「無印良品」を運営する良品計画は、食品の地産地消に本腰を入れる。出店するエリアで名産品だけでなく、十分に良さが広まってない農産物や海産物などを使った新商品を開発。地域内での“ローカルサプライチェーン”の構築を目指す。世界中に供給網を広げることで大量生産と低価格を実現してきた「無印良品」にとって新機軸になる。
関西限定で11月11日に発売された加工食品は、「無印良品」のローカルサプライチェーンを象徴するものだ。「街かどあぐりにしなり よろしい茸工房」(大阪市西成区)のきのこを使ったアヒージョ、スープ、醤油糀だれ、きのこごはん。よろしい茸工房は、高齢者の健康や障害者の就労訓練、雇用の場として農業と福祉の連携プロジェクトを推進する福祉農園である。地元の食品加工業の幸南食糧(大阪府松原市)と、糀製造販売の糀屋雨風(大阪市堺市)との協業で商品化にこぎつけた。
地域開発商品担当マネージャーの藤林亮氏は、よろしい茸工房で最初に目にした光景が忘れられない。「コロナ禍で食材の大量廃棄が問題になっていた頃。在庫の山となっていたしいたけを目の当たりにし、なんとかしないといけないと使命感にかられた。まずは当社が運営するレストラン『カフェ&ミールMUJI』の食材として仕入れ、2年がかりで加工食品にすることができた」
地域の課題解決に貢献する
良品計画は、2024年8月期を最終年度とした中期経営計画のなかで「無印良品の生活圏構想」を掲げる。日常生活の基本を支える存在となり、地域課題の解決や町づくりに貢献することで「地域への土着化」を2030年に実現するというものだ。
そのために地域と連携して生活圏への出店を加速し、店舗をコミュニティセンターと位置付ける地域密着型事業モデルの構築に取り組んでいる。その役割を担うのが、21年9月に開設された「地域事業部」だ。
現在、北海道、信越、群馬、茨城、千葉、北陸、横浜南、岐阜、近畿、広島の国内10地域に地域事業部を設置。自ら手を上げて名乗り出た人が各事業部の責任者となり、出店計画から限定・独自商品の開発までを行う。食の専門売り場を備える大型店1号で、18年の開業当時、世界最大だったイオンモール堺北花田店(大阪府堺市)は近畿事業部が担当する。近畿事業部は京都、滋賀、奈良、南大阪、和歌山に現在34店舗を展開する。今後は地元で信頼されている食品スーパーの横など生活圏に600坪超で出店し、2年後50店舗をめざす。
近畿事業部長で執行役員の松枝展弘氏が、堺北花田店の開業当時を振り返る。
「当時、すでに従来型の都市型ライフスタイルに少し違和感を感じていた。人と人の関係が分断され、距離感が難しくなってきているのではと。そこで、地域と一体となった『無印良品』のモデル店舗を堺北花田に出店した。狙いはあたり、毎年成長を続けている」
人と人をつなぐことをめざした堺北花田店では、地元の生産者と生活者をつなぎ、顔の見える関係づくりに尽力してきた。マルシェ型イベント「つながる市」を開くだけでなく、店舗スタッフ自ら産地を訪ね、ストーリーをまとめた取材レポートを発行。生産者と生活者が一緒に考えたり、試食しておいしさを共有したりするイベントも行なっている。
「地域とつながるには、食が一番大事になってくる。食の周りには着るものも暮らしもあり、そのなかから『無印良品』が今後考えるべきテーマが見えてくるはず」と、松枝氏は話す。
堺北花田店と京都山科店では、地域の老舗や事業者と協業し、店舗内テナントの開発にも挑戦した。さらに昨今は、生産者とともに農業や漁業、林業など一次産業の課題に取り組み、商品化に注力してきた。近畿事業部では、南大阪と京都を中心に地域と共同開発した35アイテムを既に販売。2年後には100アイテムまで増やす考えだ。
生産量が減っていた特産ネギを使う
2年前に発売してヒットしたのは、難波ネギを使ったアヒージョだった。なにわの伝統野菜である難波ネギは独特の強いぬめりがあり、加工用機械を通らないため、近年生産量が減少していた。流通量を増やしてほしいという難波ネギ普及委員会からの依頼を受け、食品加工業の幸南食糧と共同開発した。また近畿事業部で一番人気の共同開発商品は、京都府京田辺市の杉田農園で栽培されたトマトを使ったピッツァマルゲリータ。1枚850円で、月間約1800枚も売れるという。
地域事業部が最終的にめざすのは、地域内でローカルサプライチェーンを構築することだ。グローバルサプライチェーンとして店舗拡大する「無印良品」だが、今後の日本社会を考えると、食だけでなくあらゆるものが分散型にならざるを得ないという。
松枝氏は「本部の支援を受けながら地域で商品開発できる態勢を作っていく。ようやくその一歩を踏み出せた」は言う。事業部でローカルサプライチェーンを組み立てるなかで、いずれは生産にも関わりたいという個人的な夢も抱いている。