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α世代の美容リテラシーを調査 美容とジェンダー教育への取り組み【後編】

 2025年には、世界で約20億人に達するとされるα世代。10年代初頭から20年代中盤に誕生した、現在12歳以下の子どもたちである。前編では美容に触れる年代が低年齢化していることや、母親であるミレニアル世代の影響について言及した。後編では、未来を担う子供たちに「正しい美容リテラシー」を育むための、各社の取り組みを紹介する。また今後より重視されるであろう「ジェンダーのあり方」についても考えたい。

α世代と「リアルなつながり」を持つことの意義

 コーセーは今秋、3〜15歳までの子どもたちの職業・社会体験施設「キッザニア東京」(東京・豊洲)にパビリオンを出展した。子どもたちが楽しみながら体験できる、メイクアップ、ヘアスタイリング、調香という3つの仕事内容を用意する。同プロジェクトを担当した種田珠緒 コーセー サステナビリティ戦略室キッザニア担当は、「出展の背景に、今のお子さんたちはあらゆる情報に触れる機会が早いことがあげられます。ネットを介していろいろな情報が入ってくる前に、正しい美容の啓蒙も含め“リアルなつながりを持ちたい”と思いました」と述べる。

 確かにα世代は、小学生くらいからユーチューブやティックトックに触れる子が多く、キッザニアでもプログラムで使うタブレットを、誰に教えられることなく自在に操る子ばかりだった。そんなデジタルネイティブなα世代の母親に当たるのが、1980年~96年頃に誕生したミレニアル世代である。ネット環境の進化と共に成長した、情報感度の高い母親たちだ。

 「近年の母子を見ていると“コミュニケーションのあり方”が変わったことを実感します」と話すのは、警察病院に勤務経験のあるアヴェニュー六本木クリニックの寺島洋一院長だ。「(警察病院の)入院病棟にはキッズルームがあり、ひと昔前は子どもたちが集まって遊ぶ姿や、お母さん同士の交流が見られました。ところが最近は、キッズルームに誰もいない。どこにいるかというと、お子さんたちは自分のベッドでゲームをしていて、付き添いのお母さんも側で携帯を見ている印象です」。

 デジタルツールの普及と共に、コミュニケーションのあり方も変化するのは、当然のことといえるだろう。一方で、デジタルの世界にあふれる数多の情報は、「正しい」のか「個人の意見」に過ぎないのか、大人であっても見極めるのは難しい。「キッザニアのプログラムは、職業体験を通して“正しい美容情報”に触れ、遊びながら学べる絶好の機会であると考えています」(種田コーセー キッザニア担当)

女性だけのものではない「ビューティの多様性」

 「もう1つ重視したのは“多様性”です。先行きの不透明な時代において、子どもたちがさまざまな価値観に触れ、その多様性を受け入れながら“私はこう思う”と建設的に話しができるようになってほしい。そして何より“キレイは性別や年齢などのあらゆる垣根を越える存在である”ということを、プログラムを通して伝えたいと思いました」(種田コーセー キッザニア担当)

 前編で述べたように「外見」や「ジェンダー」に関する刷り込みは、今の環境下では、幼い頃から生じているのが現実だ。ポーラが朝日新聞と共に作成した冊子「10代のためのジェンダーの授業」によると、「男なのに・女だから」など、性別と関連づけて何か言われた経験のある中学生は74%にのぼる結果が出ている。

 「特に美容は、いまだに“女性のためのもの”という意識が一般的です。そこでキッザニアで最初に子どもたち全員で見る動画には、女性、男性、人種を問わず世界各国の人々を登場させました。中には高齢の人や、車椅子の人もいて、“キレイの形”はさまざまであるということを表現しています」。

 コーセーが目指す“キレイの形”は、見た目の美しさだけでなく、香りや色彩、そしてそれらがもたらす感情も含まれる。子どもたちのナビゲート役であるキッザニアのスーパーバイザーは、動画に添って「香りを嗅いでどんな表情をしている?」「うれしそうだね」と、感情に関して子どもたちとやり取りを重ねていくのが印象的だった。

