世界各国の王室に連なるロイヤルレディーたちは日々、言動のみならずファッションにもたくさんの視線を注がれる立場です。当然、審美眼や着こなしのセンスも洗練されていて、彼女たちの装いがますます関心を集める流れになっています。そうしたトップクラスのおしゃれ上手は、日本発や日本人デザイナーのブランドもまとっています。
日本にゆかりのブランドは、高品質とデザイン性で一目置かれる存在です。巧みな手仕事や、オンリーワンな素材のクオリティーなどが世界の王室女性たちから選ばれる理由。中でも、日本の皇室との交流が長く深い英国王室は日本文化への理解も格別です。今回は英国ロイヤルレディーたちが選んだ、日本にゆかりのアイテムを取り入れた装いを紹介します。
3代に受け継がれたジャパニーズパール
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英国のエリザベス女王(Queen ElizabethⅡ)の葬儀でキャサリン皇太子妃(Princess of Wales以下、キャサリン妃)が選んだのは、4連のパール・チョーカーでした。こちらの名前は“ジャパニーズ・パール・チョーカー”。その名の通り、1975年の女王初来日に合わせて、日本政府が贈った養殖真珠を使っています。英国内の宝石店に頼んで、4連のチョーカーに仕上げてもらったそうです。女王夫妻は来日の際、世界初の真珠養殖に成功した三重県鳥羽市のミキモト真珠島を訪ねています。
このパール・チョーカーは、かつて故ダイアナ・フランセス(Diana Frances)元英国皇太子妃(以下、ダイアナ妃)も着用していました。キャサリン妃の夫、ウィリアム皇太子(William, Prince of Wales)の母ダイアナ妃の思い出も一緒にまとうことになる、王室にゆかりの深いネックレスを選ぶところにも、キャサリン妃の心配りの細やかさがうかがえます。葬儀には異例なほどの目立ち具合が話題になりましたが、ちゃんと理由があってのチョイス。日本が誇る最高級パールならではの高貴なつやめきが、とむらいの装いに品格をまとわせました。
伝統の帽子ルックに丁寧な手仕事
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英国王室とつながりの深い、日本人デザイナーのブランドとしては、地元・英国の帽子ブランド「ミサハラダ(MISAHARADA)」が有名です。原田美砂デザイナーが1998年にスタートしたブランドで、エリザベス女王をはじめとするロイヤルファミリーにも愛用されてきました。
2002年の即位50周年記念式典でエリザベス女王がかぶったのは、ブルーが鮮やかな、つばが広めのタイプ。手仕事のディテールが見事で、高貴な雰囲気を顔周りに添えています。大ぶりのサイズ感が満面の笑顔を、いっそうチャーミングに引き立てています。
選ばれた色は王室を象徴する特別な色“ロイヤルブルー”を思わせる青。淡いトーンで彩ったウォーターカラーのコートドレスとの“濃淡コンビネーション”が生まれて、装いに深みをもたらしました。帽子中央部のクラウン(高い部分)とつばとの傾きを少しずらしてあるのも、クラフトマンシップを感じさせるディテールです。
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「ミサハラダ」の帽子は華やかなエレガンスをまとうデザインが英国上流階級の方々から支持されています。帽子を自己表現の道具と位置付け、オートクチュールテイストのアイテムを割と求めやすい価格で提供しているのもこのブランドの魅力。王室関係者にも愛用者が多く、チャールズ3世英新国王(King Charles III)の姪にあたるユージェニー王女(Princess Eugenie of York)もその一人です。
ユージェニー王女は18年に「ミサハラダ」のカンカン帽(ボーターハット)をかぶった姿を披露しました。この年に結婚した王女は恋愛ムードが盛り上がっていた時期で、この帽子には“LOVE”の文字が描き込まれています。チュール状のレース飾りがあしらわれ、レースが顔にもかかって、ロイヤルな気品が漂っています。
公式なセレモニーでは、ダークトーンの装いが多くなりますが、このような手仕事技のディテールが施された帽子は、ドレッシーな服装にも個性を寄り添わせます。英国王室では伝統的に帽子やヘッドアクセサリーが好まれていて、格式の高い競馬ロイヤルアスコット(Royal Ascot)では毎年、大胆な帽子ルックが話題を集めるほどです。
日本デニムを“きれいめカジュアル”にアレンジ
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日本のデニム生地は、クオリティーの高さで世界的に知られています。主な産地の児島(岡山県倉敷市)には、欧米の有力ブランドから注文が集まるほど。日本ブランドのジーンズにも王室関係者や著名人のファンが大勢います。
サセックス公爵ハリー王子(Prince Harry)の妻で、元俳優のメーガン・マークル(Meghan Markle)=サセックス公爵夫人(以下、メーガン妃)は国際スポーツ大会「インヴィクタス・ゲーム(Invictus Games)」を観戦した際、日本ブランド「マウジー(MOUSSY)」のジーンズを着用しました。ラグジュアリーブランドを好むイメージの強いメーガン妃ですが、この日はスポーツイベントとあって、気取らないスタイリングで登場。カジュアル寄りの着こなしも得意なところを印象付けていました。
ジーンズに合わせたのは、「シャネル(CHANEL)」の黒ツイードジャケットで、デニムルックを“きれいめ”テイストに整えています。靴も「シャネル」のシグネチャー的なバイカラーのパンプスをチョイス。イギリスの眼鏡ブランド「リンダ ファロー(LINDA FARROW)」のサングラスで、英国とのつながりも示しています。
ヨーロッパの王室では自国ブランドを優先的に選ぶしきたりがあって、なかなか日本ブランドのアイテムをまとってもらえる機会は少ないという事情があります。でも、今回紹介したように、英国王室だけを見ても、公私のさまざまな場面で日本ブランドが取り入れられているのはうれしく誇らしいことです。日本ブランドがパリやミラノのファッションウイークで存在感を強める中、日本のデザインやものづくりが、ロイヤルメンバーからさらに取り入れてもらえる期待も広がりそうです。