中国発の激安越境EC(電子商取引)アプリ「TEMU」が9月初頭、米国でローンチした。アパレルから調理用具、日用品、化粧品、充電ケーブルまでさまざまなジャンルを取りそろえているが、驚くのはその価格だ。販売サイトを見ると、ドレスが0.5ドル、鍋が0.3ドル、ハンディ掃除機が2ドル……などなど、信じられない値段の商品が並んでいる。
販売されている商品は中国から発送されるが、平均で注文から9日以内に米国の消費者の手元に届くという。新規ユーザーは3回まで送料無料、その後も29ドル以上の購入で送料が無料になる。アメリカのインフレが世界経済を揺るがす大騒ぎになっている中で、早くもファンを取り込みつつあるという。
この「TEMU」を運営しているのは中国EC大手の「拼多多」(ピンドゥオドゥオ)だ。2015年創業の新興企業ながら爆発的なペースで成長。創業3年で米ナスダック市場に上場している。2021年のGMV(流通額)は2兆4410億元(約48兆9000億円)、年間アクティブユーザーは8億6870万人という怪物企業へと成長している。
中国のECプラットフォームといえば、アリババグループとJDドットコムが長らく二強として君臨してきた。新興企業のピンドゥオドゥオが割って入ることができたのはなぜか、3つの革新性があったためだ。
第一の革新性は団体購入。多くのユーザーが同一商品を購入すると価格が下がる仕組みを採用したため、ユーザーが勝手に宣伝してくれるようになる。広告費を支払わずとも認知が広がるという仕組みだ。
第二の革新性はサプライヤーの確保。零細事業者など無名の事業者にフォーカスし、彼らが直接消費者に売れる仕組みを作った。もともと安いノンブランドの商品を中間流通コスト抜きで販売するのだから劇的に安い。アリババやJDドットコムが次第に高級路線へと傾くなか、そこから排除されていった怪しい、粗雑、ニセモノが多い、でも安いというサプライヤーを確保している。
そんな商品が売れるのかと疑問に思うが、そこに第三の革新性がある。メインのターゲットを田舎、郊外、農村の消費者にしぼった点だ。お金を持っていないが、その代わりに品質などにあまり文句を言わない、そうした消費者層と怪しいサプライヤーはぴったりの組み合わせだったのだ 。
限界コスパを見極めた中国事業者
「所得水準の低い消費者をターゲットに激安路線」のピンドゥオドゥオと、高単価を目指す日本企業との相性は悪い。そのためピンドゥオドゥオが破竹の勢いで快進撃を続けても、日本企業の出店はあまり広がらなかった。
実際、ピンドゥオドゥオで販売されている商品を見ると、コピー商品や粗悪品も少なくない。ここに出展して同列に並べられるのは勘弁して欲しいというのは理解できる考え方だ。
しかし、そのピンドゥオドゥオ路線がもし米国でも成功したとすれば……話はまったく変わってくる。TEMUローンチからまだ1カ月という現在は果たして成功するのかどうかはわからない。前述した猛烈な低価格は赤字覚悟の客寄せ商品とみるのが妥当なところだろう。
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