サステナビリティ

「1枚のTシャツから世界を良くしていく」、服地卸の最大手スタイレムの丸編みオタク2人が挑むサステナビリティへの挑戦

 サステナブルファッションの重要性が高まる中、多くの企業やブランドが従来のビジネスモデルを変えようとしている。最もグローバル化の進んだ産業の一つであるアパレル産業で、世界をより良くするために何をすべきか、また、服の品質やこだわりとどう両立させるべきなのか。服地卸の最大手であるスタイレム瀧定大阪が推進するオーガニックコットンのプロジェクト「オーガニックフィールド」と、究極の着心地を掲げるカットソーブランド「リフィル」、2つの事業のディレクターであり、カットソーオタクの2人でもある、小和田哲弘「リフィル」ディレクターと太田雅之スタイレム インターナショナル インディア取締役の対談をお届けする。

いいカットソー素材ってどんな生地?

WWDJAPAN(以下、WWD):お二人とも、もともとはカットソー生地の営業だったとか?

小和田哲弘(以下、小和田):太田くんも私も所属する課は違いましたが、もともとはカットソー生地の営業です。当社の場合、営業と言っても企画チームと連携しながら、糸の選定、生機(きばた)の生産、染色管理、販売までを一貫して担当する。私は10年ほどやりましたが、営業は結果が全てで、言い訳の利かない世界。でも実はいいものを作っても高すぎると売れない、というジレンマを感じることも少なくなかった。

太田雅之(以下、太田):今は変わりましたが、僕らが現場にいたころは、同じ会社と言えども課が違えば競合のようなもので、特に同じ丸編み生地を扱っている07課の小和田さんのことは結構意識していました。小和田さんはめちゃくちゃこだわりが強くて、「そこまで考えて、掘り下げるんか」って横目で見てました。いつも出来上がった生地はめちゃくちゃいい。でも営業目線だと「これだとオーバースペックじゃないか」とも思ってました(笑)。

小和田:まあでも、そんな考えが募ってスタートしたのが、この「リフィル(LIFiLL)」です。まだ市場に出ていない、とことんこだわって作ったいい素材を世に出したいという思いがベースにあります。

WWD:どんなこだわりが?

小和田:丸編みの場合、重要なのは原料です。主力アイテムは、超長綿のスーピマを100%使い、甘撚りの糸を天竺で編み上げています。

太田:このぬめりと落ち感がすごくいいんですよ。超長綿ならではの、業界的でいうところの油分がよく出ている。いいカットソー生地の条件の一つに肌離れの良さ、が挙げられるのですが、これは油分が関係していると言われています。あまり良くない生地だとパサパサに乾いていて、肌に直接当たると不快感にもつながる。「リフィル」のTシャツは真逆です。

小和田:できるだけスーピマ綿の長所を引き出すため、生産の際に細かな手間を掛けています。その一つが、生地を編み上げたときのまま、筒状のまま仕上げを行っていること。通常、丸編み地は、機械から上がったときに効率を上げるために、カットして平面状にして仕上げたり、縫製したりする。筒状だと効率が悪いので。縫製工場も、筒で持っていくと、カットする手間が余分にかかるし、当然そのための設備も必要になるので嫌がられるんですが、古い付き合いのある工場にお願いして作ってもらってます。

「使えば使うほど地球を良くする」
素材とは?

WWD:太田さんはなぜ「オーガニックフィールド」を?

