ビューティ

中国で売れている大分・別府発ヘアケア「オンセンソウ」流の商品開発【連載 アジアのビューティ市場vol.2】

 大分・別府の温泉藻を使用したパーソナルケアブランド「オンセンソウ(ONSENSOU)」が中国で売れている。別府で温泉研究を行うサラビオ(SARABiO)温泉微生物研究所と、ブランド企画・海外販売代理事業を行うヴェラスが共同開発し、日本と中国で2019年7月に発売した。中国市場の売り上げは毎年50%増で安定成長しているといい、中国SNSでも話題になった。

 別府は3000近くの源泉があり、11種類ある療養泉のうち10種が集まる温泉都市。「オンセンソウ」は、豊富な温泉資源の研究から発見した新種の温泉藻と温泉酵母を使用する。石原爽ヴェラス代表は「日本はプロダクトアウトが主流だが、『オンセンソウ』はグローバルマーケットインで開発した。日本や中国市場だけでなく、世界で売れる日本製品を目指した」と話す。現在は中国本土のほか、北米、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、台湾などの国と地域で販売しており、売り上げの8割は中国本土が占めるという。

着目したのは抜け毛の悩み

 消費者ニーズを調査する中で目をつけたのが抜け毛の悩みだ。海外では男女問わず若い世代から抜け毛を気にする人が増えており、中国国家保健医療委員会のデータによると、中国では2億5000 万人以上、およそ6人に1人が脱毛に悩んでいる。そのうち69.8%が30歳未満だった。石原代表は「現代社会は生活リズムが悪くストレスが多い上、大気汚染、日焼けなど色々な原因があり、昔より抜け毛の悩みを持つ人が多い」と説明する。

 一方で、日本の抜け毛ケアはターゲットの年齢層が高めの男性向け製品が多い。そこで「オンセンソウ」は緑藻エキスや加水分解酵母エキスなど頭皮環境を整える成分を配合し、若い女性も日常的に使えるよう、香りやボトルにもこだわったヘアケア商品を開発した。

 中国で安定成長を続けているが、石原代表は「ベンチャー企業なので、大手のようなマーケティング費用はかけていない」と話す。それでも消費者に選ばれるのは、商品力が大きな理由だ。石原代表は「パーソナルケア商材なので使って良さが分かると継続につながりやすい。月によっては30%ほどがリピート購入だ」と語る。

 石原代表は特定の年齢層や属性をターゲットにするのではなく、あくまでもニーズに対して商品開発するという。そのため「オンセンソウ」のユーザーは20〜50代まで幅広い。「中国は全世界から商品が集まるため選択肢が多い。その上、消費者は成分や使い方の知識を持っており、本当にいい商品を出さなければ納得してくれない。ライバル商品と比べて価格や香り、見た目、ストーリー性など優位性がなければいけないし、効果が分かりやすいものが求められる」。

 商品の良さを理解してもらうために、使用感だけでなくエビデンスや開発技術力も必要だ。「オンセンソウ」の場合は独自の特許成分を配合するが、「温泉藻エキスは中国では無名な成分なので、消費者を教育する必要があった。消費者は新しいものを受け入れるマインドがあり、化粧品の成分の研究をするKOL(Key Opinion Leader)など説得力のある人に広めてもらった」という。美の象徴として有名な歴史上の人物、楊貴妃が温泉を好んでいたことから、中国内では温泉は肌にいいというイメージがある。温泉由来成分の中でも温泉藻という独自性を持つことが「オンセンソウ」のブランドストーリーとなった。

 また商品開発ではネット上の口コミ意見も取り入れており、エイベックス・エンタテインメントの「J47プロジェクト」が企画に参加した新作“ゴールデンシルクリペアシリーズ”は、ユーザーのダメージケア商品が欲しいという声を受けて開発した。リンスインシャンプーとスペシャルケアトリートメントの2種で、良さを感じやすい商品に仕上がったという。

商品を広めるピラミッド型のKOL起用

 各種メディアの活用も中国での拡大に役立った。石原代表は中国テレビ局の取材記者という経歴を持ち、ブランド初期から中国メディアで商品が取り上げられた。また中国SNS上のネットワークがあり、有名なKOLや芸能人と単発ではない、長期的な関係を持って商品の宣伝を依頼している。中国のトップライバーで“口紅王子”と呼ばれる李佳琦(Austin Li)は自ら「オンセンソウ」を購入して商品を気に入り、これまでに6回ライブ配信で販売を行った。1回の配信で約3万本ほどが売れた。

 李佳琦のような大きな影響力を持つ人や芸能人だけでなく、中規模のKOL、またKOC(Key Opinion Consumer)を起用することで、ピラミッド型に話題を広げているのが特徴だ。このような上から広げていく拡散方法は中国では定番のマーケティング手法となっている。

 「オンセンソウ」の場合は話題拡散の起点を日本にしており、「まずは日本から発信し、在日KOLとも取り組みを行う。次に中国本土のKOLに拡散してもらい、有名なインフルエンサーに紹介されたことをオフラインのマーケティングに使っている」という。またインフルエンサーだけでなく、消費者の口コミも重要視している。

 中国市場での安定成長を基盤に、「ヨーロッパなど新しい地域にも進出したい」と石原代表。「グローバルブランドは欧米がメインで、日本の中小企業はほとんど知られていない。『オンセンソウ』は世界で戦える商品を開発している。世界で有名な日本の中小企業のパーソナルケアブランドにしていきたい」と語った。

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