2022年はコロナ禍こそ少し落ち着きを見せたものの、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻や中国での厳しい外出規制によるサプライチェーンの混乱、原料や燃料費の高騰、インフレの加速など、ファッション業界にとって厳しい経営環境が続いた。逆風の中、難しい舵取りを強いられた企業トップも多かったことだろう。ここでは、海外ラグジュアリーブランドやアパレルブランド、小売りなどを率いる最高経営責任者(CEO)や社長らの就任・退任のニュースの中から、編集部が厳選してピックアップ。月ごとにまとめて、今年を振り返る。
3月
「マイケル・コース」CEO、就任から7カ月で退任 後任は親会社の会長兼CEO
「ヴェルサーチェ(VERSACE)」「ジミー チュウ(JIMMY CHOO)」「マイケル・コース(MICHAEL KORS)」を擁するカプリ・ホールディングス(CAPRI HOLDINGS以下、カプリ)は、ジョシュア・シュルマン(Joshua Schulman)=マイケル・コース最高経営責任者(CEO)が退任すると発表した。
カプリは2021年8月、シュルマン=マイケル・コースCEOを同職に任命すると同時に、22年9月には同氏がカプリのCEOに就任することを発表。これに伴い、ジョン・アイドル(John Idol)=カプリ会長兼CEOは会長職に専念する予定だったが、引き続きCEO職を兼任する。空席となるマイケル・コースのCEO職については、後任を探さず、アイドル会長兼CEOが兼任する。同氏はシュルマン=マイケル・コースCEOの前にも同職を兼任していた。
「マイケル・コース」CEO、就任から7カ月で退任 後任は親会社の会長兼CEO
アレキサンダー・マックイーンが新CEOを任命 2022年5月に就任
ケリング(KERING)は、傘下のブランド、アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)の最高経営責任者(CEO)にジャンフィリッポ・テスタ(Gianfilippo Testa)を任命した。現職のエマニュエル・ギンヅベルジュ(Emmanuel Gintzburger)CEOの退任に伴い、5月から後任を務める。なお、ギンヅベルジュCEOは「ヴェルサーチェ(VERSACE)」を運営するジャンニ・ヴェルサーチェ(GIANNI VERSACE)のCEOに就任する。
アレキサンダー・マックイーンが新CEOを任命 2022年5月に就任
4月
JDドットコム、CEOが退任 後任は社長が昇格
中国第2位のEC企業JDドットコム(JD.COM)は4月7日、劉強東=創業者兼最高経営責任者(CEO)がCEO職を退任したと発表した。後任には徐雷社長が同日付で就任した。
劉創業者は議決権の約77%を保有しており、引き続き取締役会の会長を務める。今後は長期的な戦略策定や若手の育成、地方事業の活性化に専念するという。徐新CEOは47歳。2009年にJDドットコムに入社し、チーフ・マーケティング・オフィサーやリテール事業のCEOなどを務め、21年9月に社長に就任した。その頃から、日々の経営は同氏が担っていたと見られている。
フルラのCEO、就任から1年余りで退任
フルラ(FURLA)は4月21日、マウロ・サバティーニ(Mauro Sabatini)最高経営責任者(CEO)の退任を発表した。同氏は2021年1月に同職に就任したばかりで、1年余りでの退任となる。後任は未定で、当面はデイビス・バセット(Devis Bassetto)最高執行責任者が同社を率いる。
なお、同社は9月22日に新たなCEOにジョルジオ・プレスカ(Giorgio Presca)を任命。プレスカ新CEOはファッション業界で30年以上の経験を持ち、「ゴールデン グース(GOLDEN GOOSE)」「シチズンズ・オブ・ヒューマニティ(CITIZENS OF HUMANITY)」「ジェオックス(GEOX)」などのCEOを歴任。直近では「クラークス(CLARKS)」のCEOを務めていた。
5月
「エディー・バウアー」、CEOが退任
「エディー・バウアー(EDDIE BAUER)」は、ダミアン・ファン(Damien Huang)最高経営責任者(CEO)が13日付で退任すると発表した。後任は未定。
ファンCEOは「パタゴニア(PATAGONIA)」でデザイン&マーチャンダイジング部門のバイス・プレジデントや、「ノースフェイス(NORTHFACE)」でプロダクト・ディレクターなどを務めた。2012年に「エディー・バウアー」に入社。パフォーマンスウエアやアウターに注力し、アウトドア体験の普及に努め、ブランドをけん引した。
