昨年9月に発売したI-neのナイトケアビューティーブランド「ヨル(YOLU)」が、発売から約1年(9月30日時点)で累計販売個数1000万を突破した。同社の看板シリーズ「ボタニスト(BOTANIST)」の発売当時(2015年)の初動に迫る好調なすべり出しで、同社のヘアケアカテゴリーにおける“第二の矢”として期待を懸ける。
「ヨル」は、髪の油分と水分バランスを整える“リラックスナイトリペア”と摩擦や乾燥などからのダメージ保護に重点をおく“カームナイトリペア”の2つのシリーズで構成。それぞれシャンプー・トリートメント(各475mL、税込1540円)、ジェルヘアマスク(145g、同)、ヘアオイル(80mL、同)をラインアップする。いずれも髪のキューティクル補修などにより、就寝中に起きる摩擦から髪を守る働きが期待できるという。
使用者からのフィードバックでは、「翌朝の仕上がりやまとまり、香りのよさといった、ヘアケア製品としてのエッセンシャルな品質・機能に高い評価をいただいている」と藤岡礼記・執行役員マーケティング本部長。「僕らが目指しているのは、ドラッグストアやバラエティーストアで売られている他社製品よりも『少し高くて、少しいい商品』ではない。数千円はするサロン専売品レベルのクオリティーのものが、この価格で手に入ることに価値がある」と語る。
ただ、「ヨル」のヒット要因は、ヘアケア用品としての品質や機能だけでは語れない。「ボタニスト」を屋台骨へと育てると共に、日本のヘアケア市場で“ボタニカルシャンプー”という新たなカテゴリーを開拓したノウハウが生きている。
「ボタニスト」の知見を生かし
コンセプトと体験を設計
“第二のボタニストを作る”という号令の下、一昨年スタートした全社一丸のブランド開発プロジェクトから「ヨル」は生まれた。全社員から集まった約70のアイデアから選ばれたのが“ナイトケアビューティー(夜間美容)”のコンセプトだ。発案者は20代の若い女性社員。欧米を中心に広まる、「寝ているときにもパックをして時間を有効活用する」という新しいスキンケア習慣にヒントを得た。
藤岡執行役員は、「このコンセプトを選んだ最大の理由は“タイミング”だった」と話す。「ボタニスト」の成功について「自然由来の処方と化学の融合を、当時海外で流行っていた“ボタニカル”というワードでいち早く表現できたこと」が要因のひとつであると振り返る。「今はコロナ禍で消費者の意識がセルフケアに向かっている。“ナイトケアビューティー”のコンセプトは、安らぎや癒やしを求める消費者心理にマッチしていた」。
また、趣向を凝らしたボトルデザインが大半だった日本のヘアケア市場で、透明のボトルに手描き文字のラベルでデビューした「ボタニスト」のルックスは新鮮に映った。「ヨル」においても、「製品のファーストインプレッションを決める『パッケージ』『即効性』には特に力を入れた」。夜明け前をイメージした神秘的なボトルデザインはSNSを中心に話題に。処方面では、ダメージを修復する保湿成分ナイトセラミド、地肌を整えるネムノキ樹皮エキス、ハスの花エキス、さらにキューティクルを補修する18-MEAやCMC類似補修成分を配合し、「洗い流した瞬間から、こっくりとした潤いを感じられること」にこだわった。
「単に『いいものを安く作る』という発想では、自社工場を抱える大手企業には太刀打ちできない」と藤岡執行役員。「僕らはファブレス(工場を持たない)なビジネスモデルだからこそ、研究・開発リソースの枠組みにとらわれないアイデアが出てくる。『世の中にどんな価値を提供したいのか』を起点にコンセプトを設計し、それから一緒に実現できる工場を探す。遠回りに思えるが、市場にないものを生み出すためには必要なプロセスだ」。
リピーター獲得を強化
長期的な成長シナリオを描く
「ボタニスト」の売上高(21年12月期)は約140億円。同社の売上高283億円(同)の半分近くを占める。収益源を多角化し、より強固な事業ポートフォリオを作る上でも「ヨル」の育成は至上命題だ。藤岡執行役員は「売り上げで『ボタニスト』と並べるだけのポテンシャルはある」と期待を寄せる。
「ボタニスト」ではリピーター獲得が長期的な成長要因となっている。同社が今年2月に実施したアンケートでは、他社の1000円以上のシャンプーと比較して継続購入率※が最も高い結果となった。同様に、「ヨル」の今後の成長においても、いかに継続購入を増やすかがカギになる。「根強いファンを作るためには、ブランドのコンセプトや世界観をより広く、深く理解してもらうことが必要だ」。処方のブラッシュアップやラインアップ強化、インフルエンサーを活用した認知拡大など、さらなる売り上げ拡大へアクセルを踏む。
10〜60代の3万人を対象に、「2回以上購入して使用したことがある」という項目で調査