「サカイ(SACAI)」でメンズのパタンナーを約6年間務めた高橋伸明が、ユニセックスの新ブランド「NTN」を2023年春夏シーズンに立ち上げた。ブランド名は高橋デザイナーのイニシャル“NT”に、さらにNを加えて繰り返す記号のように文字を配置し、ブランドコンセプトである“永続性”を表現。ブランドを長く続けるという決意とともに、「新しいベーシックを生み出したい」という高橋デザイナーの思いを込めた。
ファーストシーズンは、自然を好む高橋デザイナーのライフスタイルや、ブランドが歩む方向性をものづくりで体現した。アイテムはデザイナー自身が着たい服をベースにした13型で、自然環境と都市生活をシームレスにつなぐ、メンズとウィメンズ、ユニセックスのウエアを提案する。価格帯はジャケット8万6000〜9万4000円、シャツ3万4000〜4万円、キャミソール1万1000円、Tシャツ1万7000〜1万9000円、ボトムス2万8000〜3万8000円。生産は国内をベースにしながら、一部は海外生産も視野に入れる。
ミニマルなジップアップジャケットの生地は、はっ水性のあるコットンポリエステル。フロントファスナーを上部に向かってカーブさせることで、上まで閉じた際に顔への接触を防ぐなど、アウトドアウエアのディテールをコレクションの随所に用いている。シンプルなシャツには、アノラック風の大きなポケットを腹部の内側に取り入れて、ブルゾンの立体的構造を融合させた。ベーシックなアイテムにギアの要素を盛り込みながらも、“道具”ではなく、あくまで「審美的な服にこだわっている」と高橋デザイナー。「最も大切にしているのは、シルエットと素材感。着たときに美しく見える立体的な構造や、きれいな素材感とカラーリングがクリエイションの根幹」。深みのあるブラウンや、淡いグリーン、ピンクなどの優しい色味は、土や森、太陽から着想を得た色彩だ。
異なる要素の掛け合わせ
原点は「サカイ」での経験
1982年生まれの高橋デザイナーは、文化服装学院、文化ファッションビジネススクール卒業後に渡仏。サンディカ・パリクチュール校(Ecole de la Chambre Syndicale de la Couture Parisienne)に進学し、卒業後はパリや日本のブランドで経験を積んだ。「サカイ」ではメンズ部門チーフパタンナー兼ブランドマネジャーを務めた。
自然と都市、美しさと機能、普遍性と革新性などを融合させる「NTN」のクリエイションは、対極的な要素のハイブリッドを得意とする「サカイ」での経験が影響している。「ゼロから何かを作るより、既存のものを掛け合わせて新しいベーシックを生み出したい。『サカイ』でのキャリアを生かしながら、自分らしさを表現できたら。将来的に海外で発表もしてみたいけれど、まずは求められる規模で、長く続けていくことが目標」。自分は遅咲きだからと控えめな語り口ではあるものの、高橋デザイナーの言葉の一つ一つには強い意思があり、静かな自信を感じた。11月16〜18日に開いた展示会には、大手セレクトショップから地方店までが来場。各店のバイヤーが23年春夏シーズンの買い付けをほとんど終えている時期にもかかわらず、バイイングのピーク時と同等のアポイントメントがあったという。