ファッション

「ヴァレンティノ」が新ストアコンセプトを導入 顧客中心主義実現のために企業文化も見直し

 「ヴァレンティノ(VALENTINO)」は、顧客を中心に据えたアプローチに沿う新たなグローバル・ストアコンセプトへの移行を進めている。9月にオープンしたサウジアラビア・ジッダの旗艦店を皮切りに、スペイン・マドリードやイタリア・ベネチアの店舗に導入。2023年にはスイス・ジュネーブやアメリカ・ニューヨークでの出店、フランス・パリではモンテーニュ通りへの移転も控えており、順次、世界各国で新たな店舗デザインを展開していく予定だ。

 新ストアコンセプトは、伝統と革新の最先端にあるクチュールメゾンのアイデンティティーを映し出すインテリアデザインを通して、「ヴァレンティノ」の卓越したクラフツマンシップと美学を体現する。ヤコポ・ヴェントゥリーニ(Jacopo Venturini)最高経営責任者(CEO)は、「このコンセプトは、2年半前に打ち出した『ヴァレンティノ』をクチュールメゾンとして再定義するという戦略と合致している」とコメント。「メゾンの歴史やプルミエール(一級職人)と顧客の親密な関係を反映するものであり、これは企業戦略やリテールにおける顧客とのリアルなコミュニケーションにも取り入れられるべきだ」と続ける。また、「卸売はパートナーとの意見交換のために重要なチャネルであり続ける」としつつも小売りと卸売のバランスを見直し、3年後には小売りの売り上げ構成比率を現在の65%から80%に高めることを目指す。店舗数も現在の209から来年には223まで増やす予定だ。

 さらに顧客中心戦略の一環として、机上の空論になることを避けるために企業文化を見直す必要性も説く。「顧客中心主義を語るのがトレンドになっているが、本気で取り組むためには“同僚中心主義”の文化の醸成が必須だ。私たちはお互いにとっての顧客であり、店舗にもこれを反映させなければいけない」。そのため、同ブランドでは現在、店舗に部門ごとのマネジャーではなくチームマネジャーを置き、クライアントアドバイザー(販売員)がすべてのカテゴリーの商品を販売できるようにしている。それにより、顧客へのサービスや購買体験をスムーズかつ最適化することができるという。

 一方、ピエールパオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)=クリエイティブ・ディレクターは、「ショーから、コミュニケーション、店舗にいたるまで、アイデアは明確である必要がある。クリエイティビティーは勢いとエネルギーを失うことなく、店舗まで浸透していかなればいけない」と語り、継続性と一貫性の重要性を強調する。その中心にあるのは、クチュールの文化だ。「それは、顧客にユニークでエモーショナルな体験をもたらすもの。世界中どこも同じような味気ないブティックには、クチュールの理念は反映されないだろう」と話す。その点、新ストアコンセプトは、変化に対応しやすいように社内で作り上げられた。「空間をコレクションに適合させ、メゾンのアイデンティティーを翻訳し伝えていく」というコンセプトを、ヴェントゥリーニCEOとピッチョーリ=クリエイティブ・ディレクターは、アイデンティティーを守りながらも展示作品によって生まれる変化に適応するアートギャラリーに例える。

 そんな新たな店舗デザインの特徴は、1930年代のアールデコ調のモチーフと1970年代に着想を得た家具のミックス。クチュールの世界を象徴するトルソーへの敬意を示すアイボリーを基調に、オニキスや大理石、木材を合わせ、温かみとさりげないラグジュアリーを演出する。そこに加えるのは、マッシミリアーノ・ピポロ(Massimiliano Pipolo)によるセラミックのドアハンドルや、ファビオ・サンティ(Fabio Cinti)によるブラス製オブジェ、アレクサンドル・ロジェ(Alexandre Loge)による石膏製シャンデリア、マリオ・ベリーニ(Mario Bellini)が「ビー・アンド・ビー イタリア(B&B ITALIA)」のために制作したソファなど、クラフツマンシップが光る作品やインテリア。それぞれの店舗で異なる体験を提供するため、ロケーションごとに考案された特徴的なデザインアイデアを取り入れるほか、プライベートアポイントメント用に親密な雰囲気を感じられる特別エリアも設ける。カギとなるのは、家のような居心地のいい空間への進化。「重要なのは、訪れた人がよそよそしさを感じるのではなく、歓迎されるように感じる空間づくり。これが基本であり、真の変化だ」とピッチョーリ=クリエイティブ・ディレクターは話す。その言葉は、彼が掲げる“インクルーシブ(包摂的)な「ヴァレンティノ」”に呼応する。

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