街づくりはさまざまな人との信頼と友情によって成り立つ。今回は安田氏にとって縁深い2人とのエピソードを語る。(この記事はWWDジャパン2022年10月31日号からの抜粋です)
三菱地所で商業を担当していた約20年前、さまざまな分野の人を集めた食事会にお誘いしたのが、ユナイテッドアローズ(UA)創業者の重松理さんとのご縁の始まりだ。最初は寡黙で話しにくかった重松さんとも、その後、新丸ビル、仲通り、銀座などの出店を通じ、すっかり懇意に。
2013年のビルダーズ設立の際には「僕も街づくりに興味があるので協力します」と言ってくれ、当社の会長に就いてもらった。ご自身はUAの経営からは離れたものの、「日本服飾文化振興財団」の設立や、日本の伝統技法で作った洋服のオリジナルレーベル「順理庵」の店舗を運営など、今でもファッション業界への思いは誰よりも熱い。「日本の美意識と精神性の高さは世界でも抜きんでているんだよ」とよくおっしゃる。
人生の目標の一つになった
エピソードを一つ。2人で大阪のクラブで飲んでいるときだった。重松さんはフロアを横切る男性をじっと見ていた。そしてママに「今、出て行った人は誰?」と聞く。ママが「◯◯さんといって、オーナー会社の社長さんよ」と答えると、「あんなオシャレな人はいない。何十万人に1人だ」と言うではないか。日本一の伊達男の重松さんがそこまで褒める?私には理解できなかった。見ず知らずの男性に嫉妬した。
振り返れば「安田君、今日はオシャレだね」と言われたことが一度もない。コットンパンツに折り目が付いていないことを注意されたことはあるけど……。大阪の一夜から私の人生の目標の一つに重松さんに「オシャレだね」と褒めてもらうことが加わった。
そこで「順理庵」でジャケットやネクタイを何着も買った。にもかかわらず、いまだに褒めてもらえない。それより「もう無理しなくていいよ」と言われるのが怖い。それはプロを目指して何年もピアノのレッスンを受けてきた生徒が、ある日、先生から「もう明日から来なくていいよ」と言われるときの気持ちに近いかもしれない。そう、重松さんは絶対にお世辞を言わない人だから。
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