Z世代の美容意識や消費行動について、過去にいくつか紹介してきた。今回フォーカスを当てるのは、そのひと世代下の「α世代」。2010年代初頭から20年代中盤頃に誕生し、25年には世界で約20億人近くに達するという子どもたちである。まだ子どもだから美容なんて……と思っていたが、取材を進めるうちに、実に興味深い話しを耳にすることになった。前編では「美容の低年齢化」と「ミレニアル世代の母親の影響」についてお届けしたい。
美容の「低年齢化」と母親世代の美容意識
次世代を担う子どもたちの成長を化粧品による健やかな肌づくりの側面から支援するコーセーが、「キッザニア東京」にオープンした“ビューティスタジオ”を担当した種田珠緒 コーセー サステナビリティ戦略室キッザニア担当によると、「小学校高学年になると、お出かけのときにメイクやエクステをしている女の子を見かけます」と話す。また、自身も子育て中であり、母親と子どものためのスキンケアセミナーを通して、多くの母子に触れてきた美容ライターの長田和歌子氏に聞くと、「女子力が高い子は、小学校3~4年生くらいから日焼け止めを自分で塗っている印象です。お出かけの時に色つきのリップクリームやネイルをしている子も一定数います」。
小・中学生のお子さんがいる方なら「あるある」と頷くだろうか。私は正直、この話を聞いて、驚いてしまった。
都市圏特有の話かと思い、地方在住の友人に聞いてみると「クラスで1人か2人だけど、お出かけのときにメイクしている子はいた」(子供14歳・静岡県)。「うちの子は男の子だけど、肌が弱いから自分で保湿クリームを塗っている」(子供11歳・長野県)などの声が複数聞こえてきた。身近なリサーチではあるけれど、どうやら「美容の低年齢化」は都市圏に限ったことではないらしい。そして実は「美容の低年齢化」は、今回取材した全員が口をそろえて指摘したことでもあった。
美容ライターの長田氏は、「最初のきっかけは、出産時のギフトにベビーケア製品をもらうことではないかと思います。“手元にあるなら”と、赤ちゃんに保湿をしてあげる母親は少なくない。近年は子育て系のメディアでもスキンケアが啓蒙され、“子どもの肌には何か塗ったほうがいい”という知識が母親側にも浸透しています。一方で、続けてきた保湿をやめてみると肌が弱い子の場合、おむつかぶれが出てしまうことがあります。このような経験を経てスキンケアを継続し、やがて子ども自身の習慣になることもある。何より母親自身が“UVケア”が習慣化している世代なので、幼い頃から子どもへの紫外線対策も行っている印象です」と話す。
「赤ちゃんのホクロを取ってほしい」という母親
α世代の母親にあたるのが、1980~96年頃に誕生したミレニアル世代だ。確かにこの世代は美白や紫外線情報の浸透とともに成長し、UVケアへの意識が高い。母親を通して、子どもたち達に幼い頃からスキンケアやUVケアが習慣化することはポジティブなことといえるだろう。その一方で、α世代はまだ幼いがゆえに、母親の意識や価値観に影響されやすい点も見逃せない。
アヴェニュー六本木クリニックの寺島洋一院長によると、「最近は、子どもを連れて来院する母親が週に1人はいます」と話す。美容医療における患者の年齢層はここ10年ほどで幅が広がり、90代の患者が来院する一方で「低年齢化」も進んでいるという。「中学生くらいになると、ニキビ治療やムダ毛の脱毛を希望して来院する子が増えました。これはあくまで自分の意志で、親のほうが連れてこられるケースが多い。一方で、小学生のお子さんを『二重にして欲しい』、赤ちゃんに対して『あざやホクロが気になるから取ってほしい』という親御さんもいます」。
乳幼児の頃から大きなあざがある場合、親として心配するのは当然のことだと思う。しかし、一重まぶたや小さなホクロに関しては「親のエゴとはいえないだろうか」と、寺島院長は疑問を呈する。長年美容医療に関わってきた立場から見ても、「近年は以前に比べて、社会の風潮としても“外見至上主義”な傾向を感じます。ご自身の美意識が高いお母さんも多く、お子さんを案じる気持ちは分かりますが、お子さん本人がどう思っているかはまた別の話です」(寺島院長)。
