服のお直し、補修、クリーニング、保管などのアフターケアを一括で提供するテーラーバンク(岐阜市、永井正継社長)が事業を拡大している。19年の設立時から稼働する岐阜市内の専用工場に加えて、3月には東京・新木場に新しい拠点を設けた。ここで活躍するのは、マイスターと呼ばれるベテラン職人である。
物流倉庫が並ぶ新木場。アパレル物流大手のアクロストランスポートの東京本社の一角にお直しの拠点「テーラーバンク・テクニカルラボ」がある。平均年齢70歳のベテラン職人4人が手縫い、ミシン、アイロンなどを駆使したリノベーションを行う。いずれもテーラーや縫製工場で活躍していた熟練スタッフである。
彼らのそばでは服飾学校を出たばかりの20代前半の若者4人も一緒にミシンを動かす。永井社長は「ベテランのマイスターの技を若い世代の職人に伝える場にもしたい」を話す。服飾学校では既製品のパーツをバラして作り直すことはあまりない。服の構造を理解した上で、着る人のニーズを知る機会にもなるという。
ここに集まるのは主に関東のパターンオーダー(PO)のスーツ店から集まるジャケットやパンツだ。POは体形を採寸するものの、ゲージサンプルを土台にして完成品を作るため、必ずしも客にフィットするとは限らない。またタイトなシルエットを好んだり、ゆとりのある着心地を好んだり、客の求めるフィット感が異なったりもする。微修正に対する潜在的なニーズがある。しばらく着用した後、サイズの修正や裏地やボタンの変更を求められるケースもある。最大の消費地である関東の拠点を、アパレル物流のアクロストランスポートの導線上に設けることで輸送の合理化を図った。
取引先である「カシヤマ」のオンワードパーソナルスタイル、「グローバルスタイル」のタンゴヤ、ファブリックトウキョウ、コナカなどのPOの店舗から多い日には50着もの服が届く。POのスーツを販売して顧客との関係が終わるのではなく、渡したスーツのお直しや補修、クリーニング、保管などを通じて関係性を維持する。アパレル側はテーラーバンクのシステムを活用することで、顧客とのエンゲージメントを深めることができる。取引先は拡大しており、1年前に比べて約3割増のペースで成長を遂げる。評価が高まり、有名セレクトショップなどからも問い合わせが増えた。
11月からは、YOBOSHI(東京都八王子市、神谷哲治社長)と提携し、オンラインで裾上げや丈詰めを行える新サービス「fitu(フィッツ)」を導入した。消費者が会員登録をすれば、EC(ネット通販)で購入した商品の配送先をテーラーバンクにし、お直しした上で自宅に送ることができる。EC事業者がサイト内のサービスとして活用することもできる。
サステナビリティの高まりを受けて、服を長く大切に着たいというニーズが増えている。永井社長は「アパレル企業は、お客さまに服を売ってから関係作りが始まる。ITを駆使して、シームレスな体験価値を作っていきたい」と話す。