NHKでパラリンピックのレポーターや、「あさイチ」の美容にまつわるコーナーでレポーターを担当し、「大ちゃん」の愛称で親しまれる三上大進さん。「生まれつきの左手の障がいが、美容に興味をもつきっかけになり、ビューティを好きになれた。美容を好きな私が個性」と語る三上さんは、実は日本ロレアル、ロクシタン ジャポンでキャリアを積んだ美容業界人だ。そんな自身のバックグラウンドを生かし、2021年11月には自身のスキンケアブランド「dr365(ドクター365)」を立ち上げた。たくさんの人の肌悩みに寄り添いながら活躍の場を広げる三上さんに、これまでのキャリアや「dr365」の立ち上げ秘話を聞いた。
「美容を好きな私」が個性
WWDJAPAN(以下、WWD):まず、三上さんの経歴を教えてください。
三上大進(以下、三上さん):新卒で日本ロレアルに入社して、ラグジュアリーブランドのスキンケアカテゴリーのマーケティングを担当しました。その後、ロクシタンジャポンに転職。製品開発とマーケティングに携わりました。そこから、2018年にNHKに入局。パラリンピックや、「あさイチ」の美容コーナーで4年ほどレポーターを担当しました。
WWD:三上さんといえば、パラリンピックのレポーターというイメージがある人も多いのでは。そもそも化粧品業界に携わるようになったきっかけは?
三上:生まれたときから左手に障がいがあり、中高生ぐらいの二次成長が始まり多感なときは、周りとは違う自分の体の特徴にすごく目がいって……。私の指はいつまで経っても生えてこなくて、一生この姿だと思うと、ほかの人と同じスタートラインに立てていないような気持ちで日々を過ごしていました。私の場合は左手を簡単に隠すこともできちゃうけれども、左手の指が足りないのなら、それ以外のところをかんぺきにきれいにすれば、もしかしたら人はそっちを見てくれるんじゃないかと思ったんです。そんなきっかけでスキンケアにお金をかけ始めました。お小遣いやお年玉は全てスキンケアやヘアケアに費やしましたね。今振り返ると、「左手のコンプレックスのせいでかわいそう」って思われるかもしれないけれど、全然そんなことはないんですよ。「左手の障がいがあることが個性」なのではなくて、左手の障がいがあったからこそ、自分が美容に興味をもって、ビューティを好きになれたんです。「美容を好きな自分」が個性であり、その個性に出合わせてくれたのが左手だと思っています。
WWD:化粧品会社のマーケターから、レポーターへと大きな転身を遂げた背景は?
三上:パラリンピックのレポーター・キャスターを募集していて、友人に応募してみてはと言われたんです。当時は会社員だったのでレポーターではなく、ボランティアスタッフとしてやりたいと思っていた通訳スタッフに応募しました。しかし縁があってメインのリポーターに任命していただくことになって。ロクシタンジャポンの上司から「“2020”は人生に1度しかないもの。マーケティングに携わっているなら、1度しかない“2020”というプロダクトは絶対に逃しちゃダメ」と素敵なアドバイスをいただいて、背中を押してもらいました。左手のコンプレックスと向き合える機会は2度と来ないかもしれないという思いとも重なって、NHKのレポーターになったんです。
WWD:「あさイチ」では、美容コーナーのレポーターも担当していたんですね。
三上:そうなんです。実はこの経験が「dr365」の立ち上げの理由の一つです。化粧品会社でマーケティングに携わってきましたが、みなさんがどんな肌悩みを持っていて、何に困っていて、どのように解決したいのか、視聴者の生の声を聞く機会に多く恵まれました。
WWD:もう1つの理由は?
三上:もう1つの理由は、インスタグラムでのライブ配信です。コロナ禍でライブ配信が盛り上がったときに、お肌に関するお悩み相談コーナーをやりました。コロナ禍のマスク荒れや、生活リズムの乱れからお肌に悩んでいる人が多いということを改めて実感しました。みんなに「私がスキンケアをプロデュースしたらどうかしら」って聞いたところ、「今までたくさんのお肌のお悩み相談にのってくれた大ちゃんが作ってくれるなら使ってみたい!」と言ってくれたので思い立ちました。
原料調達から取り組むほど
徹底的に中身にこだわった「dr365」
WWD:「dr365」でこだわったのはどんなところ?
