ガイ・ベリーマン/「アプライド アート フォームズ」クリエイティブ・ディレクター
PROFILE:1978年生まれスコットランド出身。ロンドン大学で機械工学と建築学を学ぶ中で、クリス・マーティンらと出会いロックバンド、コールドプレイを97年に結成。ベーシストとしてデビューからバンドに在籍している。バンドは2000年のデビューアルバム「パラシューツ」が世界的にヒットし、これまで発表した全7枚のアルバム総セールスは8000万枚以上を記録。ベリーマンは多忙な音楽活動の傍ら、自身のファッションブランド「アプライド アート フォームズ」を20年に立ち上げた
四半世紀近くロックシーンをけん引してきた世界的人気バンドの一つ、コールドプレイ(Coldplay)。ガイ・ベリーマン(Guy Berryman)は、同バンドを1998年のデビューから支えてきたベーシストであり、ビンテージ収集家であり、自動車専門誌「ロードラット(THE ROAD RAT)」の創刊者であり、アパレルブランド「アプライド アート フォームズ(APPLIED ART FORMS、以下AAF)」のクリエイティブ・ディレクターだ。
ベリーマンはもともとプロダクトデザインの道に進もうとしていたが、ミュージシャンとして成功を納めてからもその情熱は消えることはなく、2020年に自ら「AAF」を設立。幼い頃から魅了されてきたミリタリーウエアの要素を軸に、どれも長く愛用することを考えたたビンテージ収集家ならではのアイテムをそろえる。
「AAF」がドーバー ストリート マーケット ギンザ(DOVER STREET MARKET GINZA)での取り扱いがスタートすることを記念し、2022年11月にベリーマンが来日。本人の口から「AAF」の成り立ちやこだわりなどを語ってもらった。
ーー小さい頃からファッションに興味があったのでしょうか?
ガイ・ベリーマン(以下、ベリーマン):特定のブランドが好きというわけではなくて、10代の頃からビンテージアイテムが好きで、買い漁って自分なりのアーカイブコレクションを作っていたね。ただ、何かをクリエイションすることが一番好きだったから、当時は車や建築、インテリア関連のプロダクトデザインや手を使ってモノを作る仕事に就くために、ロンドン大学で機械工学と建築学を学んだよ。
ーーミュージシャンとして成功した後、2020年に「AAF」を立ち上げた経緯を教えてください。
ベリーマン:ミュージシャンとして20年以上走り続けてきたけど、やはり大学でデザインを学んだことを生かして何かを作りたい、という強い思いを抱き続けていた。そして、2年前のパンデミックのタイミングで、この思いを過去のものとして捨てるか、それともものづくりにチャレンジするかを考え、エネルギーを注ぐを決心をしたんだ。あとは、妻がオランダ出身だからよくアムステルダムに行くんだけど、今のチームスタッフと出会ったのも大きいね。
ーー構想は以前からあったのでしょうか?
ベリーマン:そうだね。実は正式に立ち上げる前に、ファッションのバックグラウンドを持っていないのにどうしても作ってみたくて、誰かに見せるわけではなく、自分が着るためだけにフルラインアップのアイテムを自作したことがあるんだ。でも、とにかくその出来が悪くてね(笑)。そんな経験があったからこそ、当初の構想をいったん白紙にして、クオリティーが何よりも重要だと再認識したよ。世界には数え切れないほどのブランドがある中で、僕がブランドを世に出すならば、クオリティーにこだわる必要がある。みんなに振り向いてもらうためには、いい生地やいい職人をそろえ、ベストクオリティーを常に保たないといけないんだ。
ーーアイテムの多くはミリタリーウエアに着想しているそうですが、デザインソースは自分が集めてきたアーカイブが中心ですか?
ベリーマン:ほぼ全て、昔から自分で集めてきたビンテージのアーカイブだね。例えば、3つのアーカイブジャケットを用意して、実際に裁断して解体し、1つのアイテムに再構築する場合もあるよ。
ーーアーカイブの量はどれくらいあるんでしょうか?また、収集する際はイギリス陸軍やアメリカ空軍などのこだわりはありますか?
