アメリカ在住30年の鈴木敏仁氏が、現地のファッション&ビューティの最新ニュースを詳しく解説する連載。生活雑貨チェーン大手のベッド・バス&ビヨンド(BED BATH&BEYOND)が不振から抜け出せずにいる。社会の変化に対応できない保守的な経営姿勢が根本といわれているが、具体的にはどういうことなのか。同社の失敗から何を学ぶべきか。
ベッド・バス&ビヨンドが苦境に陥っている。以下、直近の業績を振り返ってみよう。
2021年度
売上高:78億6778億ドル(14.8%減)
営業損益:赤字4億758億ドル
期末の現金および現金等価物:4億3950億ドル(67.5%減)
(2020年は営業停止月があったので既存店成長率は表記なし)
2022年度第1四半期
売上高:14億6342万ドル(25.1%減)
営業損益:赤字3億3916万ドル
既存店成長率:23%減
期末の現金および現金等価物:1億754万ドル(90.2%減)
2022年度第2四半期
売上高:14億3702万ドル(27.6%減)
営業損益:赤字3億4620万ドル
既存店成長率:26%減
期末の現金および現金等価物:1億3527万ドル(86.1%減)
(資料:Form-10Kおよびプレスリース、カッコ内は前期比)
通年売上高は18年度からマイナス成長に陥っており、過去最大の下げ幅は20年度の17.3%減だが、今年の上半期はこれを上回る20%以上のマイナスを記録している。通年営業利益は18年度から赤字となり、最大は19年度の7億ドルで、今年の上半期の赤字をみるとこれを上回る可能性が出てきている。
この営業利益は15年から対前年比でマイナスが続いており、問題は今に始まったことではないことが分かる。
損益がマイナス続きだと当然のことながら手持ちの運営資金も苦しくなる。昨年度に対前年比で68%もマイナスで、今年はそれを上回る勢いで減っている。これによって倒産の2文字が新聞紙面に踊るようになったのが8月頃からである。
今後1年間以内に倒産するかまたは買収によって非上場になるだろうと予測する専門家がいる。またトイザらスやJPペニーといった倒産した企業の財務リストラを請け負った専門企業を雇っており、すでに選択肢として倒産も視野に入っていることを示唆している。
小売企業がこのフェーズに入ると、最後のカギを握るのがサプライヤーである。ベッド・バス&ビヨンドによる支払いが滞ることによるサプライヤーの売掛金が増えており、支払い条件を厳しくする企業が増えているという情報がある一方で、取引環境は改善されているという情報が出てくるなど錯綜している。サプライヤーによるCOD(現金払い)要求が最後通牒となるのが通例なのだが、果たしてどうなるか。
これから歳末商戦に入って在庫が動くときなので、投資家やサプライヤーは年末まで待つことだろう。年明けには結果が出ると考えている。
石橋を叩いて渡らない社風が裏目に
既述のとおり同社の業績が悪化し始めたのは15年頃からだが、これがはっきりと表面化したのは19年にアクティビスト型投資企業がテマレスCEOと取締役会のリストラを要求したときである。なぜ改革が必要なのかを説明する150ページにおよぶプレゼン資料を投資企業が公開しており、同時に内部情報がメディアに漏れたこともあって、何が業績悪化の原因だったのかおおよそ判明していた。
ポストイットさえもったいないから使ってはいけないとする倹約意識があって、これがテクノロジーへの投資を遅らせて今も大胆な投資ができないでいる、ノートパソコンの支給がない社員がたくさんいる、古いモニターしかないから自分で新型モニターを買う社員がいる、といった実情を元社員がメディアにコメントしていた。
また複数の陳列ディスプレーを検討するときに経営陣がそれぞれの重さを量って投資コストを検討するというような細かさも指摘されている。ディティールへのこだわりは重要なのだが、行きすぎると社員から不評を買う。
またミステークするから急いではいけないとする経営陣の保守的意識が変化を遅らせたという指摘も出ていた。売り場を変える実験を20店舗ぐらいでやったとして、その成果を測らず、成功したとしても水平展開をしない、という変化への意識の低さも資料には書かれていた。
端的にいうと極めて保守的な社風で変化できなかったのである。
この企業を有名にしたのは商品を天井近くまで縦筋に並べる陳列手法である。創業間もない頃にとある店が箱に入っている在庫をすべて出して縦に長く陳列したらよく売れたことから水平展開したと聞いている。主通路上の島陳列の宝探しマーチャンダイジングも有名で、他にないような面白い商品を並べ短期間に入れ替えることで来店頻度を高めた。
そしてこの宝探しを補強したのが定期的に店舗周辺住民に送る販促クーポンである。企業カラーの青を基調とし、アメリカ人で知らない人いないような存在となっている。
この成功手法をずっと使い続けたのだが、陳列は見慣れてしまって昔のようなインパクトを感じなくなってしまい、宝探し販促はネットでいくらでも見つけられる時代になって集客要素として弱くなってしまったのであった。
またサプライチェーンのバージョンアップもしてこなかった。現時点において物流改革がこの企業の再生のカギを握るとする専門家がいる。
こういった変革要素を放置したのがこの企業の敗因だ。
小売りとは絶えず消費者と正対するビジネスであり、消費者の変化に対応し変化し続けなければならない。変化を受け入れるという社風を変化させないことが我々の強さだ、と言ったのがウオルマートのCEOダグ・マクミロンだ。変わらなければならないのは消費者が絶えず変化しているからで、ベッド・バス&ビヨンド経営陣はこのきわめて重要な真理を忘れてしまっていたようだ。
在庫削減のやりすぎで売り場の魅力が犠牲に
19年に前CEOが辞任し、ヘッドハントされたのがターゲットのマーチャンダイジング責任者のマーク・トリットンだった。彼の不運は直後にパンデミックがはじまりいきなり店舗営業停止に追い込まれて、ところがデジタル化をしてこなかったのでECへすぐにシフトできなかったことと、その後に続く社会経済の混乱で需要と供給のバランスが崩れて小売企業がみな苦戦していることにある。
周辺環境の混乱に対処しながら社内のリストラを同時に進めるのは酷だった。
また私が決定的だったと考えているのは在庫を一気に減らしたことにある。期末在庫は20年度から21年度までの2年間に一気に36%も減っている。
これは売り場で視認できるほどだった。縦陳列がなくなり店頭に商品があふれているあの賑やかさが消え去った。そのためスカスカ感が前面に出てしまいワクワクするような楽しい買い物環境がなくなり店頭の魅力が薄れてしまった。
リストラで雇われた経営者が急場しのぎで真っ先にやることは人員と在庫を減らし、経費削減によって営業利益を増やして黒字化し、投資家に対してとりあえずアピールすることで、これは分からないわけでもない。ただ在庫とは減らしすぎても増やしすぎてもダメで、求めるべきは適正在庫であり、トリットンはこれを見誤ったと思っている。
すでにトリットンは解雇され暫定CEOが経営の舵を取っているのだが、状況は極めて不安定である。机上に乗っている選択肢のどれを選ぶかは歳末商戦の結果で決まることだろう。