずっと匂わせていたので、彼女が期待通りに現れた時には盛り上がった。クリスタルやコルセット、透け感がキーワードのコレクションはこのブランドらしさにあふれていて、顧客層をよく理解していると思った。
「ジル サンダー」のコレクションは本当に美しく、あいにくの雨ですらそれを損なうことはなかった。パステル調の柔らかな色味が黒い砂に覆われたランウエイに映えていて、目に心地よかった。さまざまなタイプのフリンジ、カットアウト、スパンコールなど、テクスチャーでの遊びを、美しいテーラリングと組み合わせるバランス感覚が素晴らしい。羽根やメタリックなパーツをあしらったウエアやアクセサリーなど、目を奪われるピースも多くて楽しめた。
「ヴェルサーチェ」はブラックに鮮やかなフューシャピンクやパープルを合わせたルックが、このブランドらしい、強くて自信に満ちあふれた女性を表現していた。フリンジ、スタッズ、レース、コルセット、ランジェリーを思わせるディテールがゴージャスで華やか。ロゴアイテムも多く、顧客の反応もいいと思う。セクシーなドレス、ミニスカート、レザージャケット、サテンのカーゴパンツなどが印象的だった。登場したモデルはほぼ全員、驚くような高さのプラットフォームシューズを履いていたので、このトレンドはしばらく続くのではないかと思う。ショーの最後にはパリス・ヒルトン(Paris Hilton)が登場し、会場を大いに湧かせてくれた。
「ボッテガ・ヴェネタ」は、期待に違わぬ素晴らしさだった。ベーシックなアイテムがレザーやシルクなどで美しく仕立てられているほか、フリンジやビーズなどで飾られているアイテムもあり、いずれも芸術品のような完成度の高さ。ラストに披露された3着の鮮やかなフリンジドレスは、その動きが息を呑むほどに美しく、圧倒的な存在感を放っていた。フットウエアの進化も目覚ましく、登場したウエアにぴったりだと思う。
トレンドとしては、ランジェリー風のディテールやコルセット、レース使いやブラストラップなどが目立った。誘惑的でありつつ、テーラードスーツやシャツの上にも着けられて意外と着こなしやすいコルセットは、今季のマストアイテム。また、アクセントとして赤や黄色などのビビッドな色も使われていたが、全体的な色味は完全にパステルカラーに人気が移っている。シアーな透け感は今季も健在。フリンジで遊び心を表現したアイテムも多く、見ていて楽しかった。メタルパーツを使ったグラムロックな雰囲気も多くのコレクションで見られ、これはニーマン・マーカスの顧客に響くと思った。最近は春夏シーズンでもレザーやスエードなどの重い素材を使われるようになり、季節感が薄れていると感じる。当百貨店の顧客の場合、来るべき暖かな季節に向けて、2月ごろから軽やかな春物の登場を待ちわびているということを伝えておきたい。
サックス・フィフス・アベニュー(SAKS FIFTH AVENUE)
ルーパル・パテル(Roopal Patel)/シニア・バイスプレジデント兼ファッション・ディレクター
よかったブランド:「グッチ」「ボッテガ・ヴェネタ」「ジル サンダー」「プラダ」
アレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)=クリエイティブ・ディレクターによる「グッチ」のショーは、“二重性”がキーワード。68組の双子が登場し、終盤には正面にある壁が取り除かれ、鏡に写したかのようなもう一つのランウエイと客席が現れる。そこで実は2つのショーが同時進行していたことが明らかになるという、まさに天才的な演出だった。間違いなく、ミラノ・コレクションのハイライトの一つ。「ボッテガ・ヴェネタ」も、オープニングから目を離せなかった。ラグジュアリーの表現が卓越していた。
「ジル サンダー」は、ソフトなパステルカラーのシルエットの美しいセパレートやスパンコールドレスなどが、エフォートレスでシック。「プラダ」は、ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)とラフ・シモンズ(Raf Simons)という才能あふれる2人のデザイナーによる“対話”が感じられる。柔らかく構築されたユニフォーム風のアイテムやスリップドレス、レイヤードされたニットなど、ドリーミーで崇高な美しさだった。
「ジル サンダー」「ボッテガ・ヴェネタ」「フェンディ(FENDI)」が披露したテーラードのセパレートなどに顕著だったが、ミラノ・コレクション全体としてミニマリストなアプローチが目立った。サテンなどの柔らかな素材で作られたカーゴパンツや作業服、スリップドレス、ソフトなパステルカラー、ビスチエ、コルセットも多くのブランドで見られた。フットウエアやアクセサリーでは、彫刻のようなメタルのヒールや、折りたたむタイプのバッグが目立った。「ボッテガ・ヴェネタ」の彫刻のようなヒールはぜひ手に入れたい。
セルフリッジ(SELFRIDGES)
ボス・ミール(Bosse Myhr)/メンズウエア&ウィメンズウエアディレクター
