ファッション

イザと新進ブランドがタッグ 乳がんサバイバーに向けたランジェリープロジェクト「ザ ブラ」にかける思い

  セレクトショップのイザ(IZA)と、ランジェリーブランド「アルバージェ ランジェリー(ALBAGE LINGERIE)」が協業し、乳がん手術を経験したサバイバーの女性とともにブラジャーを開発するプロジェクト「ザ ブラ(THE BRA)」が始動した。「術後に着用できるデザイン性の高いブラジャーが見つからない」という課題を解決すべく、術後の胸をやさしく包み、高揚感を得られるようなランジェリー作りに着手した。取り組みの意義に共感した旭化成アドバンスは、新・高機能ファブリック「エコセンサー」を提供し、フランス産の花柄レースと組み合わせたブラトップとショーツが、10月の「ピンクリボン月間」に合わせて完成した。田中タキ・イザ代表と、デザインを担当した高崎聖渚「アルバージェ ランジェリー」デザイナーに、プロジェクトの発足背景や制作過程、デザインにかけた思い、素材へのこだわりを聞いた。

イザと乳がんサバイバーが
長年築いてきた関係を
生かしたモノづくり

WWDJAPAN(以下、WWD):イザは以前から乳がんの啓もう活動に取り組んでいるが、きっかけは?

田中タキ・イザ代表(以下、田中):一番最初のきっかけは、映画化もされた「余命1ヶ月の花嫁」という、23歳で乳がんを患った女性のドキュメンタリーを偶然テレビで見たことです。その時に初めて、乳がんは発見が遅れると命を落とす可能性もあると知りました。検診で早期発見ができればほとんどの場合は助かる病なのに、それさえも知らず、誰も教えてくれないことになんだかすごく腹が立ったと同時に、このことを自分と同じように知らない女性たちに伝えなければいけないという使命感に駆られました。イザではそれまでパーティーをたくさん主催してきたので、一番楽しいときに大切な乳がんの知識を啓もうすることが私らしいピンクリボンキャンペーンだと発想して、女性の幸せを応援するファッションチャリティイベント「イザ ピンク クリスマス(IZA PINK CHRISTMAS)」を2007年から開催しています。

WWD:「ザ ブラ」プロジェクトが発足した背景は?

田中:長年「イザ ピンク クリスマス」を開催してきて、乳がん患者会、サバイバーの女性たちとの親交を深めてきました。その中で、彼女たちから「素敵な下着が見つからない」という話を聞いてきました。ずっと何か商品を作れないかと考えてきましたが、私はインポーターであり、モノづくりはまた異なるフィールドだと考えています。そのような中で、コロナ禍で海外に行くことができず日本にいる時間が増えたこともあり、若手起業家とともに新しいチャレンジをしたいとポップアップ企画「イザ ウィズ フレンズ(IZA with FRIENDS)」を昨年9月にスタートしました。「ザ ブラ」プロジェクトで協業した「アルバージェ ランジェリー」との出合いは、このポップアップで取り扱ったのがきっかけです。デザイナーの高崎さんに、私と信頼関係がある乳がんサバイバーの女性たちをご紹介し、彼女の得意分野であるモノづくりに専念してもらえるのではと考えました。

高崎聖渚「アルバージェ ランジェリー」CEO(以下、高崎):「アルバージェ ランジェリー」は立ち上げから6年目のランジェリーブランドです。創業時から、あらゆる女性たちに選択肢としてさまざまな下着を届けたいという思いがありました。けれども、まだ小さなブランドですし、大きな社会的インパクトを持っているわけではありません。ファッションを通して、何らかの形で女性をフォローしたいという思いはありましたが、手段を持てず悶々としながら、まずは下着が好きな人に向けてファッションとして新しい切り口でランジェリーを提案していました。なので、タキさんにお声掛けをいただいたときは、突然目の前が開けたような気持ちでしたね。

対話を重ねて
機能とデザインを両立

WWD:プロジェクトには乳がんサバイバーの声を反映させた?

高崎:乳がんサバイバーの方に、「日ごろから着用している下着やバストを見せてください」とお願いしました。自分自身経験がなく、それまでサバイバーの方にお会いしたこともなければ、術後の胸を見たこともなくて、抽象的なイメージしか持っていませんでした。まさに“ひと肌脱いで”いただき、サバイバーの明るく前向きに経験を話してくれる姿を見て、このプロジェクトでどんな下着を作るべきなのか、だんだんと輪郭が浮かび上がってきました。

WWD:具体的にどのようなニーズが浮かび上がってきた?

