老舗百貨店と、Z世代を中心に人気の動画SNSティックトック。にわかには結びつきづらい2つだが、大丸松坂屋百貨店は新規事業の一環として2022年春にティックトックに進出し、手応えを得ている。仕掛け人は、新卒で大丸(当時)に入社後、大手IT企業を経て2020年に大丸松坂屋に再入社したという岡崎路易DX推進部部長兼エグゼクティブプロデューサー。ティックトックで社内インフルエンサーを育て、インフルエンサーマーケティングや広告ビジネス、アカウント運用支援など、「クリエイターズエコノミー領域の新事業を目指す」(岡崎部長)という。
デスクやパソコン、コピー機が並ぶザ・日本のオフィスを背景にして、チョコレートやグミ、ゼリーなど、美味しそうなお菓子を女性が“爆食い”する。専用機材を持ち込んで、オフィスで本格的なチョコレートフォンデュをしている動画まである。現在フォロワー数約14万人に育った大丸松坂屋のティックトックアカウント「お菓子食べすぎ会社員」だ。女性のくるくる変わるコミカルな表情とハイテンションなナレーションはいかにもティックトック的だが、それとオフィスとの雰囲気のギャップがミソ。食品部門でキャリアを積んできたという入社7年目の野崎瑞穂DX推進部デジタル事業開発担当が演者を務めている。
岡崎部長と野崎担当が所属するDX推進部は、21年3月にそれまでのデジタル事業開発部をもとに発足した。コロナ禍でDX待ったなしの中、既存事業をいかにデジタル化するかが同部には求められ、その結果百貨店で扱う化粧品を集めたメディアコマースサイト「デパコ(DEPACO)」などが生まれている。同時に同部には、「百貨店のコアコンピタンス(競争力の源泉)を生かしつつも、全く異なる新事業を時流に沿ったデジタルの舞台で立ち上げる」(岡崎部長)ことも求められた。
そこで着目したのが“人”。百貨店は、それぞれの商品分野の専門知識や商品への“偏愛”を持ったバイヤー、売り場担当者などを多数抱えている。それこそがコアコンピタンスであるという考えのもと、大丸松坂屋は近年「ヒューマンメディアカンパニー」というあり方を志向している。SNSは既存の売り場以外で魅力ある“人”を発信する舞台であり、新たな顧客とのタッチポイントとなり得ると考えた。
DX推進部として21年夏にまずユーチューブに参入したが、最初から順風満帆だったわけではない。後発だったこともあって動画が埋もれてしまい、低空飛行が続いた。しかし、苦しむ中でティックトックにアウトプットの場を移したところ、一気にバズった。投稿開始6カ月間で獲得したフォロワー数は、広告によるブーストなしで3万7000人を超え、総再生回数2700万回以上を達成。ただし、これが大丸松坂屋が運営するアカウントだと、大々的に表明しているわけではない。野崎担当が大丸松坂屋社員であると動画の概要欄などで記してはいるが、「商品を売るために企業が販促でやっていますという感じが見えてしまうと、視聴者からすぐにシャットダウンされてしまう」(野崎担当)からだ。いち動画クリエイターとして、純粋にコンテンツの面白さやマメな投稿頻度、ファンからのコメントに対する誠意ある返しなどが支持を広げるポイントになっていると野崎担当は分析する。
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