2022年を象徴するファッションのトレンドとなったY2Kは、“2000年”の略語で“Y”は年(year)、“K”はキロの意味。もともとは、1990年代から2000年に切り替わる際にコンピューターが誤作動すると言われた“2000年問題”を指す言葉だったものの、昨年ごろから「ミュウミュウ(MIU MIU)」を筆頭に、2000年前後のファッションやビューティトレンドのリバイバル文化を意味する言葉として知られるようになった。
Y2Kがトレンドに浮上したとはいえ、現在のY2Kファッションは当時のスタイルと全く同じではない。現代風に進化してリバイバルを果たしものもあれば、逆に忘れ去られていったアイテムもあるはずだ。そこで、自身が青春時代を過ごした平成の若者文化を考察・発信するライターのタジマックス(Tajimax)に当時のスタイルを振り返ってもらい、今のY2Kしか知らない1997年生まれの記者が、“リアルY2K”との違いを聞いた。
Tajimax/ライター、コレクター
PROFILE:(タジマックス)東京出身。1990年〜2018年頃の女性誌を中心に、200冊以上の膨大なバックナンバーを所有している。18年頃からそれらを資料に、自身が青春時代を過ごした平成の若者文化を伝える活動を開始。これまでに「オリコンニュース(ORICON NEWS)」「現代ビジネス」「ビジネスジャーナル(Business Journal)」「クイックジャパン(Quick Japan)」などさまざまなメディアで若者文化について発信している。現在は「東洋経済オンライン」で平成の若者文化を振り返るコラムを連載中。
定番の厚底シューズ
最盛期は1999年
WWD:私は1997年に生まれたので、当時のY2Kスタイルは昔の雑誌などでしか見たことがありません。ギャルや肌見せなどいろいろなスタイルがミックスしている印象なのですが、そもそもY2Kとはどういったスタイルを指すのですか?
タジマックス:現在日本で人気のY2Kは、さまざまな国や時代の文化が入り混じっています。Y2Kはもともと、2000年前後に海外セレブの間で流行したファッションのリバイバルを指す言葉として使われ始めました。それがSNSで世界に広がっていった結果、現在のような混沌としたトレンドになったのでしょう。インスタグラムで“Y2Kファッション”を検索すると、日本のギャルを思わせるルーズソックスを取り入れたスタイルや、アメリカンな雰囲気の肌見せスタイル、さらにK-POPアイドルが着用したことでトレンドとなったチェック柄のスカートを取り入れたスタイルもヒットします。今回はその前提のうえで、令和のY2Kと国内の2000年当時のトレンドを比較します。
WWD:Y2Kファッションに欠かせないのはやっぱり厚底シューズ?
タジマックス:厚底のブーツやスニーカーの人気はいまだに根強いです。当時も、厚底シューズは定番中の定番でした。2000年前後は厚底シューズのブームが最高潮で、ユニークなデザインのものも多く登場していました。2004年頃からは「キャンキャン(CanCam)」が象徴とする“赤文字系”ブームが起こり、シューズのトレンドもコンサバなものにシフトしていきましたね。
WWD:タジマックスさんにとって、特に印象に残っているシューズは何ですか?
タジマックス:1999年に大ヒットした「バッファロー(BUFFALO)」の厚底シューズです。もともとクラブシーンで人気だった「バッファロー」が、雑誌「ポップティーン(Popteen)」の人気読者モデルが愛用していたことで、街にも浸透していきました。篠原ともえさんに影響を受けた“シノラー”や、原宿系ファッションを好む子も履いていました。現在はあまり注目されていませんが、ウエッジソールをくり抜いたデザインのサンダルや、クリアソールも存在感がありましたよ。
WWD:今の厚底シューズはどう進化していると感じますか?
タジマックス:若者を中心に人気の「グラウンズ(GROUNDS)」のシューズからは、新しさと懐かしさを感じますね。有機的なクリアソールから感じる近未来感が、当時“サイバー系”と言われたファッションを思い起こさせます。
華やかなジーンズも復活
当時はリメイクも人気
WWD:ジーンズが流行しているのもY2Kの流れだと思いますか?
タジマックス:Y2Kファッションのブームの流れだと思います。今トレンドになっているジーンズは、ローライズデニムやバギーパンツなどで、シルエットはワイドなものが多い印象です。でも当時日本で流行していたデニムはもっとタイトなシルエットでした。今、主流のシルエットは海外からの影響が大きいかもしれませんね。
日本で2000年というと、ちょうど「マウジー(MOUSSY)」がデビューし美脚に見えるジーンズを打ち出し始めた時期なので、ギャルはみんな足を長く見せることにこだわっていました。細めのパンツをブーツインして履くスタイルも多かったですね。
WWD:今のY2Kファッションでは、デニムのアイテムに刺しゅうやペイントを施したものもよく見かけます。
タジマックス:クラッシュデニムや、デニムのオールインワンも再注目されていますね。2000年ごろは、デザイン性の高いデニムが流行したことがありました。古着のリメイクが同じタイミングで注目されたのもあり、この時期は華やかなデニムアイテムが豊富でした。本格的なリメイクを特集した「ジッパー(Zipper)」のムック本も出ていたし、ギャル向けの雑誌でも簡単なリメイクのアイデアを紹介していましたね。ただ実際に率先してリメイクしていたのは服飾学生など、感度が高くて手先が器用な一部の若い人。多くはブランドから出ている“リメイク風”ジーンズを履いていました。
WWD:エスニックなテイストも流行していたんですよね?