太田:僕は本物を追求していたら、種と畑まで行ってしまったという感じです。

小和田:分かる!カットソーって基本は原料だもんなあ。

WWD:すみません、よく分からないのでもう少し詳しく。

太田:小和田さんも先ほど言っていましたが、カットソーの品質を大きく左右するのは原料の綿花なんです。オーガニックコットンプロジェクトを立ち上げる前、インドではオーガニックコットンの偽装が問題になっていて、これをきっかけにきちんと畑まで管理しないとダメだなと思ったんです。その一方で、オーガニックコットンの栽培も含め綿花栽培には多くの問題があった。例えばオーガニックコットンの認証を受けるためには、3年間以上無農薬で栽培する実績が必要なのですが、農薬を使わないと虫の駆除などで多くの手間がかかるものの、その間はオーガニックコットンとは認められないので、農家にとってとても厳しい。そこで行き着いたのが、現地のNGOや現地の大手紡績会社NSLと組んで小規模な農家の綿花栽培や労働環境の向上を支援しつつ、移行期間の綿花も含めて買い取っていくという仕組み作りです。一緒にタッグを組む紡績メーカーのNSLは綿花の種苗メーカーでもあり、綿花栽培も行っていた。インドと日本市場とつなぐ僕らがハブになり、綿花を適正な価格で買い取り続けることで、小規模の綿花農家がオーガニックコットンを作りやすくなり、地球環境もよくなる良い循環が生まれる。その仕組みから生まれたコットンが「オーガニックフィールド」なんです。

実は小規模農家だからこそ
上げられた「綿花の品質」

WWD:小和田さんから見て「オーガニックフィールド」の生地はいかがでしょう?

小和田:ひと目見て触ったときに「おっ」と思いました。現在の「オーガニックフィールド」の原料の綿花は長綿。「リフィル」で使っている超長綿と比べると繊維長が短く、それが光沢感の差にもなる。でも「オーガニックフィールド」は光沢も出てるし、油分が多く含まれていることで、さらっとしたタッチで肌触りもいい。これはいい素材だと思いました。

太田:それは手摘みだからなんですよ。大規模農家の場合は、効率化のために綿花の収穫から出荷までの間に、枯れ葉やゴミなどを取るために工業的なクレンジングを行っています。でも「オーガニックフィールド」の場合は、落ち葉などは手で取り除いているので、そうした工業的な工程を減らしている。その分、綿花が傷みにくく、それが結果として綿花自体の品質アップにもつながっている。

WWD:小和田さんのリアクションはやっぱり気になりますか?

太田:実は小和田さんに最初に「オーガニックフィールド」を見せるときは内心ドキドキしていました。こーゆう職人肌のタイプなんで、遠慮がないし、お世辞を言うような人でもない(笑)。小和田さんの表情を見たときに「この人がこの顔するんならガンガン売れる、売っていける」って思ったんです。だからうれしかったですね。

服を通じて世界を良くするための
考え方とは?

WWD:アパレル産業は、さまざまな課題を抱えていると言われています。素材の良さやこだわりと、そうした課題をどう両立させ、解決すべきでしょうか?

小和田:実際にブランドを始めて、適正な量を作って適正な価格で売っていくことの重要性を痛いほど感じています。大量に生産すればコストを下げられる一方で、当然残ってしまうものも出てくる。原料、糸、生地、縫製、そして販売までアパレル産業は縦に長く、かつグローバルなので、生産者の顔が見えづらい。そのせいもあって価格や生産性といったビジネスの効率ばかりを追求しがちです。「オーガニックフィールド」のように、農地まで見えていて、かつ生産者の労働環境を守れるというのは、服を作る側としては心強い。

太田:サステナビリティに関してはいろいろな考え方があると思うのですが、私はやるなら「ビジネスとして成立し、規模も狙う」という考え方です。「オーガニックフィールド」は広がれば広がるほど、地球環境にも人にも優しい。けど、それと同じかそれ以上にストーリーを伝えることにも意味があると思っています。実際にこちらにいて農家の方に日本の消費者のリアクションを伝えると、すごく喜んで、仕事のモチベーションにつながっている。「オーガニックフィールド」のストーリーを伝えるのは結局、消費者とものづくりの側の間にいるブランドにしかできません。綿花の品種も、超長綿のスビン種も地域によっては栽培可能なので、新しい栽培エリアと農家の探索も始めています。現在のエリアでやり方を確立できれば、さらに高品質な糸の生産にもつなげられる。そうなればもっと多くの服を通して、世界をより良く変えられる。今は毎日がワクワクの連続です。

ILLUSTRATION:hagie K
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