ミラノやパリを現地取材した「WWDJAPAN」村上要編集長と藪野淳欧州通信員、日本のウィメンズアパレル市場に詳しい五十君花実記者が2023年春夏シーズンを振り返り、ビッグトレンド「Y2K」の提案の変化や、デザイナーからの社会的なメッセージの発信強化などについて語り合った。。(この記事は2022年11月14日発売「2023年春夏トレンドブック」からの抜粋です)
藪野:2023年春夏もまだまだY2Kファッションの影響は顕著でしたが、どう見られましたか?
村上:Y2Kは、正直今季がピークだと見ています。いよいよ「肌見せ」は裸に近づいている印象があり、ランジェリーがアウター化している。ボディー・ポジティブは、「肌見せ」以外の表現方法が出てくる気がします。ただこの春夏は、日本でも予想以上にお腹を出したスタイルが流行ったから、「まだまだイケるのかな?」なんて思うことも。
五十君:肌見せはみんな慣れてきた感じがします。なかでも「シャネル(CHANEL)」や「ディオール(DIOR)」の提案は上手でしたね。
村上:「シャネル」はペチコートと組み合わせるだけで、伝統的なツイードジャケットを格段と今っぽく見せました。キーワードに挙げた「定番の再解釈」にもつながります。
藪野:今季は、「大人がY2Kを取り入れるには?」という問いに答えるようなデザインも目立ちました。「フェンディ(FENDI)」や「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」が象徴的でしたが、サテンやリキッドジャージーなど滑らかでエレガントな素材を用いたカーゴパンツは、いろいろな人がワードローブに加えられる春夏のキーアイテムとして期待しています。ローウエストも、今季はパンツやミニスカートだけでなく、ロングやフレアのスカートまで広がり、より幅広い層に受け入れられそうです。
トレンドは継続 カラーの提案が鍵に
五十君:全体的に継続トレンドが多いですよね。もはやトレンドが半年で移り変わるような時代ではないのでしょうか。
藪野:そうですね。核となるアイデアやスタイルを進化させていくという考えが広がっています。マチュー・ブレイジー(Matthieu Blazy)による2季目の「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」は、デビューシーズンのアイデアを発展させつつ、新たなデザインも織り交ぜて、素晴らしいコレクションを見せてくれました。「ミュウミュウ(MIU MIU)」も22年春夏に打ち出したスタイルに毎回新しい要素を加え、フレッシュに見せているのが印象的です。
村上:コロナ禍にはこれまでのファッションサイクルを見直す動きがありましたが、最終的にたどり着いたのは、既存のサイクルを維持しつつアイデアが枯渇しないように全部を1シーズンに詰め込まないスタンスでしょう。ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)はかつて「自分のアイデアこそサステナブルにしなくては」と訴え、温めているアイデアを一度に全て詰め込まないことを明言しました。特に社会的価値観と密接な発信が強まる今は、シーズンごとに訴えたいメッセージが大きく変わることもないと思います。
五十君:そうなってくると、新しさを出すためにもますます色が重要になりますね。今シーズンのカラートレンドは?
藪野:最も印象的だったのは、ニュアンスカラー。パステルやくすみカラーなど、「ドリス ヴァン ノッテン」のコレクションの中盤を見るとよく分かります。
五十君:去年の春夏は、日本ではかなりはっきりした色がはやりました。
藪野:ビビッド系では、今季は蛍光っぽい色味やメタリックカラーが多かったです。ランウエイでは全身でワントーンをまとったり、強い色同士を合わせたりという提案も見られましたが、実際には1アイテムだけや小物などアクセントとして取り入れるのがはやりそう。例えば、「トッズ(TOD’S)」はニュアンスカラーのスタイルに足元だけまぶしいイエローのバレエシューズやバッグを合わせていました。また、今季は定番のユーティリティーの要素を軽やかに取り入れているブランドも多かった。もともと実用性重視のメンズライクなアイテムが多いスタイルですが、素材や色、シルエットを変えることで無骨な印象を無くしているのがポイントです。
村上:「エルメス(HERMES)」は、ジャージーやシルクジョーゼットとテントのロープを組み合わせたドレスを提案していました。「ロエベ(LOEWE)」が、ハンティングジャケットをAラインで仕上げていたのもかわいかった。
グランジやパンク、漂う反骨ムード
五十君:テーラードジャケットやブレザーは?
藪野:アウターは定番のアレンジが中心でしたが、テーラリングだと引き続きボックスシルエットが人気。合わせ方は、ブラトップやシャツ、ドレスなどさまざまです。バイカージャケットは、レーシングユニホームを想起させるシングルライダースのデザインが新鮮でした。先シーズンあたりから会場外のストリートスナップでよく見るようになり気になっていましたが、今季のランウエイではラグジュアリーメゾンから若手ブランドまでが提案していましたね。スカートやドレスでは、フリンジやプリーツ、ラッフル、アシンメトリーなデザインで、ドラマチックなヘムラインを演出するデザインが目を引きました。
五十君:動きが分かりやすいヘムやプリーツのアイテムは、EC上でもドラマチックに見えるので売りやすいそうです。
藪野:写真だけでなく動画もあるECサイトは増えていますしね。ほかにもデザインで際立っていたのは、切りっぱなしや切り込み、ダメージ加工など。そこにはグランジやパンクなどを取り入れた反骨的なムードが漂い、今の世界に対する強いメッセージを放つデザイナーも増えていると感じます。
五十君:それはメンズの時から顕著でしたよね。
村上:「バレンシアガ(BALENCIAGA)」はまさにそうでしたね。社会問題に対するスタンスは、どこまで押し出すべきか考えさせられるシーズンでした。その後はイェの問題が起きたりもして。ミラノの若返ったブランドのポテンシャルはどうですか?
大胆な肌見せで若返るミラノ勢
藪野:今季は、「フェラガモ(FERRAGAMO)」「エトロ(ETRO)」「ミッソーニ(MISSONI)」「バリー(BALLY)」が一気に新クリエイティブ・ディレクターによるデビューショーを行いました。みんな大胆な肌見せでかなり若々しく刷新された印象です。1シーズンだけで判断するのは難しいですが、個人的にはマクシミリアン・デイヴィス(Maximilian Davis)による「フェラガモ」が1番良かった。若い感性を支えるものづくりの体制が整っているように感じました。
五十君:今、若者に人気のブランドはどこなんですか?
村上:「クレージュ(COURREGES)」じゃない?コレクション期間中着ている人をよく見かけました。
藪野:デザイナーのニコラス・デ・フェリーチェ(Nicolas Di Felice)は、本当に若い子たちの着こなしを理解していると思います。大の音楽好きでもあり、レイブパーティーを主催するなどユースカルチャーとのつながりも強いんですよね。ビジネス面でも、9月に出店したニューヨークに続き、10月にはパリ3号店をオープンするなど勢いに乗っています。若手では、20代後半の女性デザイナーが同世代に向けた等身大のセンシュアリティーを表現する「ネンシ ドジャカ(NENSI DOJAKA)」や、サイズインクルーシブなスタイルを提案する「エスター マニャス(ESTER MANAS)」など、自身の信念を貫いているブランドも興味深いですね。