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会員数約50万人の香水サブスク「カラリア」 独自のデータで顧客とブランドの架け橋に

 High Link(ハイリンク)が運営するフレグランスのサブスクリプションサービス「カラリア」は、2019年1月のサービス開始から着実にファンを増やしている。同サービスの継続率は98%で、会員数は約50万人に達する。“香り”という目に見えず、オンライン上での表現が難しい商品特性に可能性を見いだし、これまでになかったフレグランスの定期購入というビジネスモデルを構築。購買行動データや口コミを活用し精度の高い商品レコメンドを行うなど、顧客に新たな購買体験を提供している。1月でサービス開始から丸4年となったカラリアは、発展途上にある日本のフレグランス市場にどのような変化をもたらすのか。同社の南木将宏・最高経営責任者(CEO)と岡本大輝・最高執行責任者(COO)に話を聞いた。

新たな香りとの出合いを
創出する「カラリア」とは

 「カラリア」の事業は、フレグランスのサブスクリプションサービス「カラリア 香りの定期便」、香りに関する情報を紹介する専門メディア「カラリアマガジン」からなる。そして事業の中核となる「カラリア 香りの定期便」には、自分の好みの香りやおすすめのフレグランスが分かる「香水診断」、公式LINEで専属フレグランスアドバイザーがぴったりのフレグランスを提案する「コンシェルジュサービス」がある。「カラリア 香りの定期便」は現在、約130ブランド1000アイテムを取り扱い、月額税込1980円〜、1カ月程度で使い切れる4mLサイズのアトマイザーが届く。「無数にあるフレグランスからどれを選べばいいか悩む」「自分の好みの香りが分からない」といった香り選びの課題を解決すべく、独自開発のアルゴリズムによる好みの香りの分析やおすすめアイテムのレコメンドを提供することで、これまで難しかったオンライン上での香り選びのハードルを下げることに成功している。レコメンドに対するユーザーの満足度は高く、「香水診断」の利用は100万回を超え、「コンシェルジュサービス」の相談数も120万件を突破。「香りの定期便」の継続率98%につながっている。

ユーザーの購買データを蓄積し
香りとの出合いを最適化

WWD:“香りのサブスク”を始めた理由は? 

南木将宏High Link CEO(以下、南木):ファッションやコスメの領域はECでの購買体験が少しずつアップデートされていますよね。これだけ技術が進化している中で、フレグランスは目に見えないという特性上今までオフラインでの購入がメインとなっており、ブランドは購買に関するデータや、お客さまのその後の行動、趣味嗜好などを知ることが困難な状況にありました。五感の一つである嗅覚は、感情や本能にも直接関わる人間にとって重要な感覚でありながら購買体験がアップデートされていない。そこでフレグランスの購買行動データの蓄積と学習を活用したサービスにニーズと勝ち筋があると考え「香りの定期便」を立ち上げました。

WWD:サービス開始から5年目を迎え、現在会員数は約50万人。ユーザーを多く抱えるプラットフォームに成長できた理由は?

南木:成長の理由は大きく2つ。1つ目は、SNSやウェブメディア「カラリアマガジン」で香りの楽しさを伝えられていること。SNSフォロワー数は40万人(22年12月時点)を超えています。また、フレグランスに特化しているメディアを運営しているからこそ、20~30代を中心としたフレグランスへの熱量が高いお客さまに香りの魅力を伝えることができています。ウェブマガジンとInstagram、Twitter、TikTokではそれぞれの媒体特性やユーザーの違いを考慮したコンテンツ作りを行っており、ユーザーニーズに合致した情報を各方面で提供できています。こうした工夫により、サブスクを利用するお客様の約30%がカラリアで人生初めてのフレグランスを買っているという事実もあります。その結果、これまでブランドが接点を持つことのできなかった層にまでリーチできていると考えられます。「フレグランスを試したいけどなかなか一歩を踏み出せない」という人が使用するきっかけにもなっています。ECの香りの領域ではずば抜けたシェアを取れていると自負していますし、結果としてフレグランス市場の裾野を広げられているのではないかと思います。

2つ目は、データを活用して香りとの最適な出合いを提供できていることです。閲覧データや購買データなどを活用しユーザーのニーズに合うフレグランスを提案していますが、中でも質の高い口コミデータを集めることに注力しています。「カラリア」には、お客さまの香りの評価(商品レビュー)を基に好みの香りを分析する「フレグランスプロフィール」機能があります。「香りの評価に基づくおすすめのアイテム」をはじめ、「まだ使っていないけれど好きかもしれない香り」という潜在的なニーズに対する提案も行っています。「フレグランスプロフィール」機能はAIを活用し、口コミを書けば書くほどレコメンドの精度が上がります。そのため、お客さまも自然と口コミを多く書いてくれて、レコメンドの満足度も高くなる。金銭的なインセンティブではなく、“体験”で質の高いデータを集める仕掛けを作ったのが「カラリア」の強みです。

ブランドに購買データと
香りの趣味嗜好の分析を
フィードバック

WWD:ブランドにとって「カラリア」のプラットフォームに参加するメリットは?

