「レスポ―トサック(LESPORTSAC)」は、ニューヨーク・ソーホー地区に新たなフラッグシップショップをオープンした。1974年の創業以来、軽量リップストップナイロンを用いた機能的かつスタイリッシュなバッグは、オンオフの境界線が曖昧になったコロナ禍で一層支持されている。日本においても直営店およびECの2022年売上高は、すでにコロナ禍前の2019年比を上回っており、好調だ。要因は、本国アメリカと共同開発した“レスポートサック アトリエ”コレクションの発売や、パートナーや家族とのシェア利用を促すキャンペーンのヒットなどにある。“ニューヨークらしさ”という軸はブラさず、時代を捉えて進化するグローバルブランドの“今”とこれからとは。
本社やスタジオ併設の
新拠点から発信強化
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ニューヨークでメルビン&サンドラ・シフター夫妻が創業した「レスポートサック」は、もともとセーリングに ヒントを得て誕生した。国際的でアクティブな彼らの精神と、“シンプルで自由”な水上スポーツの美学を融合させたリップストップナイロン製のバッグは、圧倒的な軽さとオリジナリティーあふれる色やプリントを強みに、当時のニューヨーカーの移動を快適にし、行動範囲を広げた。日本では、1990年代のアメカジブームをきっかけに、CAや女子大学生がこぞって愛用したことから人気に火が付き、2000年代にはデザイナーやアーティストとの積極的なコラボレーションで、世界各国での知名度を確固たるものにした。
23年春夏ニューヨーク・ファッションウイーク期間中にオープンした「レスポートサック フラッグシップ & グローバルデザインスタジオ」は、こうした創業からのDNAを体現したブランドのコミュニティーとクリエイティブの新たな拠点だ。ファッションの聖地であるソーホー地区グリーンストリート32番地に位置する3階511m²の建物に、旗艦店とデザインスタジオ、コンテンツ制作スペース、本社オフィスを集約した。グローバルブランドの店舗設計を数多く手掛けるスタジオブッチによる内装コンセプトは、「軽快でエレガント」「モダンでタイムレス」。
ホワイトとブルーを基調にした開放的で洗練された空間に、カラフルなバッグやポーチが映える。オープン時には、ジャン・ミシェル・バスキア(Jean Michel Basquiat)のアートワークを用いたエッジィなコラボコレクションなどを取りそろえ、同氏のグラフィックがウィンドーディスプレーを飾った。またプレミアラインの“アーク アン シエル”では、SNSで226万フォロワーを誇るシャーロット・ダレッシオ(Charlotte D'alessio)をビジュアルに起用し、アメリカにおけるZ世代へのアプローチを強化。世界中から人々が集まるニューヨークのフラッグシップから、この街で醸成されたブランドのアイデンティティーを国内外に強く発信していく。
日米共同開発の
“レスポートサック アトリエ”が大ヒット
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10月に米国と日本限定で発売された“レスポートサック アトリエ”は、ニューヨークのクリエイティブチームとレスポートサック ジャパンが共同で 企画・開発した新たなカプセルコレクションだ。過去に日本限定商品の販売はあったが、本国とローカルチームの共作はブランド史上初。実現の背景には、トーマス・ベッカー(Thomas Becker)最高執行責任者(COO)の「ファッションに対する情熱が非常に強い」日本市場への兼ねてからのリスペクトがあったという。
同コレクションは、軽量性と機能性を軸に、キルティングやメタリックホイルなどの新素材やモダンなデザインで、よりファッション性を高めた。「形は機能に従う」をコンセプトに、「ブランドの新たな一面を見せる、未来へ向けたライン」と位置付けて、今後も継続的に発表していく。
