ファーストリテイリングと国連難民高等弁務官事務所(以下、UNHCR)は、94万人が暮らすという「世界最大規模の難民キャンプ」、バングラデシュ南東部のコックスバザールで、ロヒンギャ難民の女性を対象にした自立支援プロジェクトを開始した。まずは2023年3月末までに、250人の女性に縫製のトレーニングを実施。繰り返し使える生理用布ナプキンや肌着のショーツを難民女性たちが有償ボランティアとして生産し、キャンプ内の女性に配布する。プロジェクトは25年までの予定で、ファーストリテイリングは初年度に80万米ドル(約1億1840万円)を拠出する。
同プロジェクトの記者会見には、UNHCRのトップであるフィリッポ・グランディ(Fillipo Grandi)国連難民高等弁務官も柳井正ファーストリテイリング会長兼社長と共に登壇した。「(ウクライナ紛争以降)世界の難民・国内避難民は1億人を超えた。UNHCRは各国政府からの拠出金で活動しているが、バングラデシュをはじめとする各地のプロジェクトで資金は不足している。政府だけでなく、民間企業からの支援が不可欠だ。他の日本企業にも是非同様に取り組んでほしい」とグランディ氏はコメント。柳井会長は「一般的な日本人は、難民問題は自分からはとても遠い話だと思っている。世界が平和になることは日本や日本人にとって深く関係があること」と語った。
ファーストリテイリングは01年から難民支援活動をスタートし、06年からUNHCRと連携、11年にアジアの企業として初めてグローバルパートナーシップを締結した。具体的には、店舗での難民雇用や難民への衣類支援、UNHCR事務所への社員の派遣などを行っている。社員派遣プログラムを通し、今回の舞台であるコックスバザールのUNHCR事務所にも12〜13年にかけて社員2人を派遣。NGOをサポートする形で布ナプキンの縫製技術を伝えた経緯があるという。「その際は生産のキャパシティーも限られ、難民女性に布ナプキンが行き渡るまでには至らなかった」(長谷川のどかUNHCRバングラデシュ ダッカ事務所上級開発担当官)ことで、今回のプロジェクトにつながった。
今回は「立ち上げの1年前からファーストリテイリング側にキャンプの状況などを伝え、協議を重ねてきた」と長谷川担当官。「支援のための資金が限られる中では、難民が徐々に技術を身につけて自立していくことが必要。しかし、緊急時に難民キャンプを立ち上げるといったアクションを得意分野とするUNHCRは、自立のための専門技術を持っているわけではない」と語り、だからこそ民間企業が関わることに意義があると説く。衣料品の生産・販売を本業とするファーストリテイリングが関わることで、今後は布ナプキンやショーツの生産効率を向上させ、より使い心地が快適なものへと品質も上げていくという。
同プロジェクトは、パイロット期間とする23年3月末までに250人の難民女性が参加し、バングラデシュ内のファーストリテイリング生産パートナー工場の力も借りながら、縫製トレーニングを実施。布ナプキン77万点を生産し、女性1人あたりに7〜8枚を配布する。25年までに1000人が参加する予定。同時にトレーニングの場が、一人で子どもを育てているケースも多い難民女性同士が連帯する場となることも期待する。
難民はバングラデシュ国内での就労やキャンプ外への移動が認められていないため、今回のプロジェクトも就労ではなく有償ボランティアという形をとる。報酬は1時間50タカ(約72円)で、1日4時間、週5日参加する。「バングラデシュの月間最低賃金が6000〜7000タカ前後であることを考えると、今回のプロジェクトの月間4000タカという金額は非常に低い報酬ということはない。難民支援は国際機関、NGO、政府、民間企業などさまざまなアクターが協力しながらそれぞれが主体的に進めていくことが重要。民間企業もわれわれ1社だけでは限界がある。23年に開催されるグローバル難民フォーラムに向けて、民間企業が連携できるように、現在他の日本企業やグローバル企業と情報交換も進めている」(新田幸弘ファーストリテイリンググループ執行役員)という。
ファーストリテイリングは、同様のプロジェクトをバングラデシュ以外の難民キャンプにも広げていく意向。6月に開始した平和のためのチャリティーTシャツプロジェクト「ピース・フォー・オール(PEACE FOR ALL)」の売り上げや寄付の一部も今後このプロジェクトに充てる。