今回は10月に安田氏が視察に訪れたスペインの小都市の街づくりについてリポートする。日本の街づくりに生かせるヒントがたくさんありそうだ。(この記事はWWDJAPAN2022年11月21日号からの抜粋です)
サン・セバスチャンは、スペインの北に位置する人口18万人の小さな街である。美しいビーチ、緑豊かな山、教会などの歴史的建造物、旧市街を走る路地。熱海を数倍魅力的にした観光地といえばいいか。だが、ここは少し前までは閑散とした田舎町にすぎなかった。どうやって町おこしをしたのか。
それはバルから始まった。ここバスク地方の人々は慎ましやかで真面目。日本人と似ている。少し違うのは、革新的かつ創造的な側面を併せ持っていることだ。バルの料理人たちは地産地消を守りながら、新しい技法を取り入れたピンチョスやタパスを開発した。その上でレシピを公開し、他店にも共有したというではないか!
街のバル全体のレベルが底上げされ、バルを何軒もはしごする人が増えた。行政も重い腰を上げ、サン・セバスチャンを「美食の街」として売り出し始めた。結果、この小さな街からミシュラン3ツ星の店が3軒も輩出された。いまや世界から人が集まる一大観光地である。
バル巡りの楽しいこと!おいしいこと!
私も夜のバル巡りに出撃した。その楽しいこと!おいしいこと!4軒目で酩酊状態になりながらも、ある光景が目に留まった。片隅のテーブルで、いかにも地元の人とおぼしき3人のおばあさんがタパスを食べながらワインを飲んでいるではないか。渋谷のミヤシタパークの居酒屋におばあさん3人連れはまず来ない。その先のテーブルには子供2人に食事をさせながら、お母さんがワインを味わっている。つまりこのバルは観光客のためだけではなく、地元の人たちが日常的に楽しむ場でもあるのだ。
これこそが「文化」である。その土地の昔からの伝統を進化させている。なんて素敵なのだろう。この街は毎晩たくさんの人を幸せにしている。日本の街づくりにもその考えを生かしたいと強く思った。
次に訪れたのはサン・セバスチャンから車で東に30分ほどのオンダリビア。フランス国境に近い小さな街である。
ここには有名なパラドール(古城を改装した国営ホテル)がある。オンダリビアのパラドールは10世紀に建てられた城塞で、外壁には17世紀のフランスとの戦争でできた砲弾跡が無数にある。歴史の重みを感じる古城ホテルの部屋から、かつて戦いが繰り広げられた海を眺めながら飲むスペインワインは、最高の味わいだった。
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