三上:ビューティに携わってきたバックグラウンドがあり、たくさんの悩みに触れてきたからこそ、とにかく中身にこだわりたいという思いが強かったです。皮膚科医の先生に監修してもらい、処方にはとにかくこだわりました。まず8つのフリー処方(1.アルコールフリー、2.合成香料フリー、3.合成着色料フリー、4.石油由来界面活性剤フリー、5.動物由来成分フリー、6.鉱物油フリー、7.光毒性フリー、8.パラベンフリー)は必ず実現させたかったところ。さらに、より多くの人に使ってもらえるように、敏感肌テストやアレルギーテスト、ノンコメドジェニックステスト、スティングングテスト、4週間の連用試験もクリアしています。原料1つ1つに関しても、日本国内に入ってきていないものは海外の原料会社に直談判して、OEM会社と二人三脚で原料調達から試行錯誤しました。安全性が高くて、エビデンスがしっかりと取れていて、かつ皮膚刺激が少ない原材料で効果のある商品を作りたいと思ってできたのが、「dr365」です。
WWD:特に毛穴ケアに重きを置いたのは?
三上:どんな肌悩みに向けて開発しようか考えたときに、視聴者やインスタグラムのフォロワーの多くが、いずれの世代でも“毛穴”悩まされている人が多いことに気がつきました。若いときは皮脂による毛穴の開き、年齢を重ねると乾燥で開いた毛穴やたるみ毛穴など、年齢に応じてさまざまな悩みとして毛穴が登場してくるのです。そして、これほど毛穴の悩みが顕在化していて世の中には毛穴ケア商品がたくさんあるのに、悩みがなくならないのはなぜかと考えたときに、寄せられる意見の多くは「毎日使い続けられる価格で納得できる製品に出合えない」という意見でした。より高い効果を期待できる美容液に関してみてみれば、確かに市場で最も厚い価格層は1万円以上から。なかなか毎日無理なく使い続けられるものが豊富ではありません。自分が作るのであれば、コストの嵩む高価なパッケージや宣伝広告を諦め、その代わり高機能でも毎日使いやすい価格帯にしたいという思いがありました。
WWD:ブランドを立ち上げて、一番苦労したことは?
三上:自分で立ち上げた会社で、初めてのモノ作り。最初に用意できる数量はかなり限られていました。発売直後アクセスが集中して、ECサイトがサーバーダウンしてしまったんです。できる限り手を尽くしてサーバーを修復しましたが、2週間連続でサーバーダウン。ようやく作り上げたのにありがたい反響で、大炎上してしまいました。出すたびに完売を重ねて、在庫が安定するまで4カ月ほどかかりました。
WWD:好調の要因をどのように分析する?
三上:ポジティブな部分だけでなく、ネガティブな部分も包み隠さず全部言っちゃうところ。化粧水の発売前にインスタグラムのストーリーでQ&Aを募ったときに、「よくない意見も教えてほしい」と言われたので、包み隠さずに話してみたんです。全員が全員好きなはずはないし、悪い意見も尊重すべきだと思ったからこそ伝えました。実はそれを見て購入してくれた人が多かったんです。人それぞれ合う合わないはあるし、肌悩みは毎日増えていくもの。けれども毎日皮膚科には通えません。「dr365」は毎日使ってもらえる処方箋みたいな存在でありたくて、きれいな部分だけでは毎日寄り添えるブランドにはなれないと思ったから、生の部分も出していこうと思っています。
WWD:今後の計画は?
三上:国際情勢で原材料の確保が非常に厳しい状況もありましたが、もっと良い成分にアップグレードした上で安定して調達ができるようになりました。これによって在庫の安定もかなっています。目標を達成できた分、売り上げ金の一部をウクライナに寄付しました。必要としているところへ還元するというあり方をこれからも大切にしたいと考えています。そしてお客さまにとっては、1カ月分のスキンケアが毎月届く“処方箋”のようなブランドでいたいと願っています。現在は導入美容液"V.C.プレエッセンス"と化粧水"V.C.セラムインローション"の2アイテムですが、今後は洗顔や乳液を含めた、基本的な4つのステップがそろうように研究開発を進めています。
WWD:最後に三上さんご自身の目標を教えて。
三上:10代はとにかくビューティに救われ続けてきました。肌や爪、髪をきれいにすると褒めてもらえて本当に救われたんです。だから20代はビューティを知ろうと思いました。30代になってビューティを広める一翼を担えるようになれたのがとにかくうれしいんです。なので30代後半に向かってはビューティの価値や楽しさをもっと多くの人に届けられる存在になりたいと思っています。ビューティを自分なりの音符に乗せて届けたいですね。40代は自分の中では考えているのですが、まだ秘密です!!!