エルメス(HERMES)は11月22日から27日まで、エルメスの職人たちの手しごとを紹介する、「エルメス・イン・ザ・メイキング」展を京都市京セラ美術館で開催している。フランスから職人たちが来日し、日頃愛用する道具を使い、その手仕事を目の前で披露。さらに来場者からの質問にその場で答えてくれる、いわば「会いに行ける職人たち」が主役の展覧会だ。21日には内覧会を開催。来場者は職人たちの目線や指の動きを食い入るように見つめ、通訳者を通じて多くの質問を寄せていた。
同展は4つのゾーンで構成し受け継がれるクラフツマンシップを立体的に紹介している。メゾンの原点である鞍作りに始まり、スカーフ“カレ”の精密なデザインとシルクスクリーンによる再現、皮革職人による“ケリー”などの鞄の修理実演、手袋職人がレザーの品質を見極める様子、ジュエリー職人の極小さな石留めなど。また、素材へのこだわりを伝えるコーナーでは、レザーやシルクといった素材の背景を手に取って理解できるよう、工夫して展示している。
トークセッションで「エルメス」のスピリットを深掘り
「エルメス」は1837年にパリに工房を構えて以来、6世代にわたってものづくりに宿る力、クラフトマンシップの伝統と文化、美しい素材を探求してきた。現在では7カ所ある工房で約6000人の職人が働く。
21日にはトークセッションも行われ、オリヴィエ・フルニエ=エルメス インターナショナル エグゼクティヴ・バイス・プレジデントと映画監督の奥山大史が登壇。ジャーナリストの国谷祐子・東京藝術大学理事の進行で「エルメスのアトリエを訪ねて」をテーマに話した。
1996年生まれの奥山監督は「エルメス」のドキュメンタリーシリーズ「ヒューマン オデッセイ」で総監督を務めている。工房を訪れた感想を聞かれると、「職人さんが楽しそうなのが印象的だった。託児所や小さな美術館もあり、音楽を聞き対話をしながら仕事する光景を見て、労働環境というより一作り手が過ごす場として理想的な環境だと思った」と答え、さらに「職人さんの知識の豊富さとそれを各人が自分の言葉で説明できること、他国の職人技にも詳しいことに驚いた」と続けた。
これらの感想をうなずきながら聞いていたオリヴィエ=エグゼクティヴ・バイス・プレジデントは職人の職場環境の特徴のひとつは「自由があること」と紹介。「『エルメス』は職人の集合体である。職人は演奏者であり、『エルメス』という曲を自由に演奏する。自由があることが職人たちのモチベーションとなっている」と話した。また、工房のワークショップは1グループが最大30人、最大10グループの規模感であると明かし、「継承とは人と人がつながること。互いを尊重し、よく知るにはこの位の人数がマックスだ」と説明。「今の時代は何でもクイックだが、時間をかけることは大切だと思う。職人たちは18カ月をかけて基礎を学び、エキスパートと呼ばれるまでに5年近くの歳月を要する。好奇心があれば生涯学び、進化することができるだろう」などと話した。
トークセッションの客席には、ドイツ発祥で今では京都だけに残ると言われる伝統的な染色技法「京都マーブル」を営む野瀬家の姿もあった。実は「エルメス」は10年をかけて「京都マーブル」の技術を世界中から探し出し、製品化へとつなげている。会場ではそのいきさつを伝えるドキュメンタリー映像も流した。国谷理事から「巧みの技がグローバルに継承される時代」というキーワードがあがると、オリヴィエ=エグゼクティヴ・バイス・プレジデントは「サヴォワールフェール(職人技)は世界の共通言語だ」と返答。職人技術が受け継がれる京都で開催する意義の深さと併せて強調し、京都の職人も集まる会場から大きな拍手を受けた。