ファッション

「ヴェトモン」2016-17年秋冬パリ・コレクション

REPORT

ノスタルジックな感情をかき立てる青春時代へのタイムトラベル

今や「バレンシアガ」のアーティスティック・ディレクターに抜擢され、ファッション業界人の注目の的になっているデムナ・ヴァザリアがヘッドデザイナーを務める「ヴェトモン」は今季、どのようなコレクションを見せてくれるのか?そんな熱い期待やざわめきが、会場となったジョルジュ・サンク通りの古い教会全体に一種の緊張感のような独特な空気を漂わせる。ロンドンの若手ブランドのようなアンダーグラウンドなムードがありながら、どこか違う。それは、感性や若さゆえの勢いだけでなく、チームメンバーのさまざまな経験と緻密な計算に裏付けられた完成度とクリアなビジョンがあるからだ。

 今季は、初のメンズ・コレクションをウィメンズと織り交ぜて計52ルックを披露した。テーラリングを軸に、ストリートとモードを掛け合わした“オルタナティブ・モード”なクリエイションが冴え渡った。ファーストルックを飾ったのは、「ヴェトモン」のチームメンバーの一人でもあるスタイリストのロッタ・ヴォルコヴァ。幼い少女のようなハイウエストのミニドレスをまとい、両手で黄色い花を握りしめ、足早に目の前を通り過ぎていく。それに続くのは、学生服を再構築したようなシリーズ。ボクシーなオーバーサイズジャケットや前身頃の左右で極端に丈が異なるオーバーサイズシャツ、プリーツを施したミニスカート、だぼっとしたハイウエストのパンツ、チョーカーのように付けたスーパーロングのネクタイなどを合わせたスタイルは、不良っぽさを匂わせる。

 次第にコレクションは、ストリートの感覚を強めていく。カルト的な人気を誇るフーディーをはじめ、すでにブランドを象徴するアイテムになっているオーバーサイズのMA-1や再構築したジーンズは今季のグラフィックやカラーでアップデート。プロテクターを入れたように肩のラインをデフォルメしたジャケットやシャツなど、かつての「メゾン マルタン マルジェラ(現メゾン マルジェラ)」をほうふつとさせるアイテムも健在だ。そして、ポルカドットやレトロな花柄のプリント地で仕立てたフリル付きのドレスやベルベットのセットアップが、ノスタルジックな雰囲気を加える。終盤は、新たな提案として、レトロスポーティーなトラックスーツやアノラックを打ち出した。

 全体的にプロポーションバランスの難易度が高いアイテムが多い「ヴェトモン」のコレクションは、誰にでも着こなせるものではない。そして、一見カジュアルでストリート感を押し出しながらも、その裏にはしっかりとした服作りの背景や知性を感じる。だからこそ、若者だけでなく、これまでさまざまな服に袖を通して来たファッションフォワードなオーディエンスを虜にしているのだろう。6日に披露されるデムナによる新生「バレンシアガ」にも期待したい。

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