子供の肌と心の成長のために避けるべきこと
このように子供を連れて来院する親が増えた理由は「以前に比べて美容医療の垣根が低くなったからでは」(寺島院長)と分析する。メディアでシミ取りなどの美容医療がさかんに取り上げ始められたのが1990年代後半から2000年代にかけて。これらの情報に親しんだミレニアルの母親世代にとって、美容クリニックは「ハードルが高い場所」ではないのかもしれない。
「成長期の体への影響という観点でいえば、子どものホクロやあざをレーザーで取ること自体に問題はありません。ただし、赤ちゃんの場合はどうしても泣いて暴れますし、大きなあざの場合は麻酔が必要になることもある。赤ちゃんに麻酔をかけるリスクを取ってまで、そのホクロやあざを今すぐ取る意味があるのか、必ず親御さんに説明します」(寺島院長)。
成長に関わる問題として「推奨できない施術」もある。例えばヒアルロン酸などの注入物は、成長していく臓器に対し、どのような影響があるか未知数だ。さらに埋没法による二重の施術の場合、若年層の皮膚は柔らかいため、糸が取れてしまいやすいという。「痛い思いをしてすぐ取れてしまうのでは、意味がありません。成長期は骨格や組織が形成され、どんどん顔も体も変わっていく。成長期を終えるまで待つなど、施術のタイミングについては検討が必要です」。何より重要なのは、その施術が「本人の意志であるか」ということだ。「本人の意志なのか、親が誘導していないかは、とても重要です。“親に自分の容姿を受け入れてもらえず、クリニックで治した”という経験は、果たして子供の発育上良いといえるのかを、よくよく考えなくてはいけません」。
外見至上主義やジェンダー意識
大人たちによる「刷り込み」の危うさ
前段の美容医療に関しては、都心のクリニックの事例であり、全国的には極端な例かもしれない。しかし、親をはじめ周囲の大人たちによる“刷り込み”は、日本全国どこにでも存在するように思う。
「(前述した)一重のお子さんの場合、本人は案外気にしていないかもしれません。しかし、母親に『一重は嫌よね』とか『目がパッチリしていたらいいのに』と言われ続けることで、『そうなのかも』と思ってしまう。患者さんを見ていると、このようなケースは少なくありません」(寺島院長)
もちろん、親側に悪気などなく、日常の何気ない心情の吐露の1つに過ぎないのだろう。また周囲の大人たちが子供に対し「〇〇ちゃんはかわいいね」という風に、外見について口にするケースも、よくあることではないだろうか。しかし、このような大人たちによる何気ない一言が積み重なることで、子どもたちにある種の「バイアス」が生じてしまうのも事実。その最たるものは「ジェンダー・バイアス」だろう。
種田コーセーキッザニア担当は、「あるとき息子に『髪を伸ばしてみる?』と聞いてみたんです。すると『女の子みたいだからいい』と。私は髪とジェンダーについて何か言った記憶はなく、幼稚園や小学校において無意識の刷り込みがあるのかもと感じました。“青は男の子の色”“ピンクは女の子の色”というような意識は、まだまだ存在するように思います」と話す。
周囲の大人や環境によるこのようなバイアスに加え、デジタルネイティブなα世代は美容情報に早期からアクセスできる点も見逃せない。ユーチューブやティックトックにあふれるさまざまな美容やジェンダーに関する情報を、α世代が自分で判断するのは難しい。だからこそ、「正しい情報の啓蒙が必要である」というのも、今回取材した全員に一致する見解だった。
後編では、各化粧品メーカーが、未来を担う子供達に向けたさまざまな美容に関する施策に迫りたい。またジェンダーのあり方についても、深掘りしたいと思う。