2022-23年秋冬のファーストシーズンは、実用性とフォーマルの融合を掲げた。日本国内では、リアルバンブーハンドルのトートバッグが幅広い世代に支持されて、発売2日で即完。パール付きのスモールヘルメットバッグは、ファッション性と機能性のバランスの良さからZ世代に最も人気だった。ECと店舗では、5日間で併せて5000万円以上を売り上げて、上質さと機能性を求める新規顧客の取り込みにも成功した。この大ヒットを受けて、各国からも販売オファーが殺到。次のシーズンからは他国での取り扱いも検討しているという。
パートナーや家族との
“シェア利用”提案で客層に広がり
日本では、パートナーや家族との“シェア利用”を促すキャンペーンが奏功している。「レスポートサック」では創業当初からサステナビリティとして、長く使える商品を提案しているが、現在、日本では次なるステップとして、ジェンダー問わずに“シェアできる”バックパックやボストンバッグ、トートバッグをビジュアルと共に訴求。カップルや家族での来店が増え、強みである耐久性や軽量性、常時200種類以上をそろえる商品バリエーションの豊富さが、キャンプを中心としたアウトドア需要や、再開した学校行事需要に刺さった。
中井康滋レスポートサックジャパン営業統括本部長は、「もともとシェア利用は多かったが、改めてキャンペーンで打ち出したところ反響があった。コロナ禍で在宅とオフィス出社をミックスした働き方が浸透したが、PCなどで荷物は重くなっている。単にカジュアル思考ではなく、ストレスフリーを求めるお客さまが増えており、通勤バッグとしてパートナーとのバックパックシェアや、親子でのボストンバッグシェアなどさまざまなケースが見られた」と語る。さらに「メンズブランドからの協業オファーが増えたことは想定外だった。反響があったことはうれしく思うし、2023年は新しい企画も増える」と続ける。
日本国内の直営は現在、65店舗。今後の出店にも積極的だ。課題は「ブランドの世界観をダイレクトに感じて、実際に見て触れてもらえる空間づくり。デジタルが加速する中でも、リアル店舗も重視し、賛同いただける商業施設とはタッグを組んでいきたい。 機能性とデザイン性の両立など、付加価値のある商品やサービスの発展も使命。オンオフからジェンダー、シーンまで、全ての垣根を越えるブランドの“自由”な魅力を今一度マーケットに伝えていきたい」。
“ライトネス”のコンセプトを
製品から店舗まで拡大
旗艦店から世界を明るく、
軽やかに照らす
ブランド戦略として、ソーホー店のオープンはかねてからの目標のひとつだった。同店舗では 小売店の域を超え、ブランドの文化とアイデンティティーを育み、表現やチームをまとめ、創造性の推進が進むだろう。アメリカ本社から小売店、マーケティングチーム、デザインスタジオまでを1つの施設に集約し、コンセプトやブランド自体を活性化させるため、必要だと考えたのはブランドに没入する環境だった。このアイデアは決して斬新なものではないが、創造性、関係性、ブランド文化などを育むことができると信じている。
ブランドのDNAである“軽量さ=ライトネス”は、バッグが物理的に軽量であるだけでなく、“世界を明るく、軽やかに照らす”というコンセプトとしても重要だ。シンプルでタイムレス、かつ機能的な製品を手掛けるブランドアイデンティティーを店舗でも表現したかった。ロゴを活かしたデザインや天井の高さなど、空間全体が“ライトネス”を意識した作りになっている。ウインドー ディスプレーも洗練され、現代にあわせたクリアなメッセージを生活者、クリエイティブコミュニティー、そして業界全体に発信し、「レスポートサック」の世界にいざなうよう設計した。
ブランドのアイデンティティーを至るところに表現することで、コンセプトがどのように現場で機能するのか、店舗でどのように心が動くか、などをスタッフが見て、感じて、体験し、創造性をもって前向きに働き、生活をするために重要な役割をもつ。コンセプトスタジオも備え、迅速なコンテンツ制作も可能になった。加えて、インフルエンサーやパートナー、各関係者を受け入れる場所としても発展するだろう。新たにオープンしたソーホー店は、改めて現場から全てのチームやクリエイティブが団結して行動することを後押ししてくれるはずだ。
レスポートサックジャパン
0120-141-333