高崎:インタビューさせてもらったのは、乳がん手術から時間がたち、乳房の再建手術をしている女性が中心でした。下着は着心地を我慢して一般的なものをつけていたり、色やデザインの選択肢が少ないサバイバー向けの下着を仕方なく選んでいるという方がほとんどでした。「アルバージェ ランジェリー」の既存のデザインを数日間着用していただいてアンケートを取るなどして、デザインや色、着心地まであらゆる要望を拾っていきました。そうして、サバイバーの皆さんが、着心地を重視しながらも素敵なランジェリーを身に着けたいという思いが伝わってきました。

田中:40〜50代で乳がんに罹患している方も多く、その年代はちょうど更年期と重なります。乳がんの治療では、女性ホルモンを抑えるホルモン療法が行われることも多く、その結果更年期症状がさらにひどくなったという話も聞いています。ホットフラッシュによって汗が止まらない、皮膚がカサつく、かゆみを感じるといった、下着を着ける際にも影響する悩みを抱えている人が多くいらっしゃいます。さらにがんの進行度によっては、脇の下のリンパを切除することもあり、リンパ浮腫や腕が上がりにくいといった、不自由を抱えることも。「ザ ブラ」はデザイン面ではインポートレースにこだわりながら、そういった悩みに対応できるように、生地の肌触りや吸水速乾性、脇をできるだけ広く開けたり、背中に手を回さなくても着脱ができたりするような機能面も追求しました。

高崎:一言では表現できないほどの微調整を積み重ねましたね。一般的なブラジャーはバストの脇に合わせてカップをカットしているのですが、「ザ ブラ」は思い切って前身頃全体をカップにしました。乳房を再建していると体の動きにバストがついてこず、ずれを感じてしまうことがあるそうで、着心地を良くするためには工夫が必要でした。また「ブラとショーツがセットになっていることがうれしい」とも言っていただけました。おしゃれが好きで年を重ねてきたので、乳がんになったからおしゃれをすることが好きじゃなくなるわけがないんですよね。色は黒が好きだし、レースだって楽しみたい。ショーツもフルバックが好きな人もいれば、Tバックが好きな人もいます。けれども、乳がんサバイバーに向けた下着はどうしてもデザインが後回しになっていました。そういった部分をどうフォローできるかが、鍵でしたね。

乳がん経験者もそうでない人も
“がんを特別視しない”という思い

WWD:2つのビジュアルにはどのような思いを込めた?

田中:まず、イラストのビジュアルは以前から親交のある田辺ヒロシさんに賛同いただき、友情協力で手掛けてもらいました。「ザ ブラ」プロジェクトでは、乳がんを経験した人も、していない人も同じように愛用できるデザインを目指しました。今、乳がんは日本人女性の9人に1人が罹患するといわれ、将来的には4人に1人ともいわれます。どこかで自分はならないだろうと思っている方も多いかもしれませんが、決して人ごとではないと考えています。そんな思いを込めて、前を向く2人の女性を表現してもらいました。もう一つが、私やイザのスタッフ、高崎さん、サバイバーの方たちがモデルを務めたビジュアルです。サバイバーだけがモデルを務めるのではなく、乳がん経験者も、そうでない人も、双方が撮影に加わることで“何も変わらない”というメッセージを込めました。女性たちの連帯(シスターフッド)も感じ取ってもらえたらうれしいですね。ビジュアル撮影は当初は実現が難しいと思っていましたが、友人のフォトグラファー中川真人さん、アートディレクターの関田森彦さん、スタイリストの宮澤敬子さん、メイクアップアーティストのyUKIさん率いる#yUKImaketeam、SHIMA HARAJUKUの奈良裕也さんら業界の仲間たちが賛同してくれたことをきっかけに、形にすることができました。

機能性素材「エコセンサー」

  縫製や生地、デザインにこだわりながら、デリケートな肌にも優しく、さらに乳がんサバイバーの手に取ってもらえる価格を実現するために、素材選びは難航したと田中代表と高崎デザイナーは振り返る。デザイン上どうしても採用したかったというフランス産の花柄レースに合わせて、マッチする生地を探してたどり着いたのが旭化成アドバンスの「エコセンサー」だったという。見た目の上品な光沢感もさることながら、優しい肌触りと吸水速乾性を兼ね備えた生地はこのプロジェクトにぴったりの素材だ。

 旭化成アドバンス繊維本部 インナー・レッグ事業部第1営業部の徳永奎弥は、「『ザ ブラ』プロジェクトには当社としても共感する部分が大きく、生地の提供に至りました。吸水速乾性が欠かせないということで、原糸は旭化成のキュプラ繊維『ベンベルグ』と、速乾性に優れたリサイクルポリエステルを使用しています。サステナブルでありながらも、従来と同じ耐久性や快適性と繊細なタッチが特徴で、レースとマッチする光沢感も評価していただき、思いが詰まった一着が出来上がりました」と話す。
※「エコセンサー」は旭化成アドバンスの登録商標です。

TEXT:NATSUMI YONEYAMA
問い合わせ先
旭化成アドバンス インナー・レッグ事業部
03-5404-5037