「生まれるべきものが生まれ 広がるべきものが広がり 残るべきものが残る世界の実現」をビジョンに掲げるマクアケは、ブランドが持つべきパーパスの可視化や、その伝え方、ユーザーとのコミュニケーション作りなどでメーカーに寄り添い、モノづくり企業がモノづくりに集中できる環境整備に一役買っている。ブランドの伴走者、キュレーターが過去の事例を踏まえながら、応援されるブランドの共通点を探る。 (この記事はWWDジャパン2022年12月12日号からの抜粋です)
(右)松岡宏治(まつおか・こうじ) マクアケ 執行役員/(左)今井秀太(いまい・しゅうた)マクアケ キュレーター
PROFILE:それぞれITベンチャー、インターネット広告代理店を経てマクアケへ入社。東京本社、関西支社を拠点に各地へ足を運びながら、地方企業や大手企業における「マクアケ」でのテストマーケティングを活用した新商品プロジェクトに伴走
今回お話を伺ったのは、インターナショナルシューズです。同社は1954年に大阪で創業(当時の社名は上田製靴工業所)した、婦人靴メーカー。創業から一貫して「長く愛される、いい靴をつくること」という哲学の下、国内外の高級ブランドのOEM生産を手掛けてきました。
そんな同社の“3代目”として生まれ、高級靴ブランドで販売・店舗運営を経験した後、2015年に家業に戻ってきたのが上田誠一郎さんです。上田さんは17年ごろから自社ブランドの構想を練り始め、20年に自社初のユニセックススニーカーブランド「ブライトウェイ」を立ち上げ、国産レザースニーカーを手掛けています。
「マクアケ」ではブランドデビューしてから合計3回、シンプルで上質なレザースニーカーのプロジェクトを実施。累計で1700万円以上の応援購入が集まるなど、立ち上げから2年ほどで、多くの人から応援されるブランドへと成長を遂げています。
「ブライトウェイ」はなぜ、ここまで応援されるブランドになったのでしょうか。同ブランドが生まれ、人々の共感を集めるようになったポイントは大きく3つあります。
1点目は「自分が本当に欲しいモノを、徹底的に追い求める」ということです。もともと、上田さんが「ブライトウェイ」の立ち上げを決意したきっかけは、家業に戻った15年にさかのぼります。その頃は「アディダス」の“スタンスミス”や「ニューバランス」、ガウチョパンツなどが流行し、従来インターナショナルシューズが主に作ってきた婦人用ロングブーツの需要が落ち込みました。百貨店からの発注額が前年比で30%減少するなど、会社として一番厳しい時期でした。さらにその後、メインの取引先が倒産。売上の半分以上がなくなり、同社は岐路に立たされます。そこで上田さんは「OEM生産ではなく、自分たちでブランドを立ち上げて直接お客さまに価値を届けなければ」と決意。こうして自社ブランドの設立に取り組み始めます。
当初はウィメンズブランドを立ち上げようとしたものの、失敗。「メンズものは作らないのか」という「マクアケ」からの問いかけもあり、「自分が世界で一番の顧客になれるような、自分が本当に欲しい靴を作ろう」と思い立ち、国産レザースニーカーブランド「ブライトウェイ」設立に動き出しました。
一口に靴作りと言っても、ウィメンズとメンズは全くの別物。同社としてもメンズかつスニーカーは、前例のない試みでした。開発初期は、作ったスニーカーに足が入らないなど苦労も少なくなかったそうですが、「色々な靴を見てきた中で、自分が欲しいものを形にできる」というワクワク感が原動力となり、婦人靴のロングブーツを作っていたメーカーでは異例とも言える、メンズのスニーカー作りが実現したのです。また、「ブライトウェイ」のスニーカーは、非常にシンプルなデザインです。外からはブランドロゴも見えません。上田さんがシンプルなデザインが好きで、「自分が世界で一番の顧客になれるような靴を作りたい」という思いを最優先した結果です。こうして“ありそうでなかった、シンプルなレザースニーカー”として人気を集めるようになります。
2点目のポイントが「“10年後も愛される靴を作る”という思いが、ブランド・商品の随所に込められている」点です。上田さんは「ブライトウェイ」立ち上げ前に店舗で働いていたころ、売れ残る靴を数多く見てきました。そして家業に戻って工場を見てもやはり「職人さんがここまで一生懸命に作っている靴が、誰にも履いてもらうことなく残る」ことに強い課題感を抱いたと言います。
そのため「ブライトウェイ」では、「トレンドに左右されずに、1年後でも3年後でも履ける」という発想で、長く愛用してもらえるシンプルなデザインにこだわっています。また長く履いていただくために、国産スニーカーブランドとしては珍しいリペアサービスとしてソールを交換しています。ソール交換はサポーターからの声をもとに始めたもので、とても喜ばれているそうです。
トレンドに左右されない究極のシンプルデザインを追求する、カラーバリエーションもむやみに増やさない、1足を長く履き続けたい人のニーズにも応えるためソールの交換にも対応するなど、「ブライトウェイ」の靴作りはどれをとっても、“10年後も愛される靴を作りたい”という思いにつながっています。その思いがサポーターの心にもしっかり届き、応援されるブランドになっているのだと思います。
そして3点目は「お客さまに感謝の気持ちを丁寧に伝えていく」ことです。1足3万円ほどと決して安くはないからこそ、「ありがとう」の気持ちを伝えるべく、同社ではオンラインでの購入者全員に手書きの手紙をお送りしています。オンラインの購入者にとっては、商品が届き箱を開けた瞬間が“接客”になるという思いで、感謝をきちんと伝えるために手紙を添えているのです。
上田さんは同社の1、2代目が大切にしてきた「誠実であること」「謙虚であること」そして「感謝の気持ちを忘れないこと」という意志を受け継ぎ、モットーとして毎朝心の中で唱えているそうです。そのモットーや人柄がしっかり反映されたブランドになっているからこそ、多くの人に応援されているのだと思います。
11月25日からは2年の開発期間を経て完成した、「ブライトウェイ」のアップデートモデルのプロジェクトも「マクアケ」でスタート。早くも600万円以上の応援購入を突破し、どんどん人気を集めています。
さらに来年以降は、上田さんの祖父である1代目が名付けたインターナショナルシューズという社名の通り、世界中で愛され、日本を代表するシューズブランドになることを目指し、海外展開も狙っていくそうです。OEM生産だけでなく、自社ブランドも立ち上げ軌道に乗せた上田さん。3代目“アトツギ”の挑戦はさらに加速していきます。
成功の三箇条
1 自分が本当に欲しいモノを、徹底的に追い求める
2 “10年後も愛される靴”ブランドを一貫して目指し続ける
3 お客さまに感謝の気持ちを丁寧に伝えていく