「WWDJAPAN」には美容ジャーナリストの齋藤薫さんによる連載「ビューティ業界へオピニオン」がある。長年ビューティ業界に携わり化粧品メーカーからも絶大な信頼を得る美容ジャーナリストの齋藤さんがビューティ業界をさらに盛り立てるべく、さまざまな視点からの思いや提案が込められた内容は必見だ。(この記事はWWDジャパン2022年11月28日号からの抜粋です)
政府が発信した“基準”に従えば、外で1人で歩く場合、とっくにマスクを外しているはずが、いまだに多くの人がマスクをつけている。今もいわゆる“同調圧力”が働いている一方、“顔パンツ”という新語までもたらした心理的作用がやはり大きい。日本人はもともとマスクに逃げ込む傾向があった上に、これまでそこに疑問を持っていた人さえもが、その安心感に気づいてしまった。だからマスク生活は想像以上にズルズル続き、緩い日常になってしまう可能性すらある。未知なるウイルスへの予防という大義名分も成り立つし。すでに完全にマスクなしの日常を送る欧米人には到底理解できない感覚なのだろうが。であるならマスクがコロナ禍の特殊事情ではなく1つのオプション定番となったとき、美容とファッションは一体何をなすべきか、そうした目線も必要ではないか。日本人のマスク好きを改めて検証すべきときなのではないか。
多くのアンケートは、先進国で最も自信がないのは日本人であることを伝えている。「自分への満足度」を調べた内閣府の調査では、アメリカ86%を筆頭にイギリス、フランス、ドイツは全て80%越え、韓国も70%を超えているのに日本だけが40%台。高校生に聞いた「自分は価値がある人間か」にも、アメリカ、韓国はともに80%を超えているが日本だけが40%台。いわゆる自己肯定感の低さが数値でも証明されてしまったが、マスク好きがここに起因しているのは間違いない。
しかも日本人は「他人の目を気にする」傾向にある。他人の目など気にしない、自分がよければ良いのだという精神性が、自分自身への満足度と比例するのは言うまでもないこと。ただ逆から言えば、日本が世界一のブランド消費国であったことや、世界初のコスメフリーク大国となったことが、この「他人の目を気にする」気質から来ているのも疑いようがない。マスクを外せない怖さも、外したときにメイクが崩れていたらどうしようという不安も、マスク生活が完全に終わるまでに、この口元の緩みをなんとかしなければという焦りも、全ては自信のなさと他者の目を気にする国民性から来るもの。良くも悪くもマスクは日本人の美的意識をさらに高めていくことになるはずだ。またコロナ禍でメイクもののラスティング力は何年分も進化したし、多くのヒット製品も生まれた。マスクをズルズルとつけたり外したりが、コスメ界に大きな需要と発展をもたらすのは間違いないのだ。
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