東レは繊維事業で、2023年3月期に売上高1兆円、事業利益540億円を計画する。繊維事業は19年3月期の9743億円、営業利益729億円(いずれも日本基準)が過去最高だった。以降は世界的なアパレル需要の冷え込みにコロナ禍も直撃、売上高は伸び悩んでいた。23年3月期は世界的なアパレル需要の回復に加え、原燃料価格の高騰なども後押しする形になる。同社は繊維事業の中長期的なミッションとして「ビジネスモデルの進化」と「サステナビリティ」を掲げており、2006年からスタートしているユニクロとの戦略的パートナシップについて日覺昭廣・社長は「コロナ禍もあり、対外的な発表はしていないものの、パートナーシップはもちろん継続している。21年以降のパートナーシップについては取引額以上に、リサイクルやバイオマス素材の開発などのサステナビリティを軸とした取り組みの進化に重点を置いていく」という。
東レは今年、ファーストリテイリングの有明オフィスのそばに「有明ラボ」を設置した。主要な縫製拠点である香港やベトナムなどの海外生産拠点と連携しつつ、「有明ラボ」内でサンプル作成までできる体制を整えた。繊維事業のトップである三木憲一郎・常務執行役員は「リードタイムを短縮するなどの商流の進化やビジネスの高度化にも取り組んでおり、取引額自体は伸びている。ただ、そうした短期的な数字以上に、21年度以降はより中長期的なものづくりを重視していく」という。
三木常務はこの数年間を「米中の貿易摩擦やコロナ禍、原燃料価格の高騰など、予測できない環境変化が続く中で、成長分野への投資など必要なアクションは取れたと考えている。収益の厳しさはあるが、サプライチェーンの高度化の道筋は付けられていると考えており、今後はリサイクルポリエステル『アンドプラス』などのサステナビリティへの投資を強化する」という。リサイクルポリエステル「アンドプラス」は23年3月期に、前期の3倍上回る売上高600億円超を計画しており、ブロックチェーンを使ったトレーサビリティシステムの開発にも着手している。また、9月には「イッセイ ミヤケ」のパリコレで、100%植物由来のポリエステル衣服を発表していた。
また、水処理などに使用する分離膜技術を活用した、非食用バイオマスを原料とした高濃度糖液の開発にも着手しており、タイの実証プラントでは従来の蒸発法に比べて40%のエネルギーを削減できるという。この「糖」を原料に、発酵技術と分離膜を組み合わせた合成方法の開発も進めており、エアバックなどに使用するナイロン66繊維の原料となるバイオアジピン酸の開発にも成功しているという。
来年度からスタートする中期経営計画でも、「こうしたサステナビリティ分野への投資を強化する」(三木常務)方針だ。