ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。アパレルや小売業は、他業種に比べて生産性が低いと言われることが多い。生産性を高め、低収益から脱するにはどうすればよいのか。具体的に考えてみよう。
アパレルビジネスの収益性を左右する最大要素とされるのが労働生産性だが、こつこつと改善を積み上げても限界があり、製販の分業や同盟、システム装備や資本装備のレバレッジを効かせない限り、高収益は望めない。頑張っているのに儲からないアパレルに共通するのが「1人当たり売り上げ」や「1人当たり粗利益」の低さで、何のレバレッジも効かない労働集約型には限界がある。では、どんなレバレッジを効かせれば労働が報われる高収益が実現するのだろうか。
アパレルチェーンに見る労働生産性の効率指標
企業の収益力を評価するには「資本」の生産性を指標とするのが一般的で、総資本に対する収益性を問うROA(Return On Asset、総資産利益率)、あるいは自己資本に対する収益性を問うROE(Return On Equity、自己資本利益率)が使われる。わが国では安全性を重視して自己資本比率を高める(配当性向を抑制して内部留保する)ROA経営が志向されるが、米国では配当性向を高め自社株を買い入れて自己資本を抑制し借入金でレバレッジを掛けるROE経営が志向される。米国の上場アパレルでは結構、高収益なのに自己資本を抑制して借入金に依存するケースが多く、自己資本比率や純資産対運転資金比率を見ると危なっかしいほどタイトな運用に驚かされる。
投資家やアナリストの間で大っぴらに議論される資本の生産性に比べれば労働の生産性は現場段階の運用指標やPL(損益計算書)段階の効率指標にとどまることが多く、政策的にレバレッジを掛けるケースは少ないが、人的コスト(人件費と外注費)は設備コスト(賃料と減価償却、金利負担)と並ぶ販管費の中核であり、収益性に直結する。人件費は物流費や運営委託費など外注費に隠れることも多く、実態で捉える必要がある。その上で「売上対人件費率」や「粗利益対人件費率」、パートタイム雇用者もフルタイム換算して「1人当たり売り上げ」や「1人当たり粗利益」、より正確には「人時売り上げ」(1人1時間当たり売り上げ)や「人時生産性」(1人1時間当たり粗利益)を算出して管理指標とするべきだ。
上場企業の開示資料から「人時生産性」まで算出して比較するのは難しいが、「1人当たり売り上げ」や「1人当たり粗利益」は容易につかめる。東証上場の主要アパレルチェーンを比較すると、「1人当たり売り上げ」が最も高いのはしまむらの3867.3万円で、国内ユニクロ事業の2961.5万円が続くが、「1人当たり粗利益」は垂直統合型と仕入れ型の粗利益率の格差で国内ユニクロ事業の1569.6万円がしまむらの1318.7万円を逆転する。
この両者が低単価商品(しまむらは887円、ユニクロはその3倍程度と推察)を扱うのに対し、ユナイテッドアローズや青山商事ビジネスウエア事業(スーツだけ取れば平均2万6767円)は商品単価が万を超え、「1人当たり売り上げ」も高くなる。
ユナイテッドアローズの「1人当たり売り上げ」は最盛期の14年3月期には3814.7万円(「1人当たり粗利益」は2033.2万円)にも達していたが、直近22年3月期は2474.9万円(「1人当たり粗利益」は1235.0万円)と65掛け(「1人当たり粗利益」は61掛け)まで落ち込んでおり、給与水準を維持できなくなっている。青山商事ビジネスウエア事業の「1人当たり売り上げ」も19年3月期の2722.3万円(「1人当たり粗利益」は1595.3万円)から22年3月期は2205.0万円(「1人当たり粗利益」は1221.6万円)と落ち込んでおり、収益はもちろん給与水準の維持も難しくなっている。
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