「ジェンダーニュートラル」への徹底した配慮

 動画ののち、職業に分かれて体験がスタートするが、ここでも最もこだわったのは「ジェンダーニュートラル」である。メイクアップ体験を例にとろう。子どもたちはタブレットに表示された4つのイメージの中から、まず「なりたいイメージ」を選択する。「なりたいイメージの中には、“かっこいい”“大人っぽい”など、男の子でも挑戦しやすい選択肢をもうけました。使用するメイク製品も、“男の子でもトライしやすい色は何か”“特定のジェンダーを想起させないか”について、何度もディスカッションを重ねています」。

 各イメージに合ったメイク製品を使い、スーパーバイザーのナビゲートのもと、自身の顔にメイクを施していく。女の子に比べると少数だが男の子も体験しており、「人生で初めての経験なので、どうやって塗るのかなど興味津々の子が多い」とのこと。狙い通り、ジェンダーを越えた美容体験がなされているようだ。「そもそもの職業の設定にもこだわりました。メイクアップ、ヘアスタイリング、調香ともに、男女問わない仕事であり、男の子でも女の子でも挑戦しやすいと思います」。

子どもたちの美容&ジェンダーリテラシーに対する各社の取り組み

 コーセー以外にも、化粧品メーカー各社は、子どもたちの美容意識やジェンダーリテラシーについてさまざまな取り組みを行っている。その一例を紹介する。

■ポーラは「ジェンダー平等教育」を冊子でサポート

 ポーラは、朝日新聞社と共同で冊子「10代のためのジェンダーの授業」を作成し、全国の小・中学校約3万校に寄贈している。今の子どもたちが感じているジェンダー・バイアスの実態や、職業における男女格差を、分かりやすいグラフで紹介。また、家事分担について、子どもたちが自分で書き込みをしながら「家の家事分担が誰かに偏っていないか」を自身で考える工夫がなされている。寄贈先の教育機関からは「ジェンダーは大切だが、とても取り入れ方が難しい。冊子は言葉を丁寧に選んであり、使えると思った」(熊本県・美里町立中央中学校)、「学級文庫や進路選択の相談の際に、こういった冊子があればありがたい」(三重県・中学校)などの声が寄せられている。ポーラは継続的にこの取り組みを推進する方針で、現在23年版の制作が進んでいるという。

■資生堂は紫外線やスキンケアに対する啓蒙活動のパイオニア

 子どもたちに向けたスキンケアの啓蒙活動に、いち早く取り組んできたのが資生堂だ。07年頃からウェブサイト「キッズのためのキレイクラブ」を立ち上げ、正しいスキンケアや紫外線対策などの情報を発信。11年頃からは、小学校高学年を対象に社員を派遣する出張体験型の授業「資生堂こどもセミナー」を実施してきた。そして、18年からスタートしたのが「アネッサ(ANESSA)」の紫外線や日焼け止めへの理解を深める活動である。6~18歳を対象にしたワークショップの開催や、幼稚園や保育園に「アネッサ」のサンプルと紫外線教育用のガイドブックを配布。後者は授業などに取り入れられている。

 これらの活動は、これまでに計296の小学校、163の幼稚園・保育園において、延べ約5万7000人の児童に実施し、子どもたちからは「どうして日焼けするのかが分かってよかった」、教職員からは「子どもたちが生活の中で身につけた知識を、科学的に理解できる授業になったと思う」などの声が寄せられている。

 今回取材してみて、想像以上にα世代は美容に触れる機会が早いことに驚いた。この流れは今後、子どもたちの間でジェンダーを問わず広がっていくように思う。α世代に正しい美容知識やジェンダーリテラシーを伝える手法として、キッザニアの職業体験や学校の授業サポートなど、現在は各社ともに「リアルな体験」に注力しているが、α世代が「自主的に美容アイテムを選び」「自主的に美容情報を収集する」未来は、5~10年後確実にやってくる。そのときにデジタルを通じたどんな施策が登場し、子どもたちに何が支持されるのか注目したい。

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