ファッション

マルジェラ本人が編集した雑誌から川久保玲の価値観を凝縮した1冊まで 「小宮山書店」高橋優香がファッション好きに読んでほしい5冊

 1939年創業の「小宮山書店」は、東京・神保町で80年以上続く老舗の古書店だ。洋雑誌や写真集、ファッション関連の書籍をはじめ、現代アートやストリートアート、フォトプリントなどの独自のセレクトは、国内外の美術ファンやクリエイターたちに定評がある。同店に勤務し、セレクトショップGR8(グレイト)にオープンしたアートブックストア「KOMIYAMA YUKA BOOKS(コミヤマ ユカ ブックス)」でキュレーションも担当している高橋優香に、ファッション好きにすすめたい本を5冊選んでもらった。

川久保玲のタイムレスな価値観を学ぶ一冊
「COMME des GARCONS 1981-1986」(筑摩書房/1986)

 「COMME des GARCONS 1981-1986」は、1981年のパリコレデビューから86年までのコレクションを撮りためた写真集で、デザイナーの川久保玲さんが描く、今と変わらない女性像が映し出されているんです。例えば、80年代の日本はバブル期だったため、体のラインを強調したセクシーな女性服が求められていました。でも同ブランドは、肌の露出を控えたデザインや緩やかなシルエットのウエアをモデルたちに着せていることから、「ありのままで生きる」ということを提案しているよう。現代にも通じる価値観ですが、川久保さんがその時代のトレンドに影響を受けていないことが分かりますね。常にオリジナルであり、最新、そしてモードであること。時代を経ても変わらない姿勢を持つブランドの強さを感じます。また、スティーヴン・マイゼル(Steven Meisel)やブルース・ウェーバー(Bruce Weber)ら8名のフォトグラファーが手掛けているため、それぞれの全く異なるアプローチで、ブランドの女性像を作り上げているというのも見どころの一つです。

モードからストリートまでを網羅する実力派女性カメラマン
「Shaniqwa Jarvis」(Baque Creative Press/2017)

 黒人女性のカメラマンであるシャニクワ・ジャービス(Shaniqwa Jarvis)による写真集。20年間におよぶプライベートスタジオで撮影した写真をはじめ、「シュプリーム(SUPREME)」や「ナイキ(NIKE)」「ジル サンダー(JIL SANDER)」など彼女がこれまでに撮り下ろしてきたブランドのキャンペーンビジュアルが収録されています。なかでも私がおすすめしたいのが、ポートレート作品。実は書店にも来てくれたことがあり、ジャービスのパワフルで明るい性格に圧倒されましたね。その場の空気をガラリと変えてしまうような人柄だからこそ、ポートレートでモデルになっている人たちの心を写せるんだなと実感しました。ストリートからラグジュアリーブランドまで幅広いファッションフォトを手掛けられるのは、彼女のポジティブなキャラクターに加えて、物の見方に制約がないというのが理由かもしれないですね。活動当初は、人種差別で苦労したそうですが、そんな状況にも屈せず、前向きな姿勢を貫くことで、新しいフィールドを開拓し、新たな表現を生み出しているのではないでしょうか。

マルタン・マルジェラ本人が編集担当した貴重な雑誌
「STREET MAGAZINE MAISON MARTIN MARGIERA SPECIAL VOLUMES 1」(ストリート編集室/1995)

 ファッション雑誌「ストリート(STREET)」を発行しているストリート編集室が出版したもの。マルタン・マルジェラ(Martin Margiela)がデビューした1989年春夏から1995-96年秋冬までのコレクションをまとめたもので、ブランドが所有している写真や映像をコラージュしたページで構成されています。2シーズン目からショーを見に行っていたという編集長の青木正一さんのオファーを受けて、編集からアートディレクションまで、マルジェラ自身が手掛けた貴重な一冊です。この制作が実現したのは、90年代中頃にブランドのコピー品が世に出回ってしまったため、青木さんが“本物はここにある”ということを「ストリート」を通して示したかったからだそう。また初期の撮影は、90年代を象徴するファッションフォトの人気写真家ではなく、当時は若手だったアンダース・エドストローム(Anders Edstrom)やマリーナ・ファウスト(Marina Faust)らが手掛けているのもマルジェラならではでないでしょうか。

アンダーグラウンドカルチャーとファッションをアートに昇華させる気鋭フォトグラファー
「Butterfly」(Havana Club/2019)

 写真家のジョシュア・ゴードン(Joshua Gordon)は、故ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)が、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」の“サイクロン サングラス(Cyclone Sunglasses)”のキャンペーンビジュアルと“カミング オブ エイジ(Coming of Age)”展で起用していた一人。ヴァージルも注目していたという彼が手掛けたのが、この「バタフライ(Butterfly)」です。「アリーズ(ARIES)」がキューバのラム酒ブランド「ハバナクラブ(HAVANA CLUB)」と協業したもので、ジョシュアがハバナのストリートシーンに着目し、ドラァッグクイーンやトランスジェンダーのコミュニティーを被写体にしています。彼の視点を通すことで、アンダーグラウンドなものがモードに変化し、多くの人を引きつける力が生まれるんです。「ルイ・ヴィトン」から「アリーズ」まで、幅広いジャンルのブランドを手掛けているように、彼の表現はラグジュアリーとストリートを自由に行き来していると思います。まさにアンダーグラウンドとオーバーグラウンドをつなぐ存在であり、これからのファッション写真を担っていく人物だと思います。

カール・ラガーフェルドの審美眼に迫る超レアボックス
「THE JAPANESE BOX」(Edition 7L/Steidl/2001)

 故カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)は、ファッション界きっての写真集コレクター。彼が主宰していた出版社エディション7L(Edition 7L)とドイツの出版社シュタイデル(Steidl)によって刊行されたのが「ザ・ジャパニーズ・ボックス(THE JAPANESE BOX)」です。日本を代表する写真家のマスターピースが収録されていて、荒木経惟の「センチメンタルな旅」、森山大道の「写真よさようなら」、中平卓馬の「来るべき言葉のために」、そして森山・中平に加えて、高梨豊・多木浩二・岡田隆彦による写真同人誌「プロヴォーク(Provoke)」1〜3号の復刻版で構成されています。今ではとても希少価値の高いボックスセットで、何よりも驚かされるのは、カールの先見の明。このボックスが発売された2001年は、今に比べるとまだ世界が日本の写真家に目を向けていない時代だったので、当時ではなかなかコアなセレクトだったんじゃないでしょうか。サンフランシスコ近代美術館が、戦後日本の写真史における「プロヴォーク」の重要性に注目した展覧会「The Provoke Era : Postwar Japanese Photography」を開催したのが09年だったことを考えると、カールの審美眼と先を見通す力に感服しましたね。

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