ニューヨーク発のライフスタイルブランド「キス(KITH)」は、2020年に東京・渋谷のミヤシタパークに日本初となる旗艦店キス トウキョウをオープンした。現代アーティストのダニエル・アーシャム(Daniel Arsham)率いるクリエイティブチーム、スナーキテクチャー(SNARKITECTURE)が内装を手掛けた同店は、一歩足を踏み入れた瞬間にその世界観に引き込まれる。エッジィでありながらもアットホームな店の雰囲気を作り上げているのは、吉田恭平キス トウキョウ ストアマネジャー率いるスタッフたち。吉田マネージャーに、接客の極意を聞いた。
吉田マネージャーは、上陸前からブランドの大ファンだったという。「10年ほど前、『キス』がジョガーパンツを流行らせた時期がありました。メンズの商材なのに、広告に起用するモデルは全て女性。そのアプローチが斬新で、このブランドは何かが違うなと衝撃を受けました。当時は日本では買えなかったので、ニューヨークに行く知り合いに頼んで買ってきてもらったりしてなんとか商品を手に入れていました」と振り返る。そんなブランドへの愛が俣野純也キス トウキョウ ディレクターに伝わり、日本上陸のタイミングで大手アパレル企業から転職した。
現在は本国チームと連携しながら店頭ではトップ顧客の接客を担当する。吉田マネージャーのように上陸前からのファンの顧客も多いなか、ブランドへの圧倒的な知識量が信頼関係につながっている。テクニックは、ワードローブを意識した提案だという。「ストリートスタイルで来店するお客さまもいれば、スーツで来店するお客さまもいます。その日着ている服で決めずに、ワードローブをヒアリングしながら『キス』のプロとしての提案を心がけています」。
「キス」といえば、話題性のあるコラボ企画だ。「スパイダーマン」や「BMW」までジャンルは幅広い。毎週月曜日にコラボ商品や新作がドロップされる「マンデープログラム(Monday Program)」には、さまざまなジャンルのファンが早朝から行列をなす。NBAのバスケットボールチーム「ニューヨーク・ニックス」とのコラボには2000人が並んだという。吉田マネジャーは、「現場は殺伐としていて、接客するのも一苦労でしたね」と振り返るが、「どんなコラボであってもファンの熱量に負けないようにパッションを持って接客するよう心がけています」と話す。毎週新作発売の度にオープン前から並ぶ顧客も多い。「熱い想いを持って店に通い続けるお客さまに接客する時間にやりがいを感じます」。
限定品を目掛けてきた客を1度きりの来店で終わらせず、「キス」のコミュニティーに巻き込むことも吉田マネジャーが心がけていることの1つ。「本国と近いポジションを生かして、ブランドの思いを伝えることに徹します。『キス』の由来は、スコットランドの古い言葉で家族や友人を表す“KITH and KIN”という言葉から来ています。サブテーマは、仲間内を表現する“Just us”。仲間を大切にするブランドフィロソフィーを伝えると同時に、店に入った瞬間から『キス』チームの一員になったような感覚を味わってほしい。買って終わりではなくて、買った商品を着てまた気軽に店に遊びに来られるような空間づくりを心がけています」。
店頭には20代の若手スタッフも多いが、商品のバックグラウンドを丁寧に伝える吉田マネージャーの教育で、アイコン的若手スタッフも育ってきているという。「情報共有は徹底しながらも、ブランドを好きな理由はあまり絞りたくないんです。スタッフそれぞれの好きを尊重することで、個性的な店舗が作れると思います」と吉田マネージャー。「店はまだスタートしたばかりで伸び代は大きい。スタッフ全員で勉強を続け、ワクワクを提供し続けたいです」。