「ヴァレンティノ(VALENTINO)」史上最大となる展覧会「フォーエバー ヴァレンティノ(FOREVER VALENTINO)」が10月28日、中東のカタール・ドーハにあるクリエイティブハブのM7で開幕した。会期は4月1日まで。同展では、創業者のヴァレンティノ・ガラヴァーニ(Valentino Garavani)がメゾンを設立した1959年に手がけたドレスから、ピエールパオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)=クリエイティブ・ディレクターが7月にイタリア・ローマで発表した2022-23年秋冬オートクチュール・コレクションまで、ドレスなど250ルック以上と約100点のアクセサリーを展示。創業以来の拠点であるローマを思わせる舞台美術を取り入れた空間を舞台に、幅広い視点で60年以上にわたる「ヴァレンティノ」の歩みを描く。
会場に入ると、まず目に飛び込んでくるのは、ローマ本社の中庭にある彫刻家イゴール・ミトライ(Igor Mitoraj)による作品の精巧なレプリカを囲むように並べられた赤いクチュールとプレタポルテの数々。「ヴァレンティノ」を象徴する鮮やかな赤を中心に、朱色やピンクがかったものまで34着が、真っ赤なマネキンに着せて展示されている。そこに用いられている素材はタフタやシフォン、クレープからサテン、オーガンジー、カシミアまで。美しい布のドレーピングを筆頭に、プリーツやフェザー、ラッフル、バラやボウ(リボン)のモチーフなどメゾンコードやテクニックを感じるデザインで、観客を「ヴァレンティノ」の世界へといざなう。
ドレスが生まれる過程が垣間見えるフィッティングサロンや、裁縫師たちの手によってファッションの魔法がかけられるアトリエを再現した空間を経て、たどり着くのは白と黒に絞られた空間。この2色もメゾンにとって欠かせない色であり、色を削ぎ落とすことで服のボリュームやフォルムを際立たせている。コロッセオをほうふつとさせるカーブラインのセットに飾られたドレスもさることながら、コロナ禍に幻想的なライブパフォーマンス映像を通して発表された20-21年秋冬クチュールの天井に届くほど長く引き伸ばされたドレスに釘付けになる。
そのほか、エリザベス・テイラー(Elizabeth Taylor)からアン・ハサウェイ(Anne Hathaway)やゼンデイヤ(Zendaya)まで「ヴァレンティノ」とつながりの深いセレブリティーが着用したドレスを飾った部屋もあれば、美術品さながらのアクセサリーや、メゾンの未来を描くピッチョーリのコレクションに影響を与え続けている貴重なアーカイブの展示もある。ピッチョーリによる毎シーズンのコレクション発表後にまとめられるインスピレーションとなったイメージやスケッチ、メモ、ポラロイドなどで構成した図録のようなプライベートの資料も初めて完全な形で公開された。そんな展覧会は、10の異なる切り口で表現された空間を通して、メゾンの歴史を見つめたり、再発見したりすることができるようになっている。
そして、最後に観客を待ち受けているのは、22-23年クチュールショーの舞台となったローマの名所であるスペイン階段を再現したような空間。約60体のさまざまな肌の色のマネキンが、パステルからビビッドまでカラフルな歴代のルックをまとい、階段にずらりと並ぶ光景は圧巻だ。それは、常に「ヴァレンティノ」のクリエイションの原点となっているローマをたたえ、コレクションを生み出してきた2人のクチュリエの時を超えた“美”の対話と言える。
同展では、ピッチョーリとともに、ニューヨークにある新現代美術館のエドリス・ニーソン アーティスティック・ディレクターでもあるキュレーターのマッシミリアーノ・ジオ―ニ(Massimiliano Gioni)と、ファッションジャーナリストであり批評家のアレクサンダー・フューリー(Alexander Fury)がキュレーターを務めた。ピッチョーリは、「この展覧会に取り組むにあたり決めたのは、過去と今の関わりを表すこと。そして、ローマのクチュールメゾンである『ヴァレンティノ』やそのコードを示すことだ。メゾンの中にいる自分だけでなく、さまざまな視点を通して描くため、マッシミリアーノとアレクサンダーに参加してもらった」とコメント。「これは、時系列に作品を展示したものでも、ただ過去をたたえる回顧展でもない。私が愛するヴァレンティノ氏の作品を取り入れながらも、ノスタルジックな感覚を与えるのではなく、明るい未来につながる過去と今というアイデアを表現している」と説明する。