よかったブランド:「バリー」「エトロ」「フェラガモ」
いずれも新しいデザイナーを迎えた「バリー」「エトロ」「フェラガモ」がとても良かった。「バリー」はセクシーかつ品のあるコレクションで、これまでにない魅力を放っていた。「エトロ」は非常に洗練されていて、中でもウエアのプレゼンテーションが素晴らしかった。「フェラガモ」の、赤い砂を背景に披露されたドレープ風のドレスやガウン、メンズ向けの短いショートパンツも印象に残っている。
多くのブランドでカクテルドレスやパーティー向けのアイテムが見られ、引き続きトレンドとなっている。「ヴェルサーチェ」でベラ・ハディッド(Bella Hadid)が着用したパープルのドレスは、ショーのハイライトだった。「グッチ」や「ドルチェ&ガッバーナ」で多数登場した、スパンコールや光る素材を使ったアイテムも今季らしい雰囲気。マストハブなのは、「プラダ」でいくつか登場したブラックドレス。いずれも完璧な出来だった。ほかには、「ボッテガ・ヴェネタ」でケイト・モス(Kate Moss)が着用していたブルーのシャツも手に入れたい。
ネッタポルテ(NET-A-PORTER)
リー・クランフィールド/チーフ・バイイング&マーチャンダイジング・オフィサー
よかったブランド:「グッチ」「ボッテガ・ヴェネタ」「ジル サンダー」「ヴェルサーチェ」
「グッチ」の68組の双子をフィーチャーしたショーには、本当に驚かされた。こうしたイマジネーションとインスピレーションにあふれたブランドが、ミラノ・ファッション・ウイークに復帰してくれてうれしい。「ボッテガ・ヴェネタ」も、その芸術的なセッティングの会場からケイト・モスの登場に至るまで、何もかもが素晴らしかった。同ブランドの“イントレチャート(短冊状のレザーを編み込む技法)”のニーハイブーツは、今季のマストハブ。
「フェラガモ」の会場に敷き詰められていた赤い砂をはじめ、ミラノ・コレクションでは“色”がカギとなっていた。「ジル サンダー」の赤色のふわふわとしたクラッチバッグも非常に好み。対照的に、ブラックドレスを披露するブランドも多かった。「ヴェルサーチェ」に登場したパリス・ヒルトンを見る限り、バービー人形風のルックも人気がしばらく続きそうだ。また、今回のミラノはパリスだけでなく、「ボッテガ・ヴェネタ」のケイト・モス、「ドルチェ&ガッバーナ」のキム・カーダシアンと、かつてのような“スターパワー”が戻ってきたと感じた。
ハロッズ(HARRODS)
サイモン・ロングランド(Simon Longland)/メンズウエア&ウィメンズウエア責任者
よかったブランド:「ボッテガ・ヴェネタ」「ジル サンダー」「プラダ」
「ボッテガ・ヴェネタ」のコレクションは、目を見張るような素晴らしさだった。リラックスしたカジュアルなウエアからレッドカーペットでも着用できる華やかなドレスまで、そして厳密で美しいテーラリングから大胆な飾りまでと、大きな振り幅で見せてくれた全てが最高だった。会場自体が芸術的なことも含め、個人的に今季のミラノのハイライト。ケイト・モスがランウエイを再び歩く姿を目撃できたのも感無量だった。
「ジル サンダー」も、ほぼ完璧と言っていいコレクションだった。ウィメンズとメンズが美しく調和していたし、サテンやスパンコール、ニットやウールの融合もすてきだった。柔らかくくすんだパステルカラー、ニュートラルカラー、そしてブラックとのコントラストのバランスまでもが完璧。着やすそうで、使い回しが出来そうなアイテムが多いのもよかった。スパンコールのフリンジバッグは、絶対にゲットしたい。
「プラダ」は、このブランドらしさにあふれた力強いコレクションを見せてくれた。オープニングから「プラダ」らしさ全開で、その厳密で“超正確”なテーラリングをはじめとするブランドの遺伝子やデザインコードがどのピースにも脈々と息づいており、ファンにはたまらないコレクションだろう。シルクのスリップドレスはマストハブ。
テーラリングのトレンドは、しばらく続くと思う。「プラダ」や「グッチ」のカッチリとしたシルエットから、「ジル サンダー」や「フェラガモ」のより柔らかなで流動的なアイテムまで、さまざまなタイプが豊富に取りそろっていた。「エトロ」や「マックスマーラ(MAX MARA)」は、ソフトなドレープが非常にエレガントなスタイルを披露していた。
フリンジやビーズなどの飾りも、まさに花盛りという感じだ。あらゆるブランドの、あらゆるアイテムで見かけた。ロンドン・コレクションで多く見られたデニムは、ミラノでも「ボッテガ・ヴェネタ」「ドルチェ&ガッバーナ」「エトロ」などがそれぞれのブランドらしく解釈して披露していた。ほかにはパンツとスカートの重ねばきや、黒と紫色の組み合わせなど、90年代のゴス的な要素を感じるピースも多かった。全体として、今季のミラノ・コレクションは印象に残るような素晴らしいコレクションが多く、ハロッズの顧客に喜ばれるアイテムがたくさん目についた。