なお、「エディー・バウアー」を擁する米ブランドマネジメント企業のオーセンティック・ブランズ・グループ(AUTHENTIC BRANDS GROUP)とスパーク・グループ(SPARC GROUP)は9月、同ブランドの新たなCEOとしてVFコーポレーション(VF CORPORATION)カナダ事業のジェネラル・マネジャーを務めていたティム・バントル(Tim Bantle)を任命した。
アンダーアーマーの社長兼CEOが退任へ 後任は未定、COOが暫定的に昇格
アンダーアーマー(UNDER ARMOUR)は、パトリック・フリスク(Patrik Frisk)社長兼最高経営責任者(CEO)が6月1日付で退任することを発表した。同氏は9月1日までアドバイザーとして同社に残る。後任は未定で、当面はコリン・ブラウン(Colin Browne)最高執行責任者(COO)が暫定的に社長兼CEOを務める。
フリスク前社長兼CEOは、2017年7月に社長兼COOとしてアンダーアーマーに入社。創業者であるケビン・プランク(Kevin Plank)前社長兼CEOがエグゼクティブチェアマン兼ブランドチーフに就任したことに伴い、20年1月に現職に昇格した。
アンダーアーマーの社長兼CEOが退任へ 後任は未定、COOが暫定的に昇格
「ジャックムス」のCEOに、「パコ ラバンヌ」の前トップが就任 ビューティに進出か
ジャックムス(JACQUEMUS)の最高経営責任者(CEO)に、パコ ラバンヌ(PACO RABANNE)のバスティアン・ダグザン(Bastien Daguzan)前ジェネラル・ディレクターが5月20日付で就任した。これまでは創業者のサイモン・ポート・ジャックムス(Simon Porte Jacquemus)=クリエティブ・ディレクターがCEO職も兼任していた。
ダグザン新CEOは、1984年フランス生まれ。2009年から13年までクリス ヴァン アッシュ(KRIS VAN ASSCHE)でデベロップメント・ディレクターを務めた後、13年にルメール(LEMAIRE)のCEOに就任。17年3月にプーチ(PUIG)が擁するパコ ラバンヌのジェネラル・ディレクターに就任してからは、同ブランドのリブランディングを指揮し、2年間で売り上げを3倍に伸ばした。また、アパレルとフレグランスの連携を促す“ワン・ラバンヌ(ONE RABANNE)”戦略を実施し、19年にはフレグランス“パコレクション(PACOLLECTION)”をローンチした。
「ジャックムス」のCEOに、「パコ ラバンヌ」の前トップが就任 ビューティに進出か
6月
スワロフスキーがCEOを任命 創業家外のトップは127年の歴史で初
オーストリアを拠点とするクリスタルメーカーのスワロフスキー(SWAROVSKI)は、最高経営責任者にアレクシス・ナサード(Alexis Nasard)を任命した。7月4日付で就任の予定。同社は127年の歴史を持つが、創業家外からトップが選ばれるのは今回が初となる。
同社は1895年にダニエル・スワロフスキー(Daniel Swarovski)が創業。これまで一族経営が続き、2020年4月から21年10月末まで同社を率いていたロバート・ブッフバウアー(Robert Buchbauer)前CEOも一族の出身だ。しかし同社はここ数年、新たな成長戦略に沿った事業再編に取り組んでおり、オーナーと会社の経営を切り分けることもその中に含まれているという。なお、ブッフバウアー前CEOは退任後も取締役会の一員として同社に残っている。
スワロフスキーがCEOを任命 創業家外のトップは127年の歴史で初
リブランディング進める「エミリオ・プッチ」に新CEO就任 「ラフ・シモンズ」や「アクネ ストゥディオズ」出身者
LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)傘下のエミリオ・プッチ(EMILIO PUCCI)に、サール・デブラウエレ(Saar Debrouwere)新最高経営責任者(CEO)が就任する。同ブランドは4月に、カミーユ・ミチェリ(Camille Miceli)新アーティスティック・ディレクターによる初のコレクションを発表。「“リゾートマインド”なカプセル・コレクションを毎月ドロップする体制」に移行しており、デブラウエレ新CEOは7月から経営に携わる。
