ビューティ

「アディクション」退任から3年半 ネクストステージに向かうAYAKOメイクアップアーティストが考える次世代のカラーコスメとは?

 AYAKOメイクアップアーティストは、「アディクション(ADDICTION)」の前クリエイティブディレクターとして、当時国産メーカーでは類を見なかったモードな世界観をコンセプトにしたメイクアップブランドを生み出し、日本のコスメ業界に革命を起こしてきた。2019年3月末に退任してから早3年半が経過した今もなお、米ニューヨークを拠点にするAYAKO氏はどのような活動をしているのだろうか。マルチな広がりを見せているという現在の活動や心境について聞いた。

WWD: 「アディクション」を離れてからの活動は?

AYAKOメイクアップアーティスト(以下、AYAKO): 「アディクション」時代はブランドのクリエイティブに全力投球していたこともあり、メイクアップアーティストとしての現場仕事からは離れていたのですが、パンデミックが明けてからはアリシア・キーズ(Alicia Keys)やアナスイ(Anna Sui)といった以前からのクライアントや、新たなメイクアップの仕事が多方面で復活しつつあります。アリシアは20年前の彼女のデビュー時に多くの仕事をしていましたが、今年のメットガラでのメイクアップをきっかけに、コンサートやアルバム、MVなども手掛けています。彼女のビューティブランドである「キーズ ソウルケア(KEYS SOULCARE)」のPRにも携わっていますね。

 他にも2020年11月に手掛けた「ヌメロ ヴェントゥーノ(Nº21)」とのコスメコラボレーションライン第2弾の提案など、多種多様なコラボプロジェクトが同時に進行中です。これまでの時代は、集中したら一つのことに深く関わり達成することが常でしたが、今や世の中の働き方が変化しているように、私自身もマルチプルな働き方にシフトしてきています。

WWD:まさにこれまでの集大成となるフェーズに向かっている。

AYAKO:そうです。ただ正直言えば、コスメを「使う側」だった私にとって初めて開発に携わることになった「アディクション」が集大成のつもりでした。結果的には全身全霊をかけて育て上げたブランドを手放すことになり、それはまさに「生み育てた子供をお嫁に出す」感覚に近いものだったと言えます。ですが、自分が本当に届けたいプロダクトを製造・PR・販売するまでの一連の流れを学んだことは今の活動にとても生きているし、これからが本当の集大成、次なるステージにつながっていると感じています。

WWD: 2020年にパンデミックが起こった時、ニューヨークは特に被害が甚大だったが、どのように過ごしていた?

AYAKO:ロックダウンの期間はじっくりと自分と向き合う時間でもありました。美しい夕日が眺められるハドソンリバーに面したマンハッタンのお気に入りのアトリエにこもり、「ヌメロ ヴェントゥーノ」とのコラボ商品を仕上げたり、一人きりで「アディクション」のアーカイブを一つずつ整理する作業をしたりしていました。前年に親友との突然の死別や、急性盲腸炎での緊急入院、その後8年ぶりに犬を飼い始めるといった私にとっての大きな出来事もあり、生きていくことや自分の健康と向き合うことを考えさせられる大切な時期となりましたね。また世の中のソーシャルメディアに改めてきちんと触れて、素早く時代を学ぶこと、また同時に休む時間の大切さなどを感じる良い時間でした。

WWD:また自分のブランドを作ることは考えている?

AYAKO:作りたいと考えています。とはいっても今や、ジェンダーを問わずセレブリティがプロデュースするコスメブランドが続々誕生しているので、ここで別のメイクアップブランドを立ち上げても意味はないのかなと思っています。これだけの選択肢がある中で、自分が本当に共鳴できるものでないと消費者の心も動かない時代。ある程度年を重ねていくにつれて、「何を使ったらいいかわからない」「何色を選べばいいのかわからない」なんて声も聞こえますし、YouTuber が発信するコントゥアーやベーキングメイクに対して、「Should I do that?(これ、本当にやらないといけないの?)」なんて思ってる人も実は多い。だからこそ難しいテクニック要らずで、1つのプロダクトでシンプルにプロが施したかのようなメイクができる、そんなブランド作りを考えています。

WWD:新ブランドはどんなコンセプトになる?

AYAKO:インナーケアをテーマにしたヘルシーなメイクアップブランドになると思います。外側にのせるものだけに頼らず、内側からグロウ(glow)する。本当の美しさって内から滲み出てくるものですよね。今一番注目しているのが、発酵や菌です。実は私は金属アレルギーを持っていて、パール剤を肌にのせるとかゆくなってしまうのですが、皮膚常在菌を育てることでかゆみや不快感を軽減したという研究結果もある。菌の力で肌のバリアを強くしながら、メタリックな加工物を使わずに輝きを与えられるプロダクトがあったらいいですよね。作るのはものすごく大変そうですが(笑)。世の中にはまだ見当たらないので、やってみる価値は大いにあります。

WWD: サステナブルな視点もポイントになってくる?

AYAKO:もちろん環境に配慮することは今の時代は必須。今まで捨てていたものを再利用するということでいえば、例えば豚、羊、馬などの胎盤から抽出されるプラセンタや、ダチョウの卵の抗体エキスなどの自然界にある栄養を再利用したスキンケア製品は多く出ていますが、カラーコスメに活用している製品はまだない。そういったことも取り入れながら、でもサステナブルやビーガンをうたっているからといってなにもかもが良いわけではないとも思っています。例えば化粧品をバクテリアから守ってくれる防腐剤は長期使用の観点では必要な場合もあるし、ミツバチから分泌される蜜蝋もすごく肌にいいのに配合するとそれはビーガンではなくなってしまう。時代にのったそれらしい“言葉”に惑わされず、自分のライフスタイル、信念を持って商品を選ぶことが今の消費者にとっては大切なのかもしれません。そして吟味して良い商品を選び、長く愛用することこそが素晴らしいサステナブル。化粧品は気分を大いに上げてくれる「小さなぜいたく品」ですから。

WWD: 世間の常識や当たり前に捉われず、視点を変えてみることが大事だ。

AYAKO:2009年の「アディクション」立ち上げ当時のエピソードがあるのですが、私が「究極の赤い口紅とネイルポリッシュもラインに加えたい」と伝えたら、企業側からは「今の時代、赤い口紅は日本では売れないし、セルフネイルはもはや古いですよ」と猛反対されたんです(笑)。でもその後レッドリップは大きなトレンドになり、今ではどのブランドでも販売されるほど日本人に浸透しましたよね。そして無理を押して開発したモードなカラーのネイルポリッシュはブランドのアイコンにもなったほどです。自分の信念を貫けばきっとそれは実現するし、世の中にも伝わると思います。時間はかかりますけど自分が納得のいくものを作っていきたいし、今までトライしてこなかったことにもっとチャレンジしていきたいです。

PHOTOS:REIKO YOO YANAGI 
撮影協力:Mika Bushwick

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