タジマックス:そうですね。当時はボヘミアンやヒッピーのスタイルを好む人も一定数いましたが、今にはリバイバルしていない印象です。でもラブ&ピースの精神や、自由な思想は今の時代にもマッチしそうなので、若者の間で流行する未来もありえるかも。
WWD:ジーンズにエッジの効いたベルト使いも街で徐々に見かけるようになりました。
タジマックス:ベルトをアクセサリーの一つとして盛り込むのは、当時も人気のスタイルでした。太さのあるものやデザイン性に富んだものを取り入れて、しっかり主張させていましたね。
ルーズソックスは
ファッション的な文脈で
WWD:昨年からアームウォーマーも街でよく見かけます。
タジマックス:アームウォーマーも1990年代後半にプチブームになったアイテムでした。街では“シノラー”“デコラ”“サイバー系”と言われるような、原宿系の人たちが取り入れていましたね。また、この頃は手作り文化も盛り上がっていたので、アームウォーマーを手作りしている若者もいました。
さらにモーニング娘。や浜崎あゆみさんらアーティストの衣装としても多かったです。ただ、当時のアームウォーマーは個性派アイテムという位置付けで、原宿系ファッションや衣装としては人気がある一方で、マスではなかった。今では、カジュアルに合わせるだけでなく、ふわふわのニットトップスと組み合わせて、うさぎのようにかわいく着るスタイルもあるなど、ブームとして盛り上がっている印象です。
WWD:レッグウォーマーも当時は流行していたんですか?
タジマックス:レッグウォーマーやブーツカバーなど、足元にボリュームを持たせるアイテムも確かにありました。でも、普段着に取り入れるにはハードルが高く、ショップ店員など一部の感度が高い人たちが着けていたぐらい。流行していた、とまでは言えませんね。
WWD:リバイバルしているルーズソックスと同じ感覚ではないんですね。
タジマックス:はい。ルーズソックスは私たちの世代にとって、制服スタイルのデフォルトだったんです。「どんな靴下を履けばいいか分からないし、もうこれでよくない?」という感覚で、意識的に履いていたわけではない。ルーズソックスも今リバイバルしていますが、当時と決定的に違うのが、制服以外の普段着の足元にも積極的に取り入れられていること。Z世代に人気のあのちゃんの着こなしが象徴的で、当時よりもファッション的な文脈で取り入れているのでしょう。
バッグのY2Kは?
デザイン性重視だった当時
WWD:Y2Kの流れで語られるバッグといえば、ワンハンドルバッグです。
タジマックス:人気が再燃しているワンハンドルバッグは現在、カジュアルなスタイルに取り入れられることも多いですよね。当時はどちらかというとコンサバなファッションを好む人が愛用していました。最近はPVCやラバー、エナメルなど素材の質感を生かしたバッグを見かけますが、当時も同じようなバッグは人気でした。
WWD:当時で特に印象的だったバッグは何ですか?
タジマックス:「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」の“グラフィティ”バッグは、サッカー選手の中田英寿さんが愛用していたことで認知されて、一気に知名度が広がった印象です。ほかにも「ルイ・ヴィトン」のエナメル素材の“ヴェルニ”や「シャネル(CHANEL)」の“ラバートート”も、珍しい素材感で注目されていました。でもこれらはあくまで憧れの存在。実際にみんなが持っていたのは、安価なブランドからリリースされているバッグでしたね。
WWD:ほかに流行していたバッグはどんなものがありましたか?
タジマックス:記憶にあるのは、スポーティーなデザインのバッグです。エナメル素材のものやボストンバッグ、ショルダーバッグが人気で、カジュアルなスタイルに取り入れられていました。今年の1月に「ディオール(DIOR)」が発表したボウリングバッグには、私は懐かしさを覚えましたね。
個性派アクセがリバイバル
素材で盛るスタイルは健在
WWD:今のY2Kに取り入れるアクセサリーは、シルバーの重厚な質感のものや、クリアな素材感を生かした個性的なものが多い気がします。これらも当時のリバイバルだと思いますか?
タジマックス:2000年当時もこのようなアクセサリーは人気でした。シーズンごとに流行も違いましたが、「ココルル(COCOLULU)」のウッドアクセサリーや「クロムハーツ(CHROME HEARTS)」「カパルア(KAPALUA)」のシルバーアクセサリーなど、インパクトのあるアクセサリーが流行していましたね。夏にはクリア素材のアクセサリーがトレンドで、今のY2Kとも素材感を楽しむという意味では近いムードがあります。バタフライモチーフも多かったかな。
一方で、当時は人気だったのにリバイバルされていないものも多いです。例えば、キラキラのラインストーンのアクセサリー。特に「プレイボーイ(PLAYBOY)」のネックレスは人気でした。さらに「ルイ・ヴィトン」のキューブ型のモチーフがついたヘアゴムや、hitomiさんがつけていたポンポンアクセサリー、ほかにもサンバイザーや缶バッチも流行しましたが、現在には復活していません。
WWD:アイウエアに注目していると、レンズが細長のタイプや大胆なカラーのサングラスをよく見かけます。
タジマックス:私もKing Gnu(キングヌー)の井口理さんがそのようなサングラスをかけているのを見ました。おそらく、それは当時のメンズファッションか海外での流行の一つではないしょうか。ウィメンズでは、浜崎あゆみさんの影響で大き目なティアドロップのサングラスが圧倒的に多かったです。ルーツが違うアイテムが混ざり合ってリバイバルしているのも、現代のY2Kらしいですね。