リブランディング進める「エミリオ・プッチ」に新CEO就任 「ラフ・シモンズ」や「アクネ ストゥディオズ」出身者
7月
米ギャップの社長兼CEOが退任 就任から2年余りで
「ギャップ(GAP)」「バナナ・リパブリック(BANANA REPUBLIC)」「オールドネイビー(OLD NAVY)」「アスレタ(ATHLETA)」などを擁する米ギャップは7月11日、ソニア・シンガル(Sonia Syngal)社長兼最高経営責任者(CEO)の退任を発表した。後任を選定する間は、暫定的にボブ・マーティン(Bob Martin)会長がCEOを務める。
シンガル前社長兼CEOは2004年にギャップに入社した。ヨーロッパ事業のマネジング・ディレクターや、国際部門および国際アウトレット部門のシニア・バイス・プレジデントなどの要職を歴任し、16年に「オールドネイビー」の社長兼CEOに就任。以降、3年間で同ブランドの北米とメキシコにおける店舗数を1200店以上にまで拡大し、売り上げを70億ドル(約9520億円)から80億ドル(約1兆880億円)へと成長させた。20年3月にギャップの社長兼CEOに就任。主力ブランドである「ギャップ」の業績不振が長年続く中、同年10月には23年までの全社的な経営戦略である「パワープラン2023(POWER PLAN 2023)」を発表し、不採算店の整理や非主力事業の終了などの改革を進めたものの、コロナ禍の影響もあり、業績が期待通りに改善しなかった。
8月
アディダスのCEOが退任へ 後任は未定
アディダス(ADIDAS)は8月22日、カスパー・ローステッド(Kasper Rorsted)最高経営責任者(CEO)が退任することを発表した。後任は未定。引き継ぎをスムーズに行うため、同氏は後任が決定するまで現職に留まり、退任は2023年前半になる見込みだという。
同氏は16年1月、現職に就任。08から16年まではヘンケル(HENKEL)のCEOを務めていた。それ以前は、オラクル(ORACLE)やヒューレット・パッカード(HEWLETT PACKARD)で要職を歴任している。アディダスは20年8月、ローステッドCEOの任期を26年7月まで延長しているが、予定より早い退任となった。
10月
ラグジュアリーEC大手YNAPのCEOが退任へ 後任は暫定的に内部昇格
ラグジュアリーEC大手のユークス ネッタポルテ グループ(YOOX NET-A-PORTER GROUP以下、YNAP)は、ジョフロワ・レフェーヴル(Geoffroy Lefebvre)最高経営責任者(CEO)が退任することを発表した。後任は、YNAPが運営するEC「ネッタポルテ」「ミスターポーター(MR. PORTER)」「アウトネット(THE OUTNET)」のアリソン・ローニス(Alison Loehnis)社長が暫定的に務める。10月31日付で就任する。
また、YNAPは10月10日付で日本のジェネラル・マネージャーにフィリップ・ラリュー(Philippe Larrieu)が就任したことを発表した。同氏はシャネル(CHANEL)やロレアル(L'OREAL)などで要職を歴任した後、クラランス(CLARINS)にて日本の代表取締役社長を務めた。YNAPでは、傘下のEC「ネッタポルテ」「ミスターポーター(MR. PORTER)」「アウトネット(THE OUTNET)」「ユークス」の日本における事業運営を統括する。
ラグジュアリーEC大手YNAPのCEOが退任へ 後任は暫定的に内部昇格
11月
アディダス、新たなCEOとしてプーマのCEOを任命
アディダス(ADIDAS)は11月8日、カスパー・ローステッド(Kasper Rorsted)最高経営責任者(CEO)の後任として、プーマ(PUMA)のビョルン・グルデン(Bjorn Gulden)CEOを任命した。2023年1月1日付で就任する。ローステッドCEOが退任を発表した8月の時点では後任が未定だったため、同氏は23年前半まで現職にとどまる見込みだったが、グルデン新CEOの任命に伴い11月11日付でアディダスを離れる。グルデン新CEOの就任までは、ハーム・オルマイヤー(Harm Ohlmeyer)最高財務責任者が暫定的に同社を率いるという。
リーバイス、次期CEOとなる新たな社長を任命 チップ・バーグCEOは1年半以内に退任へ
