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コロナ禍で年商5倍 韓国フレグランス「ノンフィクション」のブランディングに迫る

 2019年11月に韓国でローンチしたライフスタイルブランド「ノンフィクション(NONFICTION)」が今年4月、日本に上陸した。5月に伊勢丹新宿本店1階でポップアップストアを開催。現在は、「リステア(RESTIR)」や「キス(KITH)」「トゥモローランド(TOMORROWLAND)」「ビオトープ(BIOTOP)」などのセレクトショップで販売している。伊勢丹新宿本店のフレグランス催事「サロン ド パルファン 2022」にも参加するなど勢いのあるブランドだ。

 「ノンフィクション」は、優しい香りをはじめ、オリジナリティーのあるパッケージや独自の世界観などが韓国の若者たちの心をつかみ、立ち上げ当時からインスタグラムなどのSNSで消費者が拡散してきたブランドだ。この世界観を作り上げたチャ・へヨン(Cha Haeyoung)創業者兼クリエイティブ ディレクターは化粧品業界における経験はない。ブランド立ち上げ以前はアーティスト集団の代表を務めていた。

 「ノンフィクション」のアイデアはバスルームから生まれた。チャ創業者は「仕事や携帯電話に邪魔されず、自分自身に集中できる唯一の時間はシャワーを浴びるときだ。私にとってシャワーを浴びるのは一つの儀式で、内面の考えを整理できる時間だ。 多くの人もそうだと思う。『ノンフィクション』というブランド名は、“こんとんの時代に自分とつながる瞬間”を意味している」と語る。

 「ノンフィクション」は、5種類のフレグランスとボディーウオッシュ、ボディーローションを展開している。人気が高いのはベチバーとサンダルウッドをベースにしたウッディ系の“サンタルクリーム”と、甘いスエードとシダーウッド、ムスクの“ジェントルナイト”の2種類。柔らかく中性的な香りが多いため、男女問わず幅広い層に支持を得ている。またハンドケアやリップクリーム、ギフトボックスも人気だ。

消費者視点で年商が5倍に、売り上げ85%がEC

 「ノンフィクション」の2020年の年商は約500万ドル(約7億4000万円)。翌年にはその5倍を売り上げ、急成長を遂げた。この成長にはSNSを中心としたデジタルマーケティングの影響も大きいが、そのSNS拡散を手助けしたのがノベルティーだ。アート業界出身という創業者の背景を生かしたアーティストコラボのギフトカードやデザイン性の高いノベルティーは、そのこだわりとクオリティーの高さで話題を呼んでいる。伊勢丹新宿本店のポップアップでも、一定額以上の購入者にバスタオルやトートバッグを配った。

 「ノンフィクション」は、SNSだけで売り上げが伸びたのではない。チェ創業者は、「私も消費者の1人。だから、ブランドイメージも含め、品質や価格など全てについて最大限、消費者の立場で眺めて、こだわった。業界の分析よりも、自分自身が熱狂できるブランドを作りたかった」と成長理由を語る。

 また、21年の全体売り上げの85%がEC販売ということも注目すべき点だ。「韓国はECが発達した市場で、メーンターゲットの20〜30代の顧客はEC消費に慣れている」とチャ創業者。「新型コロナが落ち着いて、町に人が戻っても似たような購買行動が見られる」と話す。EC購入を支えているのがムエット(試香紙)の郵送だ。韓国内ではECで無料注文でき、自宅で香りを試してから購入することができる。自宅で香りを試せ、ECで購入できるという利便性の高さも売り上げアップの一因だ。

 直営店はソウルに3店、プサンに1店。ブランドの世界観を体感できる空間で、休日には列をなすほどの盛況ぶりだ。「直営店を選ぶときは採光を重要視し、店内には、毎週美しい生花を飾る」とチェ創業者。社内にはそのためのスペシャリストもいる。店舗では、“体験してもらうこと”を重視し、「スタッフから声をかけるのではなく、来店客がスタッフに問い合わせしやすい環境を作っている。顧客が気楽にいろいろと製品を体験できるのが、高い購買率につながっている」。

 来店客は、店内で自由に写真を撮影し、それをインスタグラムで拡散。ソウルのソンスやハンナムなど、ハイセンスな人々が集まるホットエリアに店舗を構えることも、SNS上で存在感が大きい理由の一つだろう。

アジア発のグローバルフレグランスブランドへ

 SNS拡散によって、上陸前から日本でも話題になっていた「ノンフィクション」。パートナー契約を結び、日本展開を手がけるサン・スマイルの担当者は「韓国の文化に興味のある消費者がSNSを通してブランドを知ってくれたのだと思う。日本語のアカウントも開設していないし、コロナ禍で日本人客は、韓国の店舗にも来ることができなかった。日本の多くの消費者は、韓国の公式アカウントやインフルエンサーから情報を得ているようだ」と話す。そのため伊勢丹新宿本店のポップアップの初日からファンが来店し、終盤にはSNSを見た人、リピート客で列ができるほどだった。

 チャ創業者は「調和がとれた完成度の高いブランディングが大切。消費者が“欲しいブランド”になるために、創業時からブランディングに力を注いだ」と話すように、日本でもブランドのこだわりを細部まで持ち込んだ。来年には日本に直接進出する計画もあるようだ。「日本は実店舗の体験がより重要な市場だと思うので、旗艦店をオープンしたい」と語った。

 アジアだけでなくグローバルフレグランスブランドとして育てる計画で、9月末にはフランス・パリのマレ地区で単独ポップアップイベントを開催。「ブランドが目指す香り、メッセージ、空間はもちろん、全てのディテールを顧客に伝えることが重要だ。そのため、ディストリビューター選びは、“誰と結婚するか”というくらい慎重にならざるを得ない。単に多くの流通チャネルで紹介され一時的な売り上げを作るのには興味がない」とチャ創業者。各国の状況に応じて戦略を立てつつ、「ノンフィクション」の世界観を広げていくようだ。同創業者は「時代が急速に変わり、仮想世界が身近になっている。だからこそ、経験や感情を分かち合える“人”と“空間”が大切だ。 それが、ブランド戦略における重要なコアバリューになるだろう」と話した。

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