岡本大輝High Link COO(以下、岡本):メリットは3つあります。1つ目は、ユーザーの購買行動データと口コミによる香りの趣味嗜好の分析をフィードバックし、可視化できていなかった定量的なデータを得られる点です。購入した商品に対してどう感じたかや、他ブランドで何を買っているかといった情報を把握・分析し、販促支援や商品開発に活用していただけます。

2つ目は、毎月香水にお金を支払うフレグランスに対する熱量が高いユーザーに対してブランドの認知獲得が期待できる点。フレグランスに特化したメディアを活用することで、定期便ユーザー以外にも認知獲得が可能になります。

3つ目は、香りとの出合いを通じてブランドのファン育成が実現できることです。「カラリア」を通じて香水に興味を持ち、お気に入りの香りに出合い、結果としてサブスクユーザーの約40%が「カラリア」利用後にブランド正規店(または公式サイト)で香水を購入しています。さらに、好みの香水を見つけたからサービス利用を止めることはほとんどなく、次の新しい香りとの出合いを探し、見つけたら買い、また探す。そのような流れができていることから、「カラリア」はブランドと共存できるサービスであると信じています。

WWD:成長を続ける中で「カラリア」の課題は?

岡本:ブランドの世界観をオンライン上でどのように実現するかが、今の一番の課題です。ユーザーのいないプラットフォームはブランドにとっても価値がないため、これまではユーザーに支持されるプラットフォーム作りを重視して集客に注力していました。会員数が約50万人のこのタイミングで、ユーザーだけでなくブランドにとっても価値提供できるプラットフォームを目指していきます。私達はさまざまなブランドの製品を多く取り扱っていますが、そのブランドの歴史、パッケージやボトルのデザインなどに込めた思いを表現しきれず、まだまだブランドの魅力を伝えきれていない部分があると自覚しています。今の私たちのやり方に全くこだわりはないため、今後はブランドと共に世界観をどのように作っていくかを熟考しながら、ユーザーには“香り”という価値のある豊かな体験を提供し、ユーザーとブランド、そして「カラリア」の三方よしのプラットフォームの成長を推進していきます。

WWD:今後「カラリア」で注力していくことは。

南木:ブランドへの価値提供に注力する1年にしたいです。保有している大量のデータを活かし、ブランドのマーケティングや商品開発の支援などにも取り組む実績が出てきており、いかに目に見えない香りをデータ化することにニーズがあるのかを日々感じています。「カラリア」だからこそ提供できる価値を最大限提供し、メーカーやブランドと密にコミュニケーションをとりながら日本のフレグランス市場を盛り上げていきたいですね。ユーザーに対しては引き続き、香りという目に見えないものをオンラインでしっかりと伝えていきたいと思います。「香りを楽しむ」という点では、ルームフレグランスやボディーケアなどの要望も多い。将来的には扱うカテゴリーを広げることも検討しています。また、オフラインで実際に香りを手に取ることの重要性は今後も暫く続くと思います。ブランドが伝えたい世界観やこだわりもオフラインの方が肌で感じられるので、オンラインだけでは完結できない点があると思います。メディアを持っている私たちだからこそのオンラインのタッチポイントの強さを活かして、オフラインのショッピング体験とシームレスに連携していくことなどの構想もあります。オンライン上のデータのみならず、小売のデータとの融合やそれを踏まえた香りのDXを実現していきたいです。

ブランドの声を紹介

 サブスク「カラリア 香りの定期便」のローンチ時は30アイテムからスタートし、現在は1000アイテムまで拡大している。新客との出合いやブランドの認知拡大に寄与できることから、メーカーやブランドからの声掛けも増加。今後も顧客体験の向上やブランドへの価値提供など、さらなる成長が見込まれる。ここでは、「カラリア」の魅力や今後への期待など、「香りの定期便」で取り扱う「サウザンドカラーズ(THOUSAND COLOURS)」「ヴァシリーサ(VASILISA)」「シーファー(SHEFAR)」からのコメントを紹介する。

PHOTOS:SHUNICHI ODA
EDIT & TEXT:WAKANA NAKADE