リーバイ・ストラウス(LEVI STRAUSS以下、リーバイス)は11月8日、社長として米小売大手コールズ(KOHL'S)のミシェル・ガス(Michelle Gass)最高経営責任者(CEO)を任命した。2023年1月2日に就任し、1年半以内にチップ・バーグ(Chip Bergh)CEOの後任に就く予定だという。なお、バーグCEOは、「リーバイスでの仕事を心から愛しているが、私は先日65歳になったし、もう11年にわたってCEOを務めている」と述べ、トップ交代の時期であることを示した。
リーバイス、次期CEOとなる新たな社長を任命 チップ・バーグCEOは1年半以内に退任へ
12月
「ヴァンズ」や「シュプリーム」親会社のCEOが退任
「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」「ヴァンズ(VANS)」「ティンバーランド(TIMBERLAND)」「シュプリーム(SUPREME)」などを擁するVFコーポレーション(VF CORPORATION以下、VFC)は12月5日、スティーブ・レンドル(Steve Rendle)会長兼社長兼最高経営責任者(CEO)の退任を発表した。後任は未定で、当面はベンノ・ドーレ(Benno Dorer)筆頭独立社外取締役が暫定社長兼CEOを、リチャード・カルッチ(Richard Carucci)取締役が暫定会長を務める。
プラダ、次期CEOを任命へ いずれ息子を後継者とする第一歩として
プラダ グループ(PRADA GROUP)は、2023年1月26日に開催される取締役会で、LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)のアンドレア・グエラ(Andrea Guerra)前戦略開発シニア・アドバイザーを次期最高経営責任者(CEO)として推薦することを発表した。
これに伴い、パトリツィオ・ベルテッリ(Patrizio Bertelli)共同CEOは会長に、パオロ・ザンノーニ(Paolo Zannoni )会長はエグゼクティブ・デピュティー・チェアマンおよびプラダ ホールディング(PRADA HOLDING)の会長に推薦される予定。なお、ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)共同CEOも同職から退任するが、取締役会に留まり、引き続き「プラダ」の共同クリエイティブ・ディレクターと「ミュウミュウ(MIU MIU)」のクリエイティブ・ディレクターを務める。
プラダ、次期CEOを任命へ いずれ息子を後継者とする第一歩として
「ルイ・ヴィトン」の親会社、一族支配を強化 ベルナール・アルノー会長の長男が持株会社のCEOに
LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)のベルナール・アルノー(Bernard Arnault)会長兼最高経営責任者(CEO)の一族による持株会社クリスチャン ディオールSE(CHRISTIAN DIOR SE)は、シドニー・トレダノ(Sidney Toledano)CEOの退任に伴い、アントワン・アルノー(Antoine Arnault)LVMH ヘッド・オブ・コミュニケーション&イメージを新たなCEO兼副会長に任命した。なお、トレダノ前CEOは、引き続きLVMHファッショングループ(LVMH FASHION GROUP)の会長兼CEOを務める。
クリスチャン ディオールSEは、アルノ―会長兼CEO一族の主要な持株会社、フィナンシエール・アガシュ(FINANCIERE AGACHE)の傘下。フィナンシエール・アガシュはクリスチャン ディオールSEの株式資本の97.5%を保有しており、そのクリスチャン ディオールSEは、2021年12月末の時点でLVMHの株式資本41%と議決権の56%を保有している。
「ルイ・ヴィトン」の親会社、一族支配を強化 ベルナール・アルノー会長の長男が持株会社のCEOに
アンダーアーマー、新CEOに米ホテル大手マリオットの社長を任命
アンダーアーマー(UNDER ARMOUR)は、新たな社長兼最高経営責任者(CEO)として、大手ホテルチェーン米マリオット・インターナショナル(MARRIOTT INTERNATIONAL以下、マリオット)のステファニー・リナーツ(Stephanie Linnartz)社長を任命した。同氏は、6月1日に退任したパトリック・フリスク(Patrik Frisk)前社長兼CEOの後任となる。マリオットを2023年2月24日に離れ、同月27日にアンダーアーマーに加わる予定。なお、今回の人事に伴い、コリン・ブラウン(Colin Browne)暫定社長兼CEOは以前の最高執行責任者職に戻る。