ファッション

東京のファッション業界人も通う福岡の個性派古着店 元美容師のオーナーが店を開いたワケ

 先日、出張で福岡に行く機会がありました。前回同地に赴いたのは2019年春のこと。コロナ禍によって3年強も間が空いてしまったので、事前情報がスッカラカンです。というわけで、現地のファッションコミュニティーにご友人や知人が多く、リアルな福岡事情を熟知した奥村展子さんに事前リサーチ。奥村さんは福岡発の雑貨ブランド「イントキシック(INTOXIC.)」やファッションブランド「トーマス マグパイ(THOMAS MAGPIE)」を手掛けるデザイナーで、6年ほど前の福岡出張で出会いました。

 頼りになる奥村さんが、福岡で勢いのあるお店として教えてくださった1つが「アー ユー ディファレント(Are You Different)」という大名地区の古着店でした。天神地区のお隣である大名は好きなショップも多く、福岡に行く度に訪れていますが、19年夏にオープンしたという「アー ユー ディファレント」は未チェック。取材アポを入れて訪れてみると、対応してくださったのは荻野友彰オーナー。冒頭の写真を見てもお感じいただけると思いますが、お店も荻野オーナー自身も非常に濃く、「あの店に行くために福岡に行きたい!」と思わせる“デストネーションストア”だったのでたっぷりご紹介させてください。

 現在46歳の荻野さんは元々美容師で、今も「アーユー ディファレント」そばで「ロックンロールゲームズ(Rock’ n’ Roll Games)」というヘアサロンを運営しています。また、「アー ユー ディファレント」以外にも系統の異なる古着店2店(うち1店は共同経営)を運営しており、計4店のオーナーです。今はヘアサロンは経営のみで美容師としての活動はしていませんが、最初に自身の“城”としてオープンしたのはヘアサロン。30代前半でサロンを持ち、その数年後に1店目の古着店「ザ マンデーズ(THE MONDAYS)」を開いています。それが今から11年ほど前のこと。「ザ マンデーズ」は今も経営している4店のうちの1店です。

始まりは美容室でのアンティーク雑貨販売

 今でこそ美容師がサロン内で服や雑貨を売ったり、サロンに併設する形でショップを持ったりすることもよく見聞きするようになりましたが、11年前というとまだまだそういった事例も少なかったころ。なぜ古着店を開くことになったのかというと、「福岡で古着店をしている友人についてアメリカの田舎町に買い付けに行くようになり、集めた絵や皿などの雑貨を自身のヘアサロンで売ってみたらすごく反応がよかったから」と荻野さん。「当時は福岡に目立ったウィメンズの古着屋もあまりなかった」と振り返ります。

 「ザ マンデーズ」はガーリーな世界観が10〜20代女性客を中心に支持され、「福岡の古着屋○選」といったウェブ記事などでも名前が挙がります。一方で荻野さんが「本当に自分がやりたいこと、好きなものを集めてスタートした」というのが「アー ユー ディファレント」。同店店舗は以前は飲食店とそのオーナーの住居だったというコンパクトな3層の建物で、赤い鉄骨の梁が剥き出しになったかなり無機質な空間です。その中に、「私を買うべき!」という強烈なオーラを放つピースから、ちょっとヘンテコリンなものまで、宝物のような古着がたくさん詰まっていました。

 「シャネル(CHANEL)」や「サンローラン(SAINT LAURENT)」「エルメス(HERMES)」などの分かりやすいデザイナーズビンテージを集めている古着店ではありません。そういった商品もないわけではないですが、主役は荻野さんのフィルターを通して集められた、洋の東西や年代、ジャンルを問わないノーブランドの服たち。ネイティブアメリカン由来のアイテムもあればブートもののバンドTシャツもあり、スカジャンもあり、古い日本の半纏(はんてん)もあり、元の持ち主がDIYでアップリケを付けまくったであろう、思わず笑ってしまうアイテムもあり。ただ、1点1点じっくり見ていると「こういったデザインの古着が、あの有力ブランドのあのシーズンの着想源だったのでは?」だなんて感じるものもある。ラグジュアリーメゾンからドメスティックブランドまで、あらゆるデザイナーがリファレンスとして古着を掘りまくっているわけですから、さもありなんですよね。

 古着のほかに、リメーク商品も店頭に並びます。取材当日に荻野オーナーが着ていたジャケットも古着のリメーク。テーラードジャケットの裏地としてビンテージドレスのレースをドッキングし、それをインサイドアウトにして着こなしていました。足元に合わせていたのは新品で買ったという「コム デ ギャルソン・オム プリュス(COMME DES GARCONS HOMME PLUS)」のヒールパンプスですが、こちらも印象的。店頭ではほかに、「ザ レター(THE LETTER)」と「アー ユー ディファレント」との協業のレザーシューズなども品ぞろえしていました。

「古着には想像を超えるものがある」

 「美容師時代から、古着も新品も垣根なくファッションがずっと好き」と荻野オーナー。その中でも特に古着にひかれるのは、「古着を買い付けに行くと想像を超えるものが出てくる」から。「古着は生地もいいものを使っていることが多く、とてもぜいたく。今の服はなかなかこんな凝ったことはしないなとハッとする。もちろん、新品の服にハッとすることもあるけど、古着の方がそういう瞬間は多い」と言います。「毎シーズン、店のテーストが固定してしまわないように買い付けでは頭をなるべく柔らかくしている。買い付けは、何が売れるかよりもその時の自分の気持ち優先。自分はかなりガラっと気分が変わるタイプで、品ぞろえもその時々で大きく変わる。新品も含めかなり多くの服を見ている中でそんなふうに気分が変わるわけだから、それが世の中全体の気分でもあるんだと思う」と続けます。

 そんな荻野オーナーの買い付けには業界玄人のファンも多く、「東京の古着店の人や、デザイナーが来店するケースも少なくない」。店頭とECでの売り上げ比率はおよそ半々。ECでは「関東圏や関西圏からの購入が非常に多い」というのもうなずけます。客層は男女半々、20〜40代が中心。取材時、店頭には1950年代のスカジャンで10万円台という商品もありましたが、1万円台の商品もあり、平均すると商品単価は3万円台とのこと。

 荻野オーナーは「アー ユー ディファレント」の出店を考えていた際に東京の物件も探していましたが、たまたま現在の物件が見つかって福岡での出店を決めました。「東京には古着屋もたくさんある。福岡でやっていて良かったのかも」。ただ、やはり「福岡以外でも古着屋はやってみたい。でも、まずはヘアサロンの拡大が先かな」と話していました。品ぞろえが自由で面白く、荻野オーナー自身もキャリアをキャラも非常にユニーク。そして価格も良心的。他地域から訪れるファンが後を絶たないという理由がよく分かる店でした。皆さんも福岡を訪れる際にはぜひ「アー ユー ディファレント」に行ってみてください。

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