丸井グループ(東京、青井浩社長)は、商業施設「マルイ」「モディ」で一部を除き2023年1月1〜3日を休館日とし、初売りを4日にすると発表した。百貨店やショッピングセンター(SC)のほとんどは2日が初売り(郊外型SCは元日の初売りが多い)のため、丸井の三が日休業・4日初売りは異例といえる。同社は22年1月も大半の店舗の初売りを3日に後ろ倒しして話題を集めた。その結果を検証した上で、さらに休館日を1日増やす。三が日休業に至った理由を、中核会社である丸井の青野真博社長に聞いた。
WWD:丸井が三が日を休館日にするのは1988年以来35年ぶり。なぜ踏み切ったのか。
青野真博社長(以下、青野):まずお客さんの変化。かつては初売りのセールや福袋を目当てに、徹夜して何千人も並ぶのが当たり前だった。しかし、コロナ前からそこまでお客さんが集中する状況はなくなっていた。
もう一つは働く側の変化。取引先(テナント)のスタッフは、休日や祝日に働くことに慣れている。小売業にとっては、人様が休んでいるときが稼ぎ時。大晦日や正月の元日・2日に働くことを覚悟していないスタッフはいない。でもコロナを経て家族との時間を大切にしたいと考える人が増えた。販売員は女性が多い。家庭を持っていれば、「お正月なのにママはなんでおうちにいないの?」と子供が疑問に思ったりもする。小売業の従事者は正月を家族と過ごせないのが当たり前なのか。立ち止まって考えるようになった。
WWD:今回(23年)の三が日休業の前に、今年(22年)1月の元日・2日の2日間を休館日にした。2000年の規制緩和後、商業施設は元日または2日から営業することが当たり前になっていたため、これだけでも珍しいケースだった。
青野:不安がなかったわけではないが、実施してみたら取引先とそのスタッフにものすごく感謝された。お父さんやお母さんが元日・2日を子供とゆっくり過ごす幸せ、単身者が実家に帰省して両親や兄弟姉妹と会える大切さを再認識できた。リフレッシュして仕事のモチベーションが高まったという声も寄せられた。一般的な会社員であれば、12月28日くらいから1月3日くらいまで1週間前後の正月休みがある。でも商業施設で働くスタッフは大晦日まで働き、元日だけ休んで、2日から初売りで出勤する。たった1日間の休みでは疲れ切って、遠方に住む両親に会うこともできない。今回のように三が日を休めるのであれば、帰省も可能になる。アパレルも飲食店も深刻な人手不足に頭を痛めている。働く人にとって魅力的な職場にしなければ存続すら厳しくなってしまう。背景にはそんな危機感がある。
売り上げとウェルビーイングはトレードオフではない
WWD:それだけの反響と期待を感じたから、さらに23年は22店舗中17店舗での三が日休業を決めたと?
青野:いけると確信した。実際、今回も約1000社の取引先にアンケートを実施したところ、8割以上は三が日休業に賛成してくれた。スタッフが賛同するのは予想通りだったけど、意外だったのは取引先(の本部)も後押ししてくれたことだ。取引先から届いた声としては「三が日を休めるのであれば、スタッフも年末商戦を全力で頑張れる」「自分たちテナントとしては休館日がないと休めないため、非常にありがたい」「初売りで昔ほど突出した売り上げを稼げないので、影響は少ない」「ゴールデンウイークもお盆もシフト上3連休はほぼ取れないので、せめて正月くらいはスタッフを休ませたい」――。そんな肯定的な意見が多かった。
WWD:そうはいっても他の商業施設が元日や2日から営業する中、4日に遅らせて売り上げに響くことを懸念する声はないのか。
青野:いきなり三が日休業にすれば、反対する取引先も多かったかもしれない。しかし、22年に元日・2日の2日間を休業にするプロセスを一旦挟んだことで、心配するほど売り上げに影響がないことが実績で示された。当社の場合、かつては1月(1カ月間)の売り上げに占める1月2日(初売り)の割合が15%くらいだった。今は7%程度で、月の後半の売り上げ水準が上がる傾向にある。22年1月の基調は、21年12月に比べて1%増だった。
WWD:休館日を増やしても売り上げは維持できると?
青野:売り上げとワークライフバランスをトレードオフでは考えていない。スタッフの働きやすさのために減収に目をつむるなら、結局は長続きしないだろう。スタッフのウェルビーイングが向上しても、取引先や株主の利益を損なうことになる。稼ぐことのできない商業施設に、家賃を払って出店するテナントなんていない。全てのステークホルダーの幸せの総和を追求してくのが丸井グループの考え方だ。丸井グループの「ビジョン2050」では、「ビジネスを通じてあらゆる二項対立を乗り越える世界を創る」と宣言した。相反する課題を第三の知恵で乗り越える。私たちは難しいけどワクワクするテーマに挑んでいる。
WWD:売り上げ確保のためにどんな手を打つのか。
青野:例年以上の販促策で店舗とEC(ネット通販)に集客する。目玉は自社EC「マルイウェブチャンネル」への誘導だ。前年の2倍の売り上げを見込んでいる。1月1〜3日までエポスカード会員の優待キャンペーン「お正月 マルコとマルオの3日間」を実施し、会員のお客さんは10%オフで買い物できるよう企画した。ずっと店舗を利用してくださったお客さんにもECを勧める。正月はご自宅でゆっくりECでの買い物を楽しんでください、とアナウンスしている。
また12月22日からは2000円以上お買い上げのお客さんにスクラッチカードを配っている。エポスカード会員のお客さんは最大2000円、ハズレはないので最低でも200円分のクーポンが付与され、1月の買い物で使うことができる。1月いっぱいの集客と売り上げに効果を発揮してくれるだろう。
他の商業施設だって三が日休業はできるはず
WWD:丸井グループはエポスカードに代表される金融業で稼いでいるから小売業であくせくしなくてよい、という人もいる。
青野:金融事業が好調で丸井グループの利益の大半を稼いでいるのは事実だ。しかし、だからといって小売事業で損をしてもいいとは全く考えていない。先ほども言ったように売り上げとウェルビーイングは、トレードオフの関係ではない。働き手の満足を高めるだけでなく、お客さんがもっと快適に買い物や食事を楽しみ、取引先にはしっかり稼いでもらい、そして株主に利益を還元する。長い目で見て、持続可能なビジネスにするために知恵を絞る。
今回、三が日休業を実施するにあたり、取引先に対して1月の1日分の家賃を減免することした。三が日休業のサポートであり、12月と1月の商戦を一緒に頑張りましょうという丸井の不退転のメッセージでもある。丸井グループには「信用の共創」という言葉がある。家具の月賦販売会社として創業した当社は、先に商品をお渡してから12回払い、24回払いなど信用を前提にお客さまと長い関係を築いてきた。支払いが遅れなければ利用可能金額が増え、利用期間が長くなるほどお客さんの信用はだんだんと上がる。長い時間をかけて、お客さんと双方向で信用を共に作る。パートナーである取引先との関係も同じように考えている。
お客さんからも三が日休業に対して好意的な声が届いた。小売業やサービス業の長時間労働については、一般の方々も疑問を感じるようだ。消費市場は成熟し、お客さんは品ぞろえや価格だけでなく、企業姿勢も見ている。そして評価できる企業には、消費を通じて応援する。営業時間で他を出し抜き稼ぐ時代ではない。
WWD:他社の商業施設も丸井のような三が日休業は可能なのか。
青野:やれるはずだ。ただ、当社は取引先とのコミュニケーションを長年にわたって綿密に築いてきた。大家と店子という関係以上に、互いに知恵を出し合うパートナーとして関係を作ってきた自負がある。全国のマルイとモディでは、月に一度、当社の店長とテナントの店長が集まって議論を交わしている。さらにテナントだけが集まって施設への改善要望などを出し合う場も設けている。17年からはテナントが施設に対し、パートごとに細かく点数をつけて評価する制度を作った。テナントの声を聞くことを単なるお題目にしないため、施設の運営者の人事評価にも反映させている。だから取引先のスタッフの満足のために本気で取り組む文化が根付いている。
WWD:正月以外の営業時間も変化しているのか。
青野:コロナ前には半数以上の店舗が20時半閉店と21時閉店だった。これを段階的に前倒して現在はほとんどの店舗が20時閉店になった。開店時間は変わらず10時半か11時。これもお客さんの行動変化を受けての実施だった。コロナ以降、帰宅時間が早まっているからだ。1時間短縮することで、スタッフのシフトもだいぶ回しやすくなる。これも取引先と話し合いを重ねる中で合意形成していった。
営業時間を減らせば、売り上げが減ると捉えられるかもしれない。私は丸井の11店舗の現場で働いてきたが、小売業は“際の商売”が大切。つまり開店直後、閉店間際に訪れるお客さんは、明確な理由があって商品を探しにくる。ここでの接客の積み重ねが売り上げに効いてくる。しかし長時間労働が毎日重なると疲れ切ってしまい、販売員は本来の力を発揮できない。ホスピタリティが低下してしまう。お客さんに密度の濃いサービスを提供できれば、1時間の短縮くらいは取り戻せる。従業員満足を高めることは、顧客満足につながる。