沖縄でのアガベ産業発展を目指す
「アガベサミット」を初開催
2022年を振り返ってみると、SDGsへの意識はさらに高まり、サステナブルな未来を目指す姿勢が定着したように感じる。だが、多発されるだけに熱意が伝わらず、義務や虚栄が透けて見えることもあり、そのやらされている感にムズムズするのは私だけだろうか?
そんな中、10月22日に沖縄で開催された「アガベサミット」には熱量があった。テキーラの原料になるアガベを沖縄で栽培し、産業のひとつとして発展させようというムーブメントだ。沖縄本島中部の金武町のブルーアガベ畑まで足を運び、その成長を見守りながらテキーラやメスカルを味わう、初のイベントとなった。テキーラを扱うバーやインポーターも積極的に参加し、初めてのイベントづくりに技術や発信力で貢献。その結果、幅広い層の共感を集めた。同イベントでは、テキーラの奥深さを伝え、啓蒙しようという思惑もある。そんな「アガベサミット」開催を食のスペシャリストが支えた。
会場となった、アガベ畑があるプランツショップ&カフェ「グリーンフィールド沖縄(GREEN FIELD OKINAWA)」では、施設を生かして、カフェ内にテイスティングバーやショップを開設。芝生広場にもキャンプ用テントを立て、那覇や東京の人気バーが出店した。モンゴル風の移動式住居ゲルは、アガベを原料とするスピリッツ、メスカルのブースに。日本メスカル協会のフェリー・カデム(Ferri Khadem)会長が、自らシェイカーを振った。Asia Best Bar50で5位に選出された、東京・新宿のバー「ベンフィディック(BEN FIDDICH)」の鹿山博康氏、各イベントで活躍する永野誠氏、沖縄初のミクソロジーバー「アルケミスト(ALCHEMIST)」などを展開する若きホープ中村智明氏など、トップバーテンダーのカクテルを味わえるとあり、都内からも多くの人が訪れた。現地までは、那覇中心地から送迎するシャトルバスも運行。ドライバーのためにノンアルコールのモクテルやコーヒーのブースも用意した。その他、アガベをはじめとする多肉植物の販売や、メキシコの民族衣装を着たミュージシャンやエイサーの演奏などでもにぎわい、アガベをテーマにした大人の文化祭、村祭りのような和やかさだった。
同サミットはメキシコ大使館や金武町、沖縄タイムスや沖縄テレビが後援し、土地と土地をつなぐイベントとなった。会場内では、タコスやヤギ汁と、テキーラのマリアージュを試す人々もいた。金武町でアガベの栽培が広がり、沖縄生まれのアガベスピリッツが実現すれば、雇用の機会も生まれる。同サミットには、「アガベを生活に取り入れて、暮らしがもっと豊かになりますように」というメッセージも込められている。沖縄には、野生のアガベがいたるところに生息しているといい、その可能性は遠い未来ではないかもしれない。
同イベントが成功した背景には、クラウドファンディングで資金を集め、運営したことがあると思う。それによって自分ごと化され、賛同者を巻き込んだ。中にはトークショーに登壇し、シェイカーを振った有名バーテンダーもいた。クラウドファンディングに賛同して事前にチケットを入手し、運営の進展具合をSNSで見守る。Tシャツやテキーラのボトルなどのリターンをプラスしたプランを選ぶこともできる。初のイベントだけに、事前に訪れる人数を把握できるのは、運営上大きなメリットだろう。参加者全員がサポーター気分になった。
福島の食材を生かした限定ランチ企画
東京の名店シェフが参加
飲食業界のスペシャリストが地域の生産者とつながり、食材の魅力や可能性をただ発信するのではなく、付加価値をつけて高める取り組みが、この1年は目立ったように思う。例えば、「美味しいふくしま食材発掘プロジェクト」の一環として、人気レストランのシェフが福島県産の食材と向き合い、メニューを考案した、限定ランチメニューのコラボ企画。参加したレストランは、東京・丸の内の丸ビルにある「イゾラ スメラルダ(ISOLA SMERALDA)」や「日本料理ざぜん」などジャンルもさまざま。食通をうならせる名店のシェフが競い、言葉では伝わりにくい素材の奥深さを、発想と技術で昇華させた。
中でも私が感動したのは、「バル デ エスパーニャ ムイ(BAR DE ESPANA MUY)」で提供された、福島牛モモ肉とサラダクレソンのローストビーフ丼だ。通常26カ月くらいの肥育期間を、約30カ月かけて生育した雌牛を仕入れて調理。福島牛の良質な脂質と旨味が生きるシンプルな丼にした。薄く繊細にカットしたローストビーフがいわき産ミルキークィーンをカバーし、薔薇の花のように華やかな仕上がり。福島牛は肉色も優れているのだ。昼と夜の寒暖差がある気候で、でんぷんをたくさん蓄えた甘みのある福島米に、牛肉の脂がうまくしみこみ、強い旨味をしっかりと味わうことができる。最後は、ガーリックライスのような濃厚な味わいに。素材がより輝く1品だった。
カクテル業界にもサステナブルの波
ごみを出さず、循環させるカクテル
サステナブルの波は、カクテル業界にも浸透している。毎年開催されている「東京カクテル7デイズ」が今年も実施された。コロナ禍で人数を分散させるために開催を昨年は1カ月延長したが、今年は10日間の会期となった。「バカルディ(BACARDI)」や「ヘンドリックスジン(HENDRICK ‘S GIN)」などのパートナーブランドがポップアップバーを出す、ヴィレッジなるイベントも3年ぶりに復活した。ようやくバーライフが日常に還ってきた。
今回、注目を集めたのが「ごみを出さず、循環させる」という試みだ。その点でいうと、「ホテルニューオータニ」内の「バー カプリ(BAR CAPRI)」は、レストランや宴会場の生ごみを有機たい肥にし、コンポストプランツを使ったカクテルを1999年から提供している先駆者だ。他にも、「ザ・エスジー・クラブ(The SG CLUB)」では、「灰まで使い切る」という意味を込め、廃棄ゼロを目指した「アッシュ(ASH)」を渋谷に今年5月にオープン。スタッフの制服も土に還る和紙由来の素材を選ぶ意識の高さだ。SDGsの観点から、樹上完熟果実やハネ出し果実を各地の農家から仕入れている下北沢の「フェアグラウンドバー&ワインショップ(FAIRGROUND BAR&WINE SHOP)」、大きな家畜より環境負荷が少ないたんぱく源、昆虫を取り入れたカクテルを考案したバー「リブレ銀座(LIBRE GINZA)」など、バーならではの視点で持続可能な未来への問題提起をしている。
2023年には、長年にわたり環境問題に取り組む老舗ラムブランド「フロール・デ・カーニャ(FLOR DE CANA)」主宰の持続可能な材料や技術を生かしたカクテルレシピを競う世界大会も開催予定だ。同ブランドは、発酵中に排出する全CO2を回収・リサイクルし、さとうきびの搾りかすを利用した再生可能エネルギーを10年以上前から使用している。トップバーテンダーによる知的好奇心をくすぐられるカクテルの誕生に、期待が高まる。