ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。「ジェラート ピケ」「スナイデル」「コスメキッチン」などを展開するマッシュホールディングスの株式譲渡は、ファッション業界のみならず大きな話題になっている。多数の人気ブランドを擁する成長企業がなぜ株式譲渡に動いたのか、踏み込んで考察してみよう。
マッシュホールディングス(HD)が米国の独立系プライベート・エクイティ(PE、未公開株式投資)ファンド、ベインキャピタル※1.に全株式を2000億円で売却する(うち40%程度を近藤広幸社長が再出資して経営を継続)という11月16日の発表以来、業界は「身売り」の戦略的真意を推し量る話題で盛り上がったが、同社の状況を冷静に俯瞰すれば先を見据えた「深慮遠謀」も見えてくるのではないか。
秘密のベールの向こうに垣間見えるファム・ファタール
米国PEファンドによる2000億円の買収という規模感(売上高4470億円のそごう・西武が2500億円ですよ!)、コロナで青息吐息のファッション業界で大規模M&Aという意外感に加え、今どうしてマッシュHDなのかという穴馬感もあり、業界メディアのみならず経済メディアまで注目するイベントとなった。どうしてマッシュHDが「穴馬」なのか、それには2つの理由がある。
1つは同社の非公開体質だ。都合の良いときは業績を開示しても都合が悪くなると非開示を決め込んでしまうというこれまでの経緯で、秘密のベールの向こうに見え隠れして業界人でも実態をつかみかねている。今日まで開示された情報を総ざらえしてみても、全社売上高以外は意図した欠落(非公開)が多く、表面的な数字もともかく、経営効率や財務状態まで推察することは困難だ(専門機関のデータで一部は補足できるが、その部分はメディアに開示できない)。
マッシュHD設立直後の14年8月期までは売上高と営業利益、ブランド別店舗数などの外景数値は開示していたが、15年7月にマッシュライフラボをマッシュスタイルラボに吸収合併して以降、19年8月期に開示するまで空白期間が続き、継続して開示すると思われた矢先にコロナ禍に襲われた。駅ビル・ファッションビルへの依存度が極端に高い(バロックジャパンリミテッドの「アズール バイ マウジー」のような郊外SC向け業態を持たない)同社は大きなダメージを受けて20年8月期業績の開示を控えてしまい、21年8月期にようやく開示を再開したが、営業利益や効率指標、財務内容まで開示したわけではない。それは今回の22年8月期も同様で、外景数値さえも部分的に欠落しており、過去の業績との連続性も確認できないのが実情だ。
もう1つは、業績の非開示とも関係して、見る立場によってまるで異なる姿に見えてしまうミステリアスさだ。フェミニンな女性イメージもあって、ファム・ファタールのように秘密めいている。顧客から見ればファッションビジネスを体現したような華やかさに魅かれるが、転職サイトに投稿される離職者の声からは違った姿も聞こえてくる。CGクリエイションからファッションやビューティに広がったデジタルネイティブなイメージとは裏腹に、往年のCG業界やDC業界のようなアナログ体質を引きずっているのではないか。
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