ベリーマン:イングランドとオランダにそれぞれ保管場所があって、ジャケットもパンツも100以上あるから……自分でもどれくらいあるか分からないくらい(笑)。収集する時は、1940年代~60年代という年代以外は特に気にせず、デザインや生地が気に入れば関係なく集めているよ。あとは、ミリタリーウエアのビンテージだけじゃなくて、90年代の「ヘルムート ラング(HELMUT LANG)」や「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」も相当の量を持っている。彼らもビンテージを再構築して新しいアイテムを作り出していたから、それらを集めることでアプローチの仕方も学べるんだ。
ーー大学で学んだことは生かされていますか?
ベリーマン:建築から学んだ空間の利用や光の当たり方など、技術や考え方は生かせることが多いかな。ラフ・シモンズ(Raf SImons)も工業デザイン学校で建築を学んでいたしね。
ーーコレクションしているクラシックカーや、ツアーで訪れる海外の土地からインスピレーションを得ることは?
ベリーマン:1950~60年代のクラシックカーや建築、ミッドセンチュリー家具など、一般的に“デザイン”と呼ばれるものが好きなんだけど、クラシックカーからはさすがに難しいかな(笑)。国外に行くことはすごく刺激を受けるね。それに、絶対に見つけられないようなものを見つけるのが好きだから、どこに行っても絶対に古着屋やチャリティーショップには必ず足を運ぶ。トレジャーハンターのつもりで世界各地を訪れているよ。
ーー素材へのこだわりが特に強いそうですね。
ベリーマン:第二次世界大戦時にイギリス空軍のために作られた高機能素材のベンタイル(Ventile)をよく使用しているね。高密度で編んでいるから、コーティング加工していないのに水を弾いてくれるし、何よりも耐久性が高いから時間をかけて着込んでいくと、次第に色が変わっていく経年変化が楽しめるんだ。僕は、環境によって色が変化していく過程が好きで、「AAF」は全てのアイテムがロウデニムのように自分色に仕上げていく感覚に近いかもしれない。
ーー最新素材を使わないのも一種のこだわりですか?
ベリーマン:長年着ること、経年変化を楽しむことを考えると、ちょっと難しいからね。
ーーその着方・考え方は、今の時代にも合っていますよね。
ベリーマン:多くのブランドは、リサイクル素材を使うといったアプローチでサステナビリティを目指しているけど、僕は“いいデザインといい素材のアイテムを長く着ること”が一番のサステナビリティだと考えているよ。
ーーということは、シーズンごとの発表は考えていないのでしょうか?
ベリーマン:通常のファッションサイクルと合わせることは考えていない。半年後の新しいアイテムを発表し、半年前のものをセールするというサイクルは、僕にとっては理想的じゃないから。コレクションの変化は少しづつで、気に入ったアイテムは常に用意し必要に応じて色やディテールを変えるくらいだよ。
ーーコールドプレイのベーシストと「AAF」のクリエティブ・ディレクターは、それぞれどれぐらいの活動比率ですか?
ベリーマン:「AAF」での仕事はフルタイムのように感じる。ライブで世界中を回っていても、演奏中以外の時間は自由だから、アムステルダムにいるデザインチームと常にコミュニケーションを取っているように、どれだけ忙しくても情熱のあることへの時間は作れるんだ。コールドプレイと「AAF」のクリエイティブは、相互作用しながらバランス良くできているよ。
ーー今回の来日で、ミリタリーウエアを探す予定はありますか?
ベリーマン:(取材したタイミングは)来日したばかりだから、原宿で古着を見たり、「キャピタル(KAPITAL)」と「ビズビム(VISVIM)」のお店に行っただけだね。「ビズビム」はブランドの成り立ちや考え方、素材使いなどから親近感を覚えたよ。
ーー今後の展望は?
ベリーマン:次から次へとアイデアが浮かんでいるから、次のレベルへいけるように自分を駆り立てている最中だ。あるブランドとのコラボを考